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第十話 莉子side

佳境です。

時間は少し遡る。


莉子は職員室にいた。授業に関する質問を担当教師にするために。

既に優等生と言う立場を築き上げつつあった莉子の質問に教師は一つ一つ答えていく。

やがて全ての質問を終えた莉子はふと職員室の時計を見た。

時間は最後の授業が終わって少し経っていた。

最後の授業が自習授業であったため莉子はこうして教師の下に直接質問をすることが出来たのだが。

「お兄ちゃんを待たせちゃダメだよね、うん」

教師に感謝の意を伝え職員室を出ようとした時入れ違いに入ってきた男と肩がぶつかった。

「す、すみません…」

莉子はすぐさま謝罪する。ところが男は何も言わず動かない。

男の顔を見たとき、莉子は男が驚愕の表情を浮かべていることに気が付いた。

「あの…何か?」


「赤坂君ッ!逃げたまえ!」

莉子の背中から先ほどまで談笑していた教師が叫んだ。

それと同時に固まっていた男の口が動いた。

「見つけた…」

莉子が気が付いたときには遅かった。

いつの間にやら男に抱えられていたのだ。

男は廊下を全力疾走する。SPAMの隊員だろうか、周りから男に対して静止を呼びかける声が聞こえる。

男はそれらを無視して進む。

と、おもむろに莉子を抱えていないほうの手で自身のポケットを探り始めた。

取り出したのは携帯電話だった。

「電話でも掛けるつもりなのかな…?」

未だフリーズしたままの思考で状況の推移を見つめる。

すると男はキーを押した。

間髪いれずに校舎が揺れた。窓から見ると丁度いる校舎の反対側の別棟から火が出ていた。

別棟の入り口からは生徒たちが教師の指示で逃げ出しているのが見える。


そこまで確認して、ようやく莉子は男が取り出したものが無線式の起爆装置であることに気が付いた。

目の前に下の階へ降りる階段が見えてくる。

再びキーを押そうとする男。

「や、止めなさいよ!人がまだいるのよ!?」

莉子は自分が出来ることを考えて、とりあえず男の腕の中で暴れた。

男は慌ててキーを押した。

それは、本来押されるはずの無かったキーであった。

莉子は自らの足場が無くなるのを感じた。






気が付くと莉子は座らされていた。

移動音が聞こえるところを踏まえると車だろうか。

視界が真っ暗だ。

口元に違和感を感じて確かめる。タオルだろうか、繊維状のものが口の中に入っている。

「ああ、これが猿轡かぁ…」

生まれてこの方そんなものを使われたことは無いので内心穏やかではない。

しかし、この状況においてもその発言ができると言うのは肝が据わっているというべきか。

もちろん、猿轡がある状況では何を喋っても相手には通じないのではあるが。

「お目覚めですか?」

前のほうから声が聞こえる。目隠しをされているので相手の姿は捉えられない。

「写真を取りますので少々お待ちを」

(写真…?)

首を傾げて見せた莉子に対して意図がわかったのか声は答えた。

「ああ、あなたのお兄様にお送りする写真ですよ。場所を気付かれては困るので今のうちにと」

兄への脅迫なのだろうか。

莉子は自分が誘拐される様な理由を持っているとは思わない。

赤坂家の次期、と言えば兄のことであるしなにより二人の存在はこれまで秘匿されていたのだ。

ということは、それらの裏事情を知っている人物の仕業であるとは容易に予測できた。

だが、解せない。

目的は何だろうか、裏事情を知っているところはどこも相当に裕福であるから金目当てではない。

仮にも名家の、それも赤坂の人間を拉致すると言うことは何にも増してデメリットが先行する。

楯突く相手が悪すぎるのだ。

「目的が…分からない。お兄ちゃん…」

むぐむぐとしか言うことの出来ない莉子を乗せて車は走っていく。






職員室で起きた出来事の仔細は龍治が発見した教師――莉子に逃げるように叫んだ――から確認を済ませた。

そして、男が何処の人間であるかも。

「何故なんだ、叔母さん!」

龍治は早紀への連絡を続けていた。






莉子を乗せた車は何処かへ到着した。

「莉子ちゃん、直接会うのは久しぶりね」

目隠しを外される前に莉子は声の主が誰か気が付いた。

「早紀…叔母さん?」

莉子の回答に早紀は微笑を浮かべた。

そして莉子の目隠しが外される。百聞は一見にしかずというが、目の前に叔母がいる事実を確認をして莉子は驚きを隠せなかった。

そんな莉子の目の前で早紀の電話が震えた。

「あら龍治君だわ…どうしたの?」

電話口からは大声が聞こえる。

「ええ、救急車ね。分かったわ。すぐに向かわせるから…えっ?」

龍治の声を聞いて莉子は若干安堵した。若干だが。

「私?私は今港にいるわ。東京湾よ」

呼ばれることがなくなって久しい名前で場所を告げた。

「何故かって?貴方もう全て分かってるんでしょう?」

電話は切れた。


携帯電話を鞄に収め早紀は莉子のほうを見た。

「と言うわけで、龍治君はもう少ししたらここに来るわ」

「どういうことなんですか?」

少し逡巡して早紀は質問に答えた。

「そうね…そろそろ話してもいいのかしら?

 重山、例の物を」

隣にいたのは莉子もよく知る重山だった。

重山から一枚の紙を手渡された莉子は書かれているものを見た。

「自由…契約書…?」


それは、全ての始まりだった。

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