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第一話 兄妹

「どうぞ、よろしくお願いしますね」

「ええ、こちらこそ」

妙齢の女性二人によって交わされる感情の全くこもっていない定型文。

互いの意志を暗示させることのない無表情を貫きながらも、互いの意志を確認することは造作でもない。

隠しておく必要もなく、またそれも公然たる物だからである。

「それでは、この二人の編入を認めます」

「あらあら、そちらが差し出せと言うから差し出しているのだけれど?

 まるで私が二人を売ったみたいじゃないの」

「そう聞こえたのなら恐らくそうなのでしょう。用事も済んだのでしょう?

 どうぞお帰りください」

「ええ、そうさせていただくわ。二人をよろしくね」

「善処します」

終始無表情を貫く二人だった。一人が退出した後残った一人、学園長の栖鳳緑子は机に置かれたままの資料に目を通す。そこにあったのは、ある兄妹の名前だった。





この国は、今二つの勢力によって牛耳られている。

かたや戦争以前から強大な権力を誇っていた伝統のある一族・赤坂家。

かたや戦争による特需でのし上がった栖鳳家。

両家は経済力を行使して権力闘争を繰り広げていた。

国内にいる資産家から一般家庭までどちらかの末端にいることはほぼ当たり前。

政治のシステムである議会も二党がそれぞれの一族に従っている事は言うまでもない事であった。

この表裏合わせての争いは長期化の様相を見せ、争いが始まってから約十五年ほど経過した現在においても収束の目処は立っていないのであった。

どちらの勢力も力関係では拮抗しているが故に、搦め手を用いる必要があったのである。

それが、赤坂兄妹であるということは本人たちは知らないのであったが。



それから一週間後。

栖鳳家が出資をして設立された栖鳳学園法人。面積は中規模都市と同等の敷地内に兄妹が到着した。

「莉子、疲れてはいないかい?疲れたら僕に言うんだよ」

隣に立つ少女に対して声をかける少年。

「いいえ、兄様。莉子は疲れておりません。早く行きましょう?」

兄に対して微笑を浮かべながら応答をする少女。

二人の前に、校門に立っていた警備員が近づいてくる。

「失礼ですが、学園に御用でしょうか?」

返事をしつつ身分証明書を見せる兄妹。

「ええっと、赤坂龍治様と莉子様…し、失礼いたしました。お話は伺っております。

 学園長室までご案内いたします」

二人は申し出を丁重に辞退し学園内へと足を踏み入れた。


「サクラが咲いているな」

「ふふっ、兄様がそのようなことを仰るとはいかがなさったのですか?」

「いや、少々驚いたのさ。今はもう七月だろう?」

「先日栖鳳家の技術開発部がサクラフォーエバーという新種のサクラを発明されたそうです。

 おそらくそれの実証サンプルでしょう」

そんな会話をしながら歩く様はその辺の画家の描く絵画よりも絵画のようであった。

やがて、二人は学園長室に到着する。

二人を出迎えたのは妙齢の女性だった。

「初めまして。龍治君、莉子さん。栖鳳学園学園長の栖鳳緑子です」

二人は軽く会釈した後緑子に促され室内にあった四人がけの椅子に座る。

「簡単に学園についての説明をします。この学園では全ての単位が自由選択です。

 委員会活動や生徒会活動も単位です。体術に関しては必須科目になっていますが」

栖鳳学園は体術に力を入れている、というのは世間一般でも知られていた。通っている生徒のほとんどが上流階級の子息であったため、護身術の訓練も兼ねているのである。

「最近では、上流階級の子供たちを狙った犯罪が多発しているの。貴方達も気をつけて」

「心配ありません、莉子は僕が護りますから」

呆気にとられはしなかった(とは言っても表情に出さなかっただけかもしれない)が緑子は時間を置いて話を続けた。

「それから、学園内で起こる犯罪については学園側は一切関知しません」

「それはつまり、自分の身は自分で護れということでしょうか」

「教師の仕事は教鞭をとること、警備員の仕事は学校(・・)を護ることですから。

 当然のことでしょう?」

笑みを浮かべる学園長に対し、龍治はやんわりとした笑みで答える。

「そうですね、当然のことです。そのための生活は送ってきましたから」

回答に満足したのかは分からないが、緑子は表情を変えずに続けた。

「注意事項はこれくらいね。後は個人的なお願いがあるんだけど、いいかな」

「内容によります」

龍治が答える前に今まで一言も話さなかった莉子が間髪いれずに答えた。

「そう?実は龍治君に風紀委員をやってもらおうと思ってね」

「風紀委員ですか?この学園にはそのようなものはなかったと思っておりましたが」

疑いの目を向ける莉子に対して緑子は続ける。

「そうよ、だから学園直属(・・・・)なの。どう?」

視線を向けられた龍治は数秒考え込んだ後回答した。

「それを受けることによるメリットを教えていただきたいのですが」

そうねぇ…と二人から目を逸らした緑子は何か思いついたらしく事務用と思われる机から冊子を取り出した。

「とりあえず、規則にのっとって授業の出欠を自由にするわ。

 単位義務もなくなる、というよりは風紀委員の単位がつくのだけれど。

 それに、あなたの実力(・・)なら大丈夫でしょう?実地訓練見てたわ」

思い出したくないことなのか、龍治は一瞬困惑した顔で緑子を見つめたがやがて、

「分かりました。そのお話、受けさせていただくことにします」

「そう、契約成立ね。よろしくお願いするわ。龍治君、莉子さん、学園生活を楽しんでね?」


そうして二人の学園生活は始まったのである。

初投稿です。思いついたが吉日とばかりに投稿をしました。

序章は本当に触りだけとなっていますのであらすじおかしいかもしれませんが予定通りなので問題はありません。

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