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苦虫(1)
僕は帰ってきた
また
この生まれ故郷に
いつも
苦虫を噛んで…
バス停を降りると本格的な夏に入る前の気持ちの良い光が、風が僕を迎えてくれた。
一年に一度、この時期に僕は此処に帰ってくる。
蝉もまだ鳴いていない。夏なのか春なのか、どちらとも言えない季節に僕は妙に落ち着いていた。
此処には僕の住んでいた、子供時代の思い出を多く含んでいた家はもう無い。
既に壊されている。
年々この村から人は、いなくなり皆、隣町へと姿を消して行く。
寂しいとは思わない。むしろ僕は嬉しく思う。
あの時のまま、この景色を忘れずにいられる。
けれど、それも一瞬の感覚で僕は直ぐにその思い出を一枚の布で覆い被せてしまう。
黒く透けた布で。
僕はこの村で友達を亡くしていた。




