苦虫(8)
手紙の内容は、僕を強く突き動かした。
書かれていた事は大輔、彼も此処へ来て僕と同じような思いをしている事、彼が此処へ来れるようになったのは去年の夏からで、それまで訪れる事が出来なかった。そんな自分を弱く思っている。
去年、添えられていた花を見て、僕が此処へ来ているんだと思い、手紙を書いて伝えたかった。
謝りたい。
千里へ。そして、自分が此処に来る決心がつかなかった間にも訪れていたであろう、僕へ。
川に降る坂の前に立ち、空を見上げた。雲一つと無い、薄く青い空が広がっている。
少しの間、視線を預けていた。何かを思うわけでもなく。
そして、川辺へと目を向けた。
川辺には高く草が生い茂っていた。光を映した黄緑色の草々は、僕らの立っていた地面の土を全て見えなくしていた。
その光景は何故だか、僕の空の部分を突き刺し、痛みも無く通り抜ける。
僕は何か裏切りにも似た様な気持ちを感じてしまっていた。
何処かで勝手に望んでいたのかも知れない。
あの日から、この場所は、僕の中で何一つ変わらずに自分を苦しめるものである筈だと。
けれど其処にあったのは、僕のどんな思いも受け入れる事さえしてくれない、ただ虚しくて寂しい場所にしか思えなかった。
暫く呆然と川辺を見渡していた。
そうしていると僕の中で、今までには無い、強い感情が生まれて来るのを感じた。
くやしい。
僕は、ただ立たされている。この川の前に。ずっと、ずっと、そうだった。僕は、ずっと…立ち続けている。
駆け出していた。
僕の中で、無音の金切り声が狂った様に回る。
坂を駆け降りて、草を掻き分け、僕は川に飛び込んだ。
僕の全身は、一瞬で水の中へと落ちた。
這い上がろうと、もがいても僕の体は水の中へと落ちていく。とにかく必死に顔を出そうとする事しか出来ない。水で視界が塞かれる中で、なんとか目の前に浮いた鞄に、しがみついた。
怖い。
僕は泳ぐ事はおろか、水の中へ顔を浸ける事さえも恐れていた。足が届かない、何度も顔が水に浸かる恐怖は、僕を早くあの川辺の所へと、もがき続けさせた。水を何度も飲み込みながら、もがき進み、やっと川辺の端に手が掛かった。
両肘を掛け、呼吸を調えながら地面の土を見つめる。
冷静になって気が付いた。
僕は泣いていた。
止めどない感情が入り乱れ、抑えきれない思いが溢れてくる。
僕は地面に顔を擦りつけ、自ら水の中に顔を浸けた。眼を閉じ、水の中で苦しくなるまで潜り、また顔を出し呼吸する。これを何度も繰り返し続けた。
その間は、何も考えなかった。
どれくらい経ったんだろう。体の冷えを感じ、疲れて意識が朦朧とした僕は、地面をよじ上り、草むらに仰向けになって倒れ込んだ。
草の間から、ぼんやりと空を見たら、同仕様も無い程に青い空だった。
くたびれて眠った。




