融解限度
どこまでもずるい人と知ったのは夢中になった後。
捨てられるのがただ怖くて、傍にいたくて、離れたくなくて。
すべてを求めてしまいそうで、依存してしまいそうで、嫌われたくなくて。
諦めることができたら楽なのに。できなくて。思うだけでも切なくて。
温もりは、いつだって貴方だけがくれるもの。それでいい。私は、他の温もりなんていらない。いらない。他の人の温もりなんていらない。他の人の声なんていらない。私の名前を呼ぶのは、私に触れるのは、貴方だけでいい。頭を撫でるのも、抱きしめるのも、頬を撫でるのも、みんな。みんな貴方だけで。
彼は私を後ろからぎゅっと抱き締めたまま、耳元に唇を近づけて甘く甘く、ため息でも吐くようにそう言った。剥き出しの肩と背中に触れるのは、彼の手と、胸板と、ほんの僅かな顎の重み。その全ては、限りなく愛おしいもの。
彼はちゅっと小さな音を立てて私の耳に口付けを落とした。その口付けは、温かくて、優しくて。
「寂しかったって素直に言わないと、他のところにいっちゃうよ?」
なのに彼は、行動とは裏腹な少し意地悪な言葉で私の胸を騒がせる。
「寂し、かった。」
「へぇ、どうして?」
「あまり帰ってきてくれないから…。」
「うん。最近、少し忙しかったからね。」
「でも、」
それでも、寂しかった。分かっているけど寂しかった。仕方ないことなんだって分かっていても、胸が痛い。どうしてって、分かってるはずなのにそう思ってしまう。
「…うん。分かってる。全部、ちゃんと分かってるよ。」
そして、そう思ってしまうことさえ、やっぱり彼にはすべて分かっていて。みんな、みんな筒抜けで。頬が熱くなるのを感じながら、彼の腕にそっと手を添えた。
「だから、今日はずっとこうしてるよ。君が眠るまで、ずっと。」
彼はそれを嫌がることはなく、もう片方の手で私の頭をそっと撫でつける。私はそれに、一つ頷いて目を閉じた。
例え彼が朝にはいなくなると知っていたとしても。
“寂しいから朝まで一緒にいてほしい”なんて。
私が口にすることは、きっと一生ない。
無意味なこと、だから