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第十五話 決着

クライマックスです。

伏線やらフラグやら色々あるのですが、完全には消化し切れておりません。

外伝の方もありますのでそちらで補完する予定です。

二人が知り合いの老爺・ハロルドの家にやってきてから一ヶ月が経った。

龍治は日課でもある周囲の見張りも兼ねた散歩に出てきていた。

莉子は現在ハロルドの家にて朝食の支度をしている。


「それにしても…意外と来ないんだな」

龍治が呟いた。


ここのところ往復でフルマラソンほどの距離を自転車で出掛けている龍治だが、未だに早紀の放った追っ手や坂崎家からの伏兵、そして栖鳳家からの刺客もやってきてはいない。

「まあ、色々考えてこの国に来たんだからそれくらいのアドバンテージはあってもいいか」

勿論龍治も馬鹿ではない。

今考えた三つの勢力のどれかがここにやってくるだけで国際問題となる。

わざわざ軍港の近くの一軒家に来たりはしないだろうと龍治は踏んだ。

概ねそのカンは外れてはいなかった。


この地域において莉子の容姿は極普通であった。

日本人であると言う身体の色を除けば髪はブロンド、目も蒼色をしているからだ。

一方龍治はやや異色だった

最近は日本人にも増えてきている茶髪であったが、龍治の髪はトーンダウンするくらい重みのある純黒でまさに純日本人風といった容姿であった。

しかし、この近辺に住んでいる農家の人たちは然程気にしてはいないようだった。

ハロルドの話曰くこの辺りは昔結構な数の東洋人がやってきていたとのことで、今更東洋人がいてもその血筋の者かと思われる程度だと言う。

それでも都市部に行けば充分注目されてしまうのであった。




日本とドイツの関係は現在は準緊張状態にある。

正史で言われる第二次世界大戦が起きた二十世紀半ばの際には共に同盟国として戦った友好国であった。

戦後およそ六、七十年ほどは友好関係が続いていたと言う。

しかし、時の国のトップが親アジア、脱欧米を掲げた為一気に関係が悪化。


更なる発展とそれに伴う世界市場の中枢への食い込みを狙った東アジア諸国の同盟により第三次大戦が勃発した。

その頃日本にいた学生の殆どは南太平洋付近にあった中立区域の学校にいたため、将来性がなくなってしまうということは避けられた。

しかし、当然のことながら数に勝るアジア連合も欧米の強大な力には及ばず、また日本にあった軍需産業を筆頭とする主力企業が既に南太平洋の研究基地に移転していたため敗戦。

国民の多くも諸外国に避難していた為日本における死亡者数は少なかった。

そのほかのアジア諸国も有力企業勤めの家庭などは世界各国に脱出していた。

残っていたのはそれぞれの国の軍部と政権だった。


また、脱出した人々は欧米諸国で満足な生活を行うことが出来たのも更なる被害の減少につながった。


世界的共通見解として今回の大戦は明らかなテロリズムとも言えるもので、国民もその戦争の不正当性を理解していたが故の出来事だった。


ここ、ドイツも積極的に一般人を受け入れた国の一つである。

場合によっては仮国籍を与えたりするなどの優遇ともいえる処置をとっていた。



だがしかし、赤坂家を筆頭とする旧家はその当時の戦争の主力。

軍艦などを貸与し、資金面においてもアジア連合軍の底力であった。

それ故、旧家の人間が大挙して入国すると言う事になれば再び開戦する可能性があることは悠に想像できただろう。

だから龍治達は密入国したのだったが。





龍治が市街で軽食を調達していたとき人々が慌しく通りを駆けていた。

皆一様に港のほうへ向かっている。

龍治も向かう事にしたのだった。




龍治は一目見て背を向けた。

そこにあったのは大きな軍艦。

軍艦の側部に描かれているのは日章旗。

今の日本で日章旗を掲げられるのは中枢海軍のみ。


やってきたのは赤坂家だった。


龍治は急いで乗ってきた自転車に乗り走り出した。

脇目も振らず一心に自転車を走らせている龍治は必死だった。


(何故軍艦が港に入れるんだ…?)

龍治は考えてみたがそもそも思考材料が少ない。

何より莉子にこのことを知らせなければ、と龍治は帰りを急ぐのだった。






莉子は料理をしていた。

龍治は和食が好きであったので本日の朝食は白飯、味噌汁、焼き魚であった。

「お兄ちゃん、何処まで行ったんだろう」

いつも龍治は莉子より起きるのが早い。

今日は偶々目覚めてしまい、それ以後二度寝をする気にもなれなかったが為の朝食の準備だった。


「リコ?お早う、早いんだね」

ハロルド爺がキッチンの莉子に声をかけた。

「おはよーおじいちゃん。もう少ししたらできるから待ってて」

返事を返しながら洗面台のもとへと向かったハロルドを見ていた莉子はふと窓の外を眺めた。


海辺の家。

莉子は昔から海辺に住む事に憧れていた。

赤坂の本家は田舎にあり、自然は豊富であったがやはり海はなかった。

父親と母親が希望して海沿いの家に住んだという事であった。


そんな海を眺めていた莉子は段々と近づいてくる小船を見つけた。


小船に乗っている男はなにやら喚いているようだった。

残念ながら莉子はドイツ語が話せないためハロルドを呼んだ。


「うむ…逃げろ逃げろ太陽の悪魔だ、と言っておるな」

「太陽の悪魔?」


「そうじゃ……イカン、お前さんたち早く逃げるんじゃ!」

どういうこと?と莉子は首を傾げた。


「太陽とは日、日の悪魔とかつてドイツ…いや世界で言われたのは泣く子も黙る、日本海軍じゃ!」

青褪めていうハロルドの言葉が莉子の思考に浸透するまでにはそう時間は掛からなかった。


「えっ!お兄ちゃんが!」

龍治がその辺りも予測してここに逃げてきた事を告げるとハロルドは頷いた。

「確かに、しかし何故ここに…」

龍治が家のドアを勢いよく開けるのと、大型船が入港できるような整備をされていない入り江に潜水艦が浮上したのは同時だった。




状況を理解した兄妹は動こうとした。

それを制止したのはハロルドだった。

「この道をまっすぐ行ったところの別の入り江に、船がある。

 それで、急いで帰るんだ」

兄妹は顔を見合わせた。

「大丈夫じゃ、さあ急げ!時間がないぞ」


急かされるように家を追い出された兄弟はハロルドのいう入り江に向かった。





「遅かったじゃない、待ちくたびれたわよ」

そこにいたのは、栖鳳緑子だった。


「全く、こんな時まで出番がないなんてひどいわ」

そんな事をブツブツ言いながら緑子は船の点検をしていた。


ようやく点検を終え、出航まで数分と言うところで緑子による説明があった。

曰く、軍艦で来たのは早紀で潜水艦で来たのは真由希であると言う事。

自分がこれまで軟禁状態に置かれていた事。

自らが兄妹の敵ではないこと等等。


やがて出航し、公海にでた所で現れたのは真由希だった。

「龍治さん!その人は裏切りです!

 貴方のご両親を殺したのはその人ですよ?」

真由希が拡声器を使って叫んだ。

それに言い返したのは緑子。

「貴女の嘘は聞き飽きたのよ。貴女が年齢を偽っている事はもう調査済みなの。

 いい加減に観念しなさいな」


そう言われて真由希は無言になった。


「分かりました、龍治さん。

 貴方の腕は私が握っているのですがよろしいのですか?」


意味が分からない、とばかりに龍治のほうを見つめる莉子と緑子。

龍治が腕を二三度ふると、金属部分が現れた。

驚愕した二人を見て高笑いする真由希。

「龍治さん、貴方親しい妹さんにも教えていなかったんですね」


嘲笑を浮かべる真由希。


「何にも分かっていらっしゃらない莉子さんたちのために説明しますわ。

 龍治さんは既に自らの腕を喪っていらっしゃるの。

 現在あるのは坂崎の技術で出来ている義手ですの。

 そして今…」



緑子が遮った。

「その技術は坂崎の、ではなくてアルフォードのでしょう?

 だったらデータバンクを漁れば解決するわ」

真由希が反論する。

「データバンクは開けられなかったっ!あの忌々しいアルフォードのセキュリティのせいで」


緑子が表情を和らげた。

「それが開けられる(・・・・・)としたら?」

「そんな事不可…まさか!?」


柔らかな表情から勝ち誇った笑みへと変わる。

「赤坂龍治及び赤坂莉子はアルフォードの落とし子。

 直系の系譜にも載らない最後のアルフォードの遺産相続者。

 流石の坂崎家と言えども系譜に載っていないんじゃあ仕方がないわね」


声を上げて笑い始めた緑子を真由希の叫び声が遮る。

「煩いッ!だったら何だというの!?力づくでも捕まえてしまえばいいのよ!」


緑子が笑い顔から呆れ顔へとその表情を変えた。

「まだまだ甘いわよ…。意味もなく洋上でそんな会話している訳が無いじゃない」


その場にいた人が聞いたのはヘリコプターの音。


龍治たちには聞こえなかったが、潜水艦内部では怒号が飛び交っていた。


「十二時の方向より対潜魚雷接近!回避しきれません!」

「三時の方向よりドイツ艦艇と思しき船影が複数!海域を早急に脱出する必要が!」


「報告!近海に多数の船艇反応が!国軍と思われます!」



龍治たちの目の前でそれは起こった。


爆音と共に傾き始めた潜水艦。

「どうせ…龍治さんは直に死んでしまうのですから…無駄な事を…」


拡声器から聞こえてきた声が真由希の最期の声だった。


我に返った莉子がボーっとしている龍治の左腕を掴んだ。

「お兄ちゃん!何で黙ってたの!?」

答えは莉子も分かってはいたがそれを認めてはいけないとどこかが警鐘を鳴らした。

「それは…お兄ちゃんだからだ」


龍治の殺し文句だった。


「緑子さん、さっきの攻撃は誰が…?」


それを告げようとしたとき緑子が何時の間にやら持っていた無線通信機に連絡が入った。

「緑子様!三時の方向より接近しているのはドイツ艦艇ではなく、赤坂の私兵です!」


その連絡を入れたのは潜水艦に対潜魚雷をぶつけた栖鳳の私兵SPAMの兵士だった。



「じゃあ何処だって言うの!?」

「日本海軍です!」


現在日本海軍を名乗れる私兵は一つしかない。

「早紀か…」


その声に呼応するかのように現れたのは日章旗を側部に描いた軍艦だった。


「随分久しぶりね、緑子」

最初に言葉を投げたのは早紀だった。

「あら、坂崎に命じて私を軟禁させたのは貴女じゃないの」

緑子の言葉に何を言っているのか分からないと言う表情を浮かべた早紀。

「………ああ、真由希ちゃんね?何かやったのかしら」

本当に何も知らないようだったので特に緑子は答えなかった。


「叔母さん、何の御用でここまで?」

次に問いかけたのは龍治。

「決まってるじゃない、貴方たちを殺すためよ」

憎悪を湛えた笑みで返す早紀に莉子は戦慄した。


「叔母さんの目的はデータバンクの開示じゃなかったんですか?」

龍治が更に聞いた。

早紀は何処か挑戦めいた表情で龍治たちを見ている。

「鋭いのね。流石お兄様の子供なだけはあるわ」


「ならやっぱり…」

「黙りなさい」

話そうとした莉子を遮ったのは早紀。


「貴女を見ると虫唾が走るのよ。

 あの忌々しい女の事をね、思い出してしまうから」


誰も気がつかない。

冷静なその口調の奥に潜む燃え滾る怒りを。

「大体…どうしてあの女がお兄様を…」


最初に気がついたのは戦場慣れしていた龍治だった。

「莉子!」

「忌々しい狐がぁ!」


龍治が莉子の前に立つのと早紀が撃ったのは同時だった。

龍治の左半身(・・・)が吹き飛んだ。


「お兄ちゃん!」

「龍治君!?」


二人が龍治の下に駆け寄ったときには緑子が待機させていたSPAMの艦艇が早紀の船を沈めていた。



この後一日半ほど一部洋上に流れ出た燃料を処理するために周辺諸国と栖鳳家が多額の費用と人材を使われることになるのだがそれはまた別の話。

次回が最終話です。


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