第9話 新国家の戦い
「辺境独立」の宣言は、瞬く間に周囲へ広がった。
王都からは「逆賊」と断じる布告が下され、隣国アルヴェラは「今こそ辺境を奪い取る好機」として兵を倍増させる。
「……二国を同時に敵に回すことになったな」
灰色の瞳を細めるレオン。
その背後で兵士たちは剣を研ぎ、領民たちは食糧や資材をかき集めていた。
だがその顔には、不思議な誇りが宿っている。
「アリシア様の国を守るんだ!」
「俺たちはもう見捨てられた民じゃない!」
人々は恐れと同じくらい強い希望を胸に抱いていた。
アリシアは救護所と兵糧管理を一手に引き受けた。
昼は領民と共に畑を耕し、夜は兵士に薬草を配る。
「水路を広げれば畑はもっと育ちます。女たちも手を貸して!」
「この煎じ薬は発熱に効くわ。必ず兵士に届けて」
一方でレオンは軍の指揮を執り、戦略を練っていた。
「兵を三手に分ける。俺が敵本陣を叩く間、城は死守しろ」
二人は一日に何度も短い会話を交わした。
「足りない物資は?」
「負傷者は?」
その度に視線が交わり、互いの信頼が深まっていく。
そんな折、王都から密使が現れた。
「レオン殿。王都に帰順するなら、辺境の独立を見逃そう」
「条件は一つ。……アリシア殿を差し出せ」
レオンは即座に剣を抜き、机に突き立てた。
「ふざけるな。彼女を差し出すくらいなら、王国そのものを敵に回す」
アリシアは言葉を失った。
契約婚のはずだった。
利害だけで結ばれたはずなのに――。
胸の奥に熱いものがこみ上げ、視界が滲んだ。
夜明け。
隣国の大軍が押し寄せ、戦いの火蓋が切られた。
地鳴りのような太鼓、矢の雨、土煙に包まれる大地。
レオンは最前線に立ち、大剣を振るう。
「我らの国を守れ!」
その声は雷鳴のように響き、兵たちの士気を奮い立たせる。
城内ではアリシアが必死に負傷者の手を取り、次々と処置を施していた。
「この命を諦めないで! あなたには帰る場所があるのです!」
血と汗と涙が入り混じる戦場。
だが、誰一人「敗北」を口にする者はいなかった。
戦況が膠着する中、アリシアは馬を駆って前線へ出た。
敵軍の波を見渡す彼女の姿に、兵たちが息を呑む。
「私はもう、飾りの妃ではありません!
あなたたちと共に、この国を守る一人です!」
その言葉に、兵たちが雄叫びを上げる。
レオンは振り返り、彼女を見据えた。
「お前は……俺の隣に立つべき人間だ」
契約を超えた、真の誓い。
二人の想いが、一つの国を支える力となっていた。
戦場の空に、火矢が放たれ、城壁が燃え上がる。
だが炎の中で、二人の瞳は確かに未来を見据えていた。
――新国家の誕生は、血と炎の中でこそ成される。




