苦虫(6)
僕は登り坂を歩きながら感じていた。
登り始めて少しすると道は平らになり、左に進路を変えて歩き始めた頃、辺りは急に暗くなった。左右の高い木々に日の光は遮られ、天候の良い日から今にも雨の降りだしそうな気配を感じさせる暗がりに姿を変えた。
この道の暗さが僕を責めている事は、容易に分かった。僕は怖いのだ。千里の墓へ向かう、この見覚えのある道が、この場所が。
僕は震えたい気持ちを抑えて、ただ前に前に歩いている。
僕は卑怯に思ってしまった。
この山が無くなってしまえば…。
道が右向きに曲がり始めた頃、川の音が静かに耳に入って来て僕は戸惑った。
この道を曲がり切れば、川が見えるようになる。
見たくない。
それでも歩いて行くに連れて川の音は耳元で大きくなって、僕の過去の記憶も音と共に今に流れ着き、僕をあの日に押し込んだ。
僕は…何してる。
僕の視界に、穏やかに流れている川と、ポツンとある小さな長方形の石が入り込んだ。
僕は一度立ち止まり、暫くしてから淡々と石の前へと歩いて行く。
僕の体は案外に軽かった。
過去からの風が起こした押し寄せる高い波は、此処へ来て一時的に止んでいた。僕と長方形の石に風は打つかり返り、波は一時的に止む事になったらしい。
考える事など許されなかった。




