苦虫(5)
僕は辺りを見回した。
遠くの方で農作業をしている人が見えるくらいで、人の影はそれくらいだ。
古い家と、まだ新しい感じの家がいくつか見える。それらは対照的に見せ、時の流れを感じさせた。
あの頃からあったであろう家と僕の知らない間に建てられた家。
元々この辺は家が少なかった。
小学校の向こう側あたりに住んでいる人が多かったから。
僕ら三人の家は、此処よりも小学校から離れてる場所に在って、このすぐ目の前の横道を三人で歩いて通学していた。
何を話していたんだろ?
学校終わったら何して遊ぶとか、今日の給食何だっけとか、テレビアニメ…そんな話をしていた。
三人の中では大輔が一番よく喋って、僕はそれを面白く聞きながら歩いていた。
千里も笑っていた。
始めて、あの山に入ろうと言ったのも大輔の言い出した事だった。あの山の川で釣りをしている人を見たことがあるから、何か釣れるかもしれない。
僕は先生や親に、川へは近づいてはいけないと言われていた事を思い出しながらも、僕は大輔の好奇心に一緒になって、そんな注意を無視して楽しそうだと思った。
千里も行くと言った。
小学四年の夏休み間近の事だった。
僕は横道まで来て、立ち止まった。
あの山の登り坂が近くに見える。
僕は躊躇せず、登り坂に向かって歩き出した。




