苦虫(4)
千里………。
僕は道端に、ふと目をやった。紫色の小さい花をたくさんつけた花があった。
僕は肩から提げている鞄の間から、伸びている花を見た。
買ってきた花も紫色。
毎年、千里への花を選ぶ時になると、決まって紫に近い色を選んでいた。
(黄色でも白でもない。紫…)
黒い髪を肩より少し先に伸ばして、白いワンピースを着ていたのを思い出した。
母親が音楽の学校を出たとかで千里はピアノを習わされた。それが嫌で学校から家には帰らず、カバンを道端に置いて、そのまま三人で遊んでいた事もあった。
そんな事をしていたら、千里の母親が何度か捜しに来た事があって、僕たちは見つからない様に逃げる遊びをやったりした。
けれど、長くは続かなかった。
ある日、千里と母親が夜に家の玄関にやって来た。
僕と母親が出て、母親同士が話していた。何を話していたのか全く覚えていないけど、千里の「ごめんなさい」が顔に表れていたのを見て、僕たちが悪い遊びをしたんだなと思った。
その後から千里の母親が捜しに来る事は、なくなった。
「今日は、練習があるから」
こう言う日が増えた。
千里は優しい。
僕らに迷惑を掛けないように我慢して、そう言っていたに決まっている。
僕の中の苦虫が、少し動き出した……噛み締めた。




