第8話 辺境独立の宣言
刺客事件から日も浅い頃。
城にまた新たな急報が届いた。
「隣国アルヴェラが再び大軍を動かしました! 今度は国境全域を突破する構えです!」
重苦しい沈黙が広間を包む。
しかも同時に、王都からも使者が現れた。
「辺境の軍勢は、王都の命に従い北部防衛に合流せよ。妃アリシアは拘束し、王都へ送還せよ」
――それは、辺境を事実上の捨て駒とし、アリシアを処刑に近い扱いで王都へ引き戻す命令だった。
兵士たちの間に不安が走る。
「このままでは……二正面から潰されるぞ」
「王都の命令に背けば、逆賊だ」
領民の間にも囁きが広がる。
「やはり私たちは滅びるしかないのか」
「王妃様はまた奪われてしまうのか」
アリシアは広場に立ち、震える人々の目を見据えた。
「聞いてください。王都も隣国も、この地を守るつもりはありません。
ならば私たち自身で、この大地を守るしかないのです!」
その声は涙を帯びながらも力強く響き、人々の胸に火を灯した。
執務室。
レオンは机の上の二通の文書――「王都からの命令」と「隣国の進軍報告」を睨みつけていた。
「どちらに従っても、この地は滅びる」
静かに扉が開き、アリシアが入ってくる。
頬にはまだ刺客に斬られた痕が残っていた。
だが、その瞳は強く輝いていた。
「将軍様。……いえ、レオン。
私たちはもう、王都の鎖に繋がれる必要はありません。
この地に生き、この地を守るために――独立を宣言するべきです」
レオンの灰色の瞳が大きく揺れた。
「……それは、王都も隣国も敵に回すということだ」
「ええ。それでも、私は恐れません。
ここで生きたい。この地を、あなたと共に守りたい」
一瞬の沈黙の後、レオンは深く息を吐き、低く言った。
「……わかった。ならば俺も共に立とう。
ここに――辺境の独立を宣言する」
翌日、城の大広間に兵と領民が集められた。
高台に立ったレオンとアリシア。
レオンの声が響き渡る。
「聞け! 王都は我らを見捨て、隣国は我らを侵略しようとしている。
だが我らは屈しない! 今日をもって――この辺境は一つの国として立つ!」
続いてアリシアが声を上げる。
「私たちは偽りの妃でも、冷徹な将軍でもない。
この地の民と共に歩む、新しい国の“始まり”です!」
歓声が広がった。
涙を流しながら叫ぶ者、剣を高く掲げる兵士。
その瞬間、城の中に一体感が生まれた。
宣言の後、城壁に立つ二人。
遠くには敵国の旗が翻り、王都からの追手も迫っている。
それでも、アリシアの胸は不思議と静かだった。
「レオン……私は、ここで生きます。契約ではなく、本心で」
「……俺もだ。お前が共に歩むというのなら、どんな敵が来ようとも構わん」
灰色の瞳と蒼の瞳が交わる。
契約婚のはずが、今や確かな絆となり、愛に近づいていた。
星空の下、二人は揃って剣と手を掲げた。
「愛も国も、自分の手で選んでみせる」
その誓いは、まだ脆い。
だが確かに――新しい国の始まりを告げていた。




