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揺れた世界で、僕は二匹の猫と生き返った

作者: パーカー
掲載日:2026/02/05

この物語は、ある日ふと思った疑問から始まりました。

 もし世界が一瞬で壊れてしまったとき、

 自分は何を最後に思い出すのだろう、という疑問です。

 きっとそれは、大きな夢や立派な言葉ではなく、

 名前を呼んだ記憶や、

 そばにいた小さな存在なのではないかと思いました。

 これは、世界が揺れた日に、

 忘れられなかったものについての話です。

その日、世界は唐突に終わった。

 床が跳ね、壁が裂け、天井が悲鳴を上げる。

 大地震――そう理解した時には、もう遅かった。

「チャイ! チョコ!」

 名前を呼ぶ。

 茶トラのチャイと、キジトラのチョコ。

 逃げ場を探して走る二つの影。

 次の瞬間、床が崩れ、視界が闇に沈んだ。

 目を覚ますと、地面は妙に柔らかく、空は低かった。

 丸い家々が並び、周囲を歩くのは――猫。

 二足歩行の猫。鎧を着た猫。商人の猫。

「……夢?」

「ちがうにゃ……たぶん死んだにゃ……」

 情けない声に振り返る。

 そこにいたのは、震えながら座り込む茶トラのオス猫――チャイ。

 その横で、堂々と胸を張るキジトラのメス猫――チョコ。

「落ち着きなって」

「ここ、猫の世界っぽいよ!」

「っぽいってなんだよ……!」

 猫が喋っている。

 でも、そんなことより――

「……無事だったんだな」

 その言葉に、チャイの目が潤んだ。

「無事じゃないにゃ!」

「ここは、猫の王様が支配する世界にゃ!」

 チョコが尻尾を立てる。

「で、その王様が人間世界を揺らした犯人」

「猫が忘れられるのが嫌でさ」

 胸の奥が熱くなった。

「……ふざけるな」

 忘れてなんかいない。

 忙しくても、疲れていても、

 この二匹がいる家に帰ることだけは、手放さなかった。

「だから、行くにゃ」

 チャイは震えながらも立ち上がる。

「王様に会って、帰るにゃ」

 旅の途中、チャイは何度も立ち止まった。

 大きな猫を見るたび、岩の陰、僕の背中。

「無理にゃ……怖いにゃ……」

「もう、臆病すぎ!」

 チョコは先頭を走る。

「この人を家に帰すんでしょ!」

 気づけば、二匹は僕の前を歩いていた。

 守るみたいに。

 王様は巨大だった。

 静かで、孤独な瞳。

「人間は、いずれ猫を忘れる」

 その言葉に、チョコが一歩踏み出した――が、止まる。

「……違うって言いたいけど」

 尻尾が、震えている。

「もし帰れなかったら?」

「もし、この人が死んだら?」

 声が、かすれた。

「強いフリしてただけ」

「守れないのが、一番怖いんだ」

 その時だった。

「……じゃあ、ボクが言うにゃ」

 チャイが前に出た。

 足は震え、耳は伏せたまま。

「王様は、間違ってるにゃ」

 声は小さい。

 それでも、逃げなかった。

「ボクは臆病で、マヌケで……」

「でも、この人のそばにいる時だけは、安心だったにゃ!」

 一歩、前へ。

「忘れられるのが怖いなら、壊さなくていいにゃ!」

「覚えてもらえば、いいだけにゃ!」

 沈黙。

 やがて王様は、王冠を外した。

「……帰れ」

 光の扉は、一人分だけだった。

「一緒に来るにゃ……?」

 チャイの声が、震える。

「ダメだよ」

 チョコは笑った。

「この人は、生きる場所がある」

 僕は二匹を抱きしめた。

「ありがとう」

「絶対に、また会おう」

 光が弾けた。

「……!」

 病院の天井。

 僕は、生きていた。

「猫は……?」

「保護されています」

 医者は言った。

「あなたと同じ、奇跡です」

 夕方。

 病室の扉が開く。

 キャリーから、茶トラのチャイが顔を出した。

 相変わらずビクビクしている。

 続いて、キジトラのチョコ。

 堂々と部屋に入ってくる。

 喋らない。

 普通の猫。

 でも――

 チャイは必死に僕の胸に飛び込み、

 チョコはそっと手の甲に額を擦りつけた。

 離れない。

 それで、全部わかった。

 異世界も、王様も、約束も、

 ちゃんとここにある。

それでも僕は知っている――

あの日、世界が揺れたからこそ、

この命は、二匹と一緒にもう一度始まった。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

 本作は「猫の異世界」というファンタジーの形をとっていますが、

 描きたかったのは特別な力や壮大な冒険ではありません。

 当たり前のようにそばにいる存在が、

 どれほど大きな意味を持っているのか、ということです。

 臆病なチャイと、強がりなチョコは、

 人間よりも正直で、

 それぞれのやり方で「守る」ことを選びました。

 この物語を読み終えたあと、

 誰かがそばにいる存在の名前を、

 一度でも思い出してくれたなら幸いです。

 世界は揺れることがあります。

 それでも、覚えている限り、

 失われないものがあると信じています。

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