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お気に入り小説5

完璧すぎる第二王子との演奏で心を壊しましたが、私に合わせてくれる彼と幸せになります。

作者: ユミヨシ
掲載日:2026/05/17

フレィシア・アルデス伯爵令嬢は手が震えてピアノが弾けなくなった。


幼い頃から大好きだったピアノ。

ピアノの演奏家になりたい。それがフレィシアの夢だった。


その夢は無残に砕かれた。

婚約者であったベイル第二王子殿下によって。






フレィシアはベイル第二王子の婚約者だった。

共に17歳。

金髪碧眼だが飛び抜けて美人という訳ではない。

平凡な顔の令嬢だ。


ベイル第二王子がピアノが上手いフレィシアを王宮の演奏会で見かけて、彼から婚約をもちかけてきたのだ。


「私がお前と婚約をしてやるのだ。有難く思え。お前は私が敬愛しているバイオリニストのジークリフト・ハウゼンの姪だそうだな。姪だけあってピアノがそれなりに上手いではないか。気に入った。

お前は一人娘なのだろう。伯爵家は公爵家と比べて爵位が低くて、私の婿入り先としては不満だが、お前なら私のバイオリンの腕を輝かせてくれる。そうであろう」


ベイル第二王子は、バイオリンに凝っていた。

高いバイオリンを購入し、王宮で弾いては、皆に自慢するような男だ。


金髪碧眼の美男で、彼が夜会でバイオリンを弾くと、貴婦人たちが聞き惚れ、口々に褒めるのだ。


「さすが、ベイル様。素晴らしい演奏ですわ」

「聞き惚れてしまいました」


ベイル第二王子は、


「私は幼い頃からバイオリンを習っている。上手くて当然だ」


そう言いながら、曲を弾き続ける。


そんなベイル第二王子が、王宮で開かれた少年少女達の演奏会で、フレィシアを見かけたのだ。

同い年位の少年少女の中ではフレィシアのピアノは上手い方だ。

幼い頃からピアノを習っていた。


だから、ベイル第二王子に目をつけられた。


両親は王家の申し出に、


「王族の方を婿に迎えるなんて、とてもとても」

「そうです。とてもわたくし達の家では無理ですわ」


断ったのだけれども、国王陛下が、


「息子がそちらの令嬢のピアノと合わせてバイオリンを弾きたいと言っているのだ。だから、婿入りを受け入れてやって欲しい」


と言われてしまった。


フレィシアはピアノの腕を褒められたのは嬉しいけれども、王族の人とどうやって付き合っていったらいいか解らない。

確かにベイル第二王子は美男で、バイオリンも素晴らしい。

他の令嬢なら胸をときめかせるであろう男性だ。


でも、フレィシアにとって嫌な予感しかなかった。

それは当たってしまった。


会うたびに、ベイル第二王子は、フレィシアと共に演奏をしたがった。

フレィシアがピアノを弾いて、ベイル第二王子がバイオリンを弾く。


ベイル第二王子は、フレィシアに合わせて弾いてくれないのだ。

自分勝手にバイオリンを演奏する。


自分は天才だ。自分は王族だ。だから自分の演奏についてくるがいい。


そういう考えみたいで、フレィシアが懸命に伴奏してついていくのがやっとで。

ベイル第二王子はフレィシアの伴奏に不満を持っていて。


「お前がピアノが上手いから婚約してやったのだ。なんだ?私の演奏についてくるのがやっとではないか。しっかり弾け。お前は私の婚約者なのだからな」


そう言って、何度もピアノの伴奏をする羽目になった。


どうしてなんで?

ベイル第二王子は自分の事しか考えない。


私はついて行くのがやっとなのに。

少しはこちらに合わせてよ。


王族でなければそう叫んでいるわ。


万事のその調子で、ベイル第二王子は、フレィシアの事を馬鹿にしているようなのだ。


貴族なら誰しも行く学園でも、ダンスの授業で、フレィシアとベイル第二王子はダンスを踊る。

しかし、ベイル第二王子の完璧なリードにフレィシアはついていけないのだ。

彼は幼い頃からダンスが出来るように教育を受けている。

フレィシアも、少しはダンスの教育も受けているが。


ベイル第二王子は完璧をフレィシアに求めてくる。


無理よ。私、まだ17歳なのよ。ベイル様が完璧すぎるのよ。


だから、怒られるたびに、謝った。


「申し訳ございません。力不足で」


ベイル第二王子は、


「お前が悪い。お前が私に合わせられないから、私が恥をかいているではないか」


「本当に申し訳ございません」


いつもベイル第二王子に対して謝っていた。


そんなフレィシアに気にして声をかけてくれる男性がいた。

黒髪の目立たないその男性。


「大丈夫ですか?顔色が真っ青です」


フレィシアは具合が悪くて、声をかけられても、答える事が出来なかった。

下位貴族なのであろう。

フレィシアに声をかけること自体、下位貴族からしたら失格だ。

でも、具合が悪そうなフレィシアを本当に心配してくれるのは、その彼しかいなくて。

でも、婚約者のいる身。

どうしていいか解らなかった。


いつしか、ベイル第二王子と共に演奏することが苦痛になってきて、ピアノを前にすると指が動かなくなった。

共に演奏を約束している日の朝に、お腹が痛くなった。


彼と演奏したくない。

彼の顔を見たくもない。


今日はダンスの授業があるわ。でも、私が上手く踊れなかったらまた、ベイル様に怒られる。


あああ、お腹が痛い。

会いたくない。会いたくない。

彼に会いたくない。



フレィシアは学園に行くことも出来なくなり、引きこもるようになった。


具合が悪いの。指も動かないの。お腹も痛いの。

部屋を出たくないの。



一月程、学園を休んでいたら、

王家から婚約破棄の書類が届いた。


書類には、ベイル第二王子の婿入り先としてふさわしくない事。

ベイル第二王子の結婚相手として、病にかかっているのでは、結婚は出来ないとの事が書いてあった。


その事を母から聞いたフレィシアは、心から安堵した。


もう、ベイル様に怒られることは無いんだわ。


母がフレィシアを抱き締めてくれて。


「よく頑張ったわね。フレィシア。もう安心よ」


涙が零れる。

母の腕の中で、思いっきり泣いた。


学園に久しぶりに行ったら、ベイル第二王子を見かけた。


彼は別の令嬢と一緒だった。

確か、彼女もピアノが上手いエレーナ・ラトス伯爵令嬢。

とても美しいエレーナと共に楽し気に話をしていて、フレィシアの方を見向きもしなかった。


フレィシアはもう、あの人とは関係ないんだわ。

心から安堵した。


だが、ピアノを弾く事が出来なくなった。

フレィシアはピアノが昔は大好きで。演奏家になりたい夢があった。

指が動かない。

ピアノを前にして震えて仕方が無い。


あんなに好きだったピアノ。

ピアノを前にすると、思いだすの。

ベイル様に怒られて、辛かった日々を。


もう、二度と弾けないのかしら。


そう思ったら、母が知り合いを連れて来てくれた。


「ヴォルフレッド辺境騎士団のオルディウス様よ。兄がお世話になったので、話をしたら貴方に会いたいって」


「ヴォルフレッド辺境騎士団情報部長のオルディウスだ。ピアノが弾けなくなったと聞いたのだが」


思わず見惚れた。

綺麗な人。


銀髪碧眼で背筋が伸びて姿勢も綺麗。


仕草も優雅で。


フレィシアは頷いて、


「ピアノが弾けなくなったのです。私、前にベイル第二王子殿下と婚約をしていて。共に演奏をしていたらいつも怒られていて、辛かったのです。だからピアノが‥‥‥」


オルディウスは微笑んで、


「まずは俺の演奏を聞いて貰おうか」


バイオリンを手に、優雅に曲を演奏しだした。


なんて素敵な優しい曲。

まるで心に染み渡るよう。


涙が零れる。

そしてこの曲は、自分の好きな曲だ。


震える手でピアノの前に座る。

ああ、まだ弾けない。

弾けないけれども、気が付いたらバイオリンに合わせて歌を歌っていた。


私はピアノが弾きたい。

ゆっくりでも弾いていきたいわ。



オルディウスはバイオリンを弾き終わると。


「ゆっくりでいい。ピアノを再び弾けるといいな」


そう言ってくれた。

オルディウス様に会いたい。

彼に会って共に演奏したい。


そう強く願うようになった。

恋をしたのかもしれない。


母に言われた。


「オルディウス様はとても忙しいのよ。だから、別の人を紹介してあげるわ。アルク・ファセル男爵令息よ。貴方、知っているかしら?」


フレィシアは思いだした。

具合の悪そうな自分を心配してくれた男性。それがアルクだ。

初めて名前を知った。


アルクは慌てたように、


「あまりにもフレィシア様が具合が悪そうだったので、つい声をかけてしまって。アルク・ファセルです。フレィシア様が学園を休んでいるのが心配で心配で。父を通して、こちらに押し掛けてしまいました」


アルクは男爵令息だ。

バイオリンを弾くが、あまり高いバイオリンを持っていない。

男爵家では高いバイオリンを買えないのだ。


黒髪の目立たない生徒で、彼の演奏を聞いたことが無かった。

皆、ベイル第二王子に遠慮して、バイオリンを習っていても、学園でも王宮でも弾きたがらないのだ。


母がバイオリンを持ってきて、


「兄のバイオリンなのだけれども、アルク。弾いてみてくれるかしら」


アルクは頷いて、


「私の演奏を聞いてくれますか?フレィシア様」


「ええ、お願い」


音を聞いて驚いた。

ベイル第二王子にも、オルディウスにも負けない素晴らしい音色。


なんて美しい。なんて素晴らしい。


母は微笑んで、


「どう?彼も素晴らしいでしょう」


「お母様は色々な知り合いがいらっしゃるのね」


「お兄様が顔が広いのよ」


母の兄ジークリフト・ハウゼンは、素晴らしいバイオリニストだ。今は隣国に行っていて、演奏家として名を馳せている。


アルクは演奏をし終えると、顔を真っ赤にして。


「私の演奏、如何でした?このバイオリン、素晴らしいですね。さすが、ジークリフト様のバイオリン。私などが使うなんてもったいなくて」


バイオリニストとして有名なジークリフト。そんな彼のバイオリンを使わせて貰って、アルクは嬉しいのであろう。


アルクはフレィシアに、


「私と共に演奏をしてくれませんか?」


フレィシアは首を振って、


「今はまだピアノを弾けないの」


「フレィシア様がベイル第二王子殿下に叱られているのを、よく見かけました。それで心を壊してしまったとも。心配していました。私はフレィシア様のピアノ、好きですから」


「私のピアノが好き?」


「ええ、以前、演奏を聞いたことがあって。さすが、ジークリフト様の姪のフレィシア様、なんて素晴らしいんだと思いました」


「そう言ってくれて嬉しいわ」


少しずつ少しずつ、ピアノが弾けるように頑張ろう。

そう思えたフレィシアであった。


アルクは頻繁に訪れて、フレィシアと音楽について色々と話しをする。

アルクはバイオリンを良く弾いてくれて、フレィシアは癒された。


あれから、オルディウスは会いに来なかった。

彼の事が好き。

いつかピアノが弾けるようになったら、オルディウス様に聞いてもらいたい。


フレィシアはそう思えた。



王宮で演奏会が開かれた。

隣国から伯父のジークリフト・ハウゼンが、帰国してバイオリンを演奏してくれるとの事。

皆、それを楽しみに貴族達は王宮の広間に集まった。


ジークリフトは金髪碧眼の凄い美男だ。

彼はフレィシアの顔を見ると、


「元気そうで何よりだ。私の演奏を聞いていってくれ」


フレィシアは両親と共に、音楽会に出席していたのだ。

アルクも一緒だった。


ベイル第二王子は新しく婚約を結んだエレーナ・ラトス伯爵令嬢と演奏するという。


ベイル第二王子はジークリフトに挨拶をした。


「私の演奏を聞いて欲しい。素晴らしい貴方なら、私の演奏がいかに凄いか理解できるはずだ」


「これは第二王子殿下。是非、拝見させて頂くとしよう」



まずは、ジークリフトがバイオリンを演奏する。

難しい曲を難なく弾く素晴らしい演奏。

まるで華麗な花が咲き誇るような美しい音色で。

さすがジークリフト、素晴らしいと皆、聞き惚れた。



次にベイル第二王子がエレーナのピアノ伴奏でバイオリンを披露した。


エレーナのピアノが遅れ始める。

ちぐはぐな演奏に、皆、眉を顰める。


ベイル第二王子がエレーナに向かって怒った。


「だから、お前が私に合わせないから、私が恥をかくんだ」


「申し訳ございませんっ」


そこへ、オルディウスが現れて、フレィシアに向かって、


「アルクと共に演奏してごらん。今の君なら弾けるはずだ」


最近、やっと弾けるようになった。

アルクがバイオリンを弾いていると、合わせたいと思えるようになった。


彼の優しい演奏に、共にピアノを合わせて弾いて。

ああ、この演奏を聞いて貰いたい。


好きになったオルディウス様に。

力になってくれた母に、そして父に、

素晴らしいバイオリニストの伯父に。


そして、何よりもアルク。貴方と演奏したいのよ。


アルクが頷いた。


二人で皆の前で演奏をする。

流れるように、アルクがバイオリンを弾く。

彼に合わせて演奏をする。


彼は急がない。ちゃんとフレィシアがピアノを伴奏するのを待っていて、合わせてくれる。



ああ、私はピアノが好き。アルクと演奏するのが好き。


弾き終わったら皆に拍手をされた。


ベイル第二王子が睨みつけている。

そんなのもう気にならない。


私は一生、ピアノを弾き続けるわ。



オルディウスがフレィシアに向かって、


「素晴らしい演奏だった。ピアノが弾けるようになってよかった」


「オルディウス様。有難うございます」


母も父もそして伯父も近くに来て、


伯父ジークリフトが、


「アルクのバイオリンも素晴らしかった。どうだ?私に弟子入りしないか」


アルクは真っ赤になって、


「えええっ?あこがれのジークリフト様の弟子???貴方は弟子を取らないって」


「取りたくなった。君はまだまだ伸びる」


「でも私は‥‥‥」


フレィシアの方をアルクは見つめて、


「私はフレィシア様の傍にいたいのです。フレィシア様と共に演奏をしていきたい。私がジークリフト様に弟子入りしたら、フレィシア様の傍にいられなくなってしまう」


あああ、この人は。私を気遣ってくれる。


オルディウス様に感じていた恋のような激しいものではないけれども、でも、私は‥‥


アルクに抱き着いた。


「傍にいて欲しいわ。私は貴方の事が」


「フレィシア様。私も貴方の事を‥‥‥」



「「愛している(わ)」」



父が、


「それなら、アルクを婿入りさせるしかないな」


母もフレィシアの肩に手を置いて、


「そうね。それでいいわね?フレィシア」


両親に向かって、フレィシアは、


「ええ、それで構わないわ。私にはアルクが必要よ」


ジークリフトが、


「残念だが、可愛い姪の幸せを邪魔する訳にはいかないな」


オルディウスも頷いて、


「おめでとう。フレィシア。アルク。二人のこれから先の未来に幸、多かれだな」


そこへ、ベイル第二王子が、


「私をっ。私を弟子入りさせてくれ。私ならふさわしいはずだ。ジークリフト」


ジークリフトは首を振って、


「自分勝手の演奏しか出来ない貴方を迎える訳にはいきません。それでは私は隣国へ戻ることに致します」




そこへ、怪しげな四人の男達が、ベイル第二王子に声をかけてきた。


金髪碧眼の美男が、


「こちらへ。第二王子殿下。馬車を用意しております」


「え???どこへ?」


大男が、


「素晴らしい所です。第二王子殿下も気に入ることでしょう」


彼はうやむやのうちに連れて行かれた。


その日から、ベイル第二王子殿下は行方不明になり、現婚約者のエレーナとの婚約は解消された。




愛しのアルクと今日も共に演奏する。


いつも共にいてくれたアルク。

そんなアルクと現在、婚約中だ。


アルデス伯爵家の為に二人して生きる事に決めた。

プロ演奏家にはなれないが、領地で音楽を広めたり、伯爵家主催の演奏会を開いたり、自分達で出来る事で音楽と共に生きていこうと二人で決めた

愛する父、母、そしてアルデス伯爵家の為にこれが一番良い道だと思うから。


なによりも、今は、こうして二人で演奏をしているのが幸せ。


一生、彼と共に演奏して、一生彼と共に歩んでいきたい。


いつか子供が出来たら子供達にも音楽の素晴らしさを教えてあげたい。

領地にいる平民の子供達にも音楽の素晴らしさを広めていきたい。



そう思うフレィシアはアルクと顔を見合わせる。

彼は微笑んでくれた。

フレィシアは幸せを感じるのであった。




とある美男の屑をさらって正義の教育を施す変…辺境騎士団


「今回は素晴らしい屑の美男だな」

「バイオリン演奏を聞かせてくれそうだが」

「やることは同じで、触手ウネウネ」

「三日三晩、楽しみだな」



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― 新着の感想 ―
拝読させていただきました。 「そこへ、怪しげな四人の男達が……」 ここでもう爆笑です。 今回も来てくれたんですね。 待っていましたw どんなものでも相手への気遣いができないといけませんね。
元・第二王子殿下は自己愛でしか弦を引いていないという事でしょうね。嗚呼、楽器が泣いておりますわ。 宵からは、己が楽器とされて音を紡ぐ事になりますわね。 ふふ。オルディウス様に初恋は流石にハードルが高…
あら、今度は王子が楽器となって鳴くんですのね(´ω`*)オホホホ 風の噂では変、、、んんっ、もとい辺境騎士団では他に打楽器(お尻叩き)等々も揃えて楽団があるそうですわよ♡
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