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追放王妃は辺境で冷徹将軍と契約し、誰も知らない国を築く  作者: マルコ


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3/10

第3話 契約婚の提案

辺境に来て数日。

アリシアは毎日のように領民と接し、生活の実態を見て歩いた。

貧困、病、そして隣国の影。

王宮では決して触れられなかった現実が、この土地には息づいていた。


だが、城に戻れば将軍レオンの冷たい視線が待っている。

「……王都から捨てられた女が、領民の憐れみを買って何になる」

彼はそう吐き捨て、机に積み上げられた戦況報告に目を落とした。


アリシアは胸の奥で小さな怒りを覚えた。

――この人は、本当に冷徹なだけなのだろうか。


夜。

質素な部屋に戻ったアリシアは机に地図を広げた。

王宮で学んだ地理と交易の知識を思い出し、この辺境が抱える問題を一つずつ書き出す。

・食糧不足 → 他領からの流通路の開拓が必要

・薬不足 → 森の薬草資源を調査し、活用できる可能性

・人心の不安 → 領民に「未来がある」と示せる施策


蝋燭の灯が揺れ、彼女の影を壁に映す。

「……私はもう、お飾りでは終わらない」

追放された痛みが、静かな炎のように意志へと変わっていく。


翌日。

城の執務室で、レオンは兵士たちに指示を飛ばしていた。

そこへアリシアは地図と書き込みを抱えて入っていく。


「将軍閣下。私に一つ、提案があります」


兵士たちが一斉に顔を上げる。

冷徹な将軍に意見を述べるなど前代未聞だった。


レオンの瞳が鋭く細められる。

「……言ってみろ」


アリシアは一歩踏み出し、書き込んだ地図を机に広げた。

「この辺境を守るには、戦だけでなく領民の生活基盤を支える必要があります。

そのためには、ただの妃ではなく――私が正式にこの地の“伴侶”として認められることが必要です」


兵士たちがざわめく。

王太子に捨てられた女が、将軍に婚姻を求めるなど常軌を逸していた。


レオンは冷たい笑みを浮かべる。

「……つまり、私に娶れと?」

「はい。ただし、それは“契約婚”です」

アリシアははっきり言った。

「あなたには辺境を治める権威が必要です。

私には、居場所と役割が必要です。

互いの利を守るため、偽りでもいい――夫婦という形を」


沈黙が室内を支配する。

兵士たちの視線が、将軍とアリシアの間を行き交う。


レオンは椅子から立ち上がり、ゆっくりとアリシアに歩み寄る。

その瞳は刃のように鋭い。

「お前の言葉は勇ましいが……裏切られたとき、王都に泣きつくのではないか?」

「泣きつきません。私はもう、王都には戻らない」

アリシアは強く言い切った。


「……では、耐えられるか? この地の貧困も、戦の血も、私の冷酷さも」

「耐えるのではなく、変えてみせます」


その瞬間、レオンの目がかすかに揺れた。

冷徹と呼ばれる将軍の奥に、微かな光が差したようだった。


長い沈黙の末、レオンは低く言い放った。

「いいだろう。契約婚だ。だが――私の横に立つからには、半端な覚悟は許さん」

「承知しています」


二人の間に結ばれたのは、愛ではなく利害一致の契約。

だがその握手は、確かに互いを認める第一歩だった。


兵士たちは困惑の表情を隠せなかった。

だが誰も、将軍が一度下した決断に逆らうことはできない。


その夜。

アリシアは質素な寝台に横たわり、静かに胸に手を置いた。


「契約でもいい……。けれど、私はここで本当に必要とされる存在になる」


遠く、冷徹な将軍の影が彼女の運命に重なっていく。

それがやがて、偽りを超えて真実に変わることを、まだ誰も知らなかった。

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