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僕の身体は妹に捧げる  作者: TARO


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第五話 日常に差す「影」

いきなり知っている名前がしかも接点の無い人物から発されたため、一瞬戸惑いを隠せなかった龍治だったが悟られないように淡々と言葉を紡ぐ。

「莉子さんですか…クラスが一緒なのですが、彼女に何か用ですか?」

男は当たりを引き当てたことに喜びを隠せないのか破顔したまま答えた。

「いえね、ちょっとした依頼でして。栖鳳の方のご依頼とあっちゃあ断るわけにも参りませんで。

 ここだけの話ですよ?」

既に当事者のひとりに聞かれているとも分からぬまま依頼者のことを漏らした男に対して龍治は安心感を得た。

「ご存知ならばどうか案内していただきたいのですが…お願いできますかね、学生さん」

そう頼む男に対して龍治はにべも無く答えた。

「その必要はありませんよ。どうぞお帰りください」

男は場の雰囲気が変わったことを悟ったが、龍治を凝視したまま動かない。

「僕は風紀委員(・・・・)ですので。学園内に不審人物がいたら排除しますよ?」

気が付くと、男は自らの足を無意識のうちに一歩後ろに下げていた。

―何かがおかしい。

 相手はただの学生のはず

  何故俺が下がっている

   おびえていると言うのかあの子供に?―


その間に男の身体は宙を舞っていた。

芝生に倒れこんだ男に二の句が告げられる。

「もう一度言う、敷地から出て行け。次はない」

男は動いた。龍治の方向に。

彼を動かせたのは彼が武装集団の一員であると言う自負からなのか、子供に投げられたと言う自尊心の裂傷からのものなのか。

誰も答えは分からない。

唯言えるのは一つだけ。

彼はもうこの世には存在せず、赤坂龍治はその場から去ったと言うことだけである。






授業が終わった頃龍治は教室に帰りついた。

全ての授業を終えた生徒たちが教室から出て行く。

その波に乗って出てきた莉子に声をかけた。

「莉子、帰ろうか」

その言葉に周囲を見回し、龍治を発見した莉子は嬉しそうに首を縦に振るのだった。


「兄様、ずるいですよ。莉子はずっと授業を受けていましたのよ。

 それなのに兄様と来たらほぼずっと外に出ていられたではありませんか」

むくれる莉子の頭を撫でながら龍治は笑って答えた。

「折角大手を振って授業中に出歩ける許可をもらったんだ。

 使える権利は使わないとね」

いやに正論ではあったが、そんなことで矛を収める莉子ではない。

「でも!でも、でも…寂しいんだもん」

実際は矛を突き出していたわけでもなかったようではあるが。

思わずまた頭を撫でてしまいそうになったが龍治はやんわりと叱責した。

「莉子、言葉遣い。ダメだよ?外ではきちんとしないと」

莉子はすぐに非を認めた。

その素直さが莉子の魅力の一つであると龍治は思っているが。

「ごめんなさい…」

頭を垂れた莉子を撫でてやる。龍治と目を合わせ莉子ははにかんだ。

機嫌を直した莉子を連れて寮へと帰るのだった。






寮に帰るとメイド長のミカが扉の前に立っていた。

「お帰りなさいませ。言伝を承っております」

思い当たる相手は一人しかない。

「早紀さんですね?後で掛け直しておきます。ありがとう」

龍治の返事を聞いて一礼しミカは去っていった。

部屋に戻り、携帯電話を手に取る。

電話帳に記載されている数少ない相手である赤坂早紀を選択しコールする。

数コール後電話に出たのは早紀ではなかった。

「はい、早紀の代理のものです」

「龍治です。その声は重山さんですね?」

重山は早紀に、というより赤坂家に昔から仕えている執事だ。

長年の付き合いで早紀の右腕的存在である。

「龍治君かね。早紀様は現在仕事にかかられておる。何か報告かね?」

「報告もあるのですが、早紀さんから連絡があったと聞きましたので」

「分かった。早紀様にお伝えしておこう。

 電話を持ち歩きたまえよ。後で早紀様がお掛けになるだろうからな」

了解と返事をして電話を切った。と、莉子が龍治のほうを見つめているのに気が付いた。

正確に言うと龍治のある一点を。

「お兄ちゃん。服に血がついてるよ?」

莉子が示したところを確認すると確かに付いていた。

「これはさっき少し怪我をしたんだ。もう血は止まってるし、大丈夫だよ」


嘘だ。

龍治は怪我などしていない。あの程度の戦闘で負傷するわけが無い。

この血はあの男の返り血。男の肉片から飛び散った飛沫が付いたのだ。


「お兄ちゃんがそう言うんだったら…。でも、ちゃんと言ってね?

 心配するじゃない」

特に深く追求することも無く、二人は食事をするために部屋を出た。






電話があったのは食事を終え部屋に帰ってきて莉子が入浴しているときだった。

「ごめんなさいね、仕事が立て込んでいたのよ」

「いえ、僕が電話を持ち歩いていなかったのがそもそものミスでした。すみません」

互いに淡々と言葉を継ぐ。

「それじゃあ、報告をしてもらおうかしら」

「はい、実は今日…」


龍治が男を排除したことを聞いた早紀は嘆息した。

「あのねぇ…そんな誰でも彼でも殺っちゃって言い訳じゃないのよ?

 私が本家に睨まれるわ」

「すみません…。でもこれはれっきとした正当防衛…

「正当防衛?誰が」

「莉子のですよ。僕は代行者に過ぎません」

「別に莉子ちゃんが排除してと頼んだわけじゃないでしょう。

 兎に角赤坂の名前が良くないほうに広がるのは良くないわ。自重して」

「分かりました」

一拍おいて龍治が尋ねた。

「ところで、早紀さんの御用というのは何でしょうか」

「…………」

「…………」

「ああ、忘れていたわ。

 報告の件と関係があるのだけれど、反赤坂派といわれる者たちが活動を始めたわ。

 もちろん狙われているのはあなたたち。次期後継者ですものね」

他人事のように話す早紀の話し方を龍治が聞きとがめることはなかった。

「それで、一応最小限の防衛をと言うことであなたの補助要員を派遣したわ。

 もともとその学校の人間なんだけれどね」

その時部屋の戸をノックする音が聞こえた。

丁度風呂上りの莉子が鍵を開ける。

そこにいたのは龍治のよく知る人物だった。

「こんばんわ。坂崎真由希です」

電話口から早紀が喋っていた。

「その人の名前は、坂崎真由希よ。安全のために同じ部屋で過ごしてもらうことになったから」

電話は切れた。

「よろしくお願いしますね、龍治さん。莉子さんも」


呆然としている莉子と対照的に笑みを浮かべる真由希を見て龍治は頭を抱えた。

第五話です。

やっと登場人物がつながり始めました…。大して人数いないけどね。

まだ出ますから問題ないです。

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