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君を覚えている世界

最後のセーブデータ ―消えた友に捧ぐ―

作者: Uta
掲載日:2025/10/12

部屋の片隅、段ボールの底から古びた携帯ゲーム機が出てきた。

指でなぞると、掠れたロゴと擦れて下がっているボタン。

十年以上前、僕がまだ子どもだった頃、毎日のように握りしめていた相棒だ。


久しぶりに電源を入れる。

ピッという短い音のあと、画面には無情な文字が浮かんだ。

「セーブデータが壊れています。」


胸の奥が少しだけ痛んだ。

そこには、かつて僕と旅をした仲間たちがいた。

画面の向こうで戦い、傷つき、また立ち上がる。

寝る間も惜しんで育て、名を呼び、別れを惜しんだ存在たち。

あの頃、僕は本気で彼らを“友達”だと思っていた。


いつからだろう、この子達と遊ぶ時間がなくなったのは。

別のゲームもしたし、新しいハードも遊んだ。

次第に手に持つものは、本やノートなどの文房具に。

その手が空いたと思ったら、持っていたのはスマホ。

SNSやアニメに恋愛に仕事。

次々と新しい何かが押し寄せ、

あの小さな画面の世界は、僕の生活から消えていった。

友の名前を呼ぶことも、もうなくなった。


大人になった今、スマホの中には何百ものアプリと誰かの笑顔が並ぶ。

けれど、どれだけ指で触れても、

あの頃のように心が揺れることはない。

みんな「更新」され、忘れられていく。

思い出は、古くなったら削除する時代になった。


でも、僕は昔から捨てられない性分だった。

手紙も、キーホルダーも、割れたマグカップも。

それを見れば、誰かの笑顔が思い出せる気がして。

そして今、手の中にあるのはこの壊れたゲーム機。

僕の“最後のセーブデータ”。


ふと、SNSのタイムラインに懐かしいメロディーが流れてきた。

リメイク版のテーマ曲だという。

その旋律を聴いた瞬間、胸の奥で何かが跳ねた。

まるで、誰かが呼んでいるように。


気づけば画面の向こうに、彼らが並んでいた。

あの夏の草むら、木漏れ日の道、真っ暗な洞窟。

僕の知らないうちに、あの世界は今も動いている気がした。


「まだ、戦っているのかい?」

「ああ、君はどうだ?」


そんな幻の会話が、音楽と一緒に脳裏をよぎった。

僕は笑った。少し泣いた。

そして気づいた。

もう一度あの世界に行きたいんじゃない。

あの頃の僕と、もう一度会いたかったんだ。


風が窓を揺らした。

夕陽が机の上のゲーム機を照らす。

画面は暗いまま。

けれど、そこに映る自分の影が、少し笑っている気がした。


僕はそっとフタを閉じた。

もう一度、電源を入れることはないだろう。

でも、あの世界はきっと今も続いている。

誰もいない草むらの向こうで、

僕の知らない誰かが、新しい旅を始めているはずだ。


机の上に置かれたゲーム機が、

秋の風にほんのわずか、音もなく震えたような気がした。

その沈黙が、どうしようもなく優しかった。

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― 新着の感想 ―
子どもの頃を思い出しました。 一生懸命立ち向かったボスだったりひたすらレベル上げをしたり、懐かしいです……確かにあの頃の自分にふと逢いたくなるのかも知れません。 ゲーム機はこんな風にたくさんの子どもた…
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