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魔族の揺りかご  作者: 広峰
二章 幼体期間

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盤上遊戯の賭け勝負 四


「じゃあ、王都で人気の品物をカシィコンにあまり置いていないのはどうしてですの? エレガーティスの方ばかり贔屓(ひいき)しているのは何故なんですの? うちの領をないがしろにしているのではなくて?」


 伯爵夫人が更に聞く。

 そういえば、前にもそんな文句を受けたと言っていた。エレガーティス領との張り合いをこちらへ持ち込まないで欲しい。面倒な。

 つい、無表情が保てなくなってしまう。


「そのようなことはございません。ご注文いただいたお求めの品物は、お約束した通りきちんとお渡ししております。どちらの店舗も、そこで人気の商品を多く置いているだけで、特に優劣はつけておりません」

「本当に? どうだか」


 伯爵夫人は不機嫌さをにじませ、鼻を鳴らした。淑女らしい振る舞いが、だいぶ失せかけている。


「本当でございます。例えば、カシィコン産のワインはエレガーティス支店で大変好まれておりますが、ここでは目新しくありません。それより、街で暮らす人々には嗜好品よりも魚や肉や新鮮な野菜が必要ですし、皆様、日々の生活の為の品物をお求めになります。

 逆に、エレガーティスには豊かで広い農地がございます。良質な自前の農作物がそばにあるのです。遠方から萎びた品物を持って行ってなんになりましょう。むしろ、手に入りにくい他領の特産品や嗜好品、暮らしを彩る物が喜ばれます。あちらとこちらでは求める物が違うのです」


 説明すると、むっと伯爵夫人が口を閉じた。私の言葉に老婦人が目を細める。


「では、我が領の貴女の店は、平民重視の店ですのね」

「はい。カシィコンの店はそうでございます。元々が、近くで採れる食材と地元の雑貨を扱うトロッフィ商店が基盤ですから」


 そう返すと、伯爵夫人はつまらなそうに横を向き、老婦人は重たげに息を吐いた。


「あぁ、トロッフィ商店。あれは……真面目な良い店でしたね」


 老婦人は、義父母の店を見知っていたのか絞り出すようにつぶやいた。


「もう一つ聞いておきたいのだけど。そのトロッフィ商店のあとに出来た、『馬の骨』という食事処のことです」

「っ、はい」


 はっとして老婦人を見た。そうだ、この人はオストアロゴの祖母でもある。


「オストアロゴにその場所を貸したのはどうしてかしら。理由を聞いてもよろしい?」


 皺深い目の奥の探るような視線と慎重な口振り。私の様子をうかがっている。


 伯爵家から追い出したの彼のことを、ここで聞かれるとは思っていなかった。でも、もう一人の孫のことだって、気にかけてないはずがない。

 伯爵夫人も使用人達も、耳をそばだてているようだ。


 私は変に誤魔化したりせず、ありのままを答えた。


「トロッフイの店は、有り難くも、折角お返し下さった家ですが、私が自分で住むにはまだ辛く……その、色々とありましたので、気持ちの整理が少し、難しくて……。でも、大事な思い出もある家ですし、手放すつもりは少しもありませんでした。

 私は住まないですが、あそこは立地が良いので、空き家のまま遊ばせておくのも勿体(もったい)なく、何に利用したら良いか決めかねておりました。そこへちょうど、オストアロゴさんが支店にいらして、独り立ちする場所をお探しだとお聞きしました。ならば彼に使ってもらってはどうかとなりまして、お貸ししました」


 わずかに眉を寄せ気味にして、老婦人が首を傾げる。


「そう。貴女、あの子と親しかったのですか?」

「いいえ、それまでは全く。ですがお話ししてみて、誠実な方とお見受けしました。今は、仕事に真面目な大変良い人に貸したと思っています」


 彼を思い浮かべ、少し微笑んで首を振ると、彼女は目を細めた。


「他意は無いのですね」

「他意?」

「いえ、何でもないわ。評判の良い店と聞きました」

「はい。美味しくて店内の雰囲気も良く、私も仕事の合間に使っています」


 その辺の様子は、伯爵家でも監視を通して知っているはずだ。私はそこで食べるか商談するかしかしていない。


(なんだか、お腹空いてきた)

 ぽつりとフォスアンティピナがこぼす。

 そうだね。今はお茶会なのに、お茶は不味いし居心地も良くない。

 そのうち、またオストアロゴの料理を食べに行きたいものだ。


 老婦人は少し黙って、小さくため息を吐いた。


「……息子が、トロッフィ商店に愚かな真似をして、残念に思っていました」


 はっとして、老婦人の顔を見た。ほんの少し彼女の目蓋が震えていた。


「正直なところ、貴女がルフェイ男爵夫人になってからずっと、伯爵家を恨んでいやしないかと心配でしたよ。ですが、貴女は直接私達に恨みごとをぶつけるでもなく、新しく自分の店を広げただけで、何も言ってきませんでした。……ええ、あなた方の結婚前にルフェイ男爵家が、婚約者の親の埋葬について問い合わせてきた以外は、何も。私は貴女のことを、随分と身を(わきま)えた人だと、主人と一緒に感心したものです。ですからこちらも事を荒立てずに、妥当と思われる対応を致しました。……なのに、今度はまた孫が迷惑を。

 謝罪しましょう。夫は立場上軽々しく謝れませんけれど、私と同じく心を痛めていたわ。代わりに私が謝ります。ごめんなさい。申し訳なかったわ。今回も、貴女を疑って悪かったですね。私からはもう、何もなくてよ」


 今頃になって、先々代の伯爵夫人から詫びられるとは思わなかった。

 私はただ、頭を下げた。

 下向いたまま、涙が落ちないよう瞬きを何度か繰り返す。


 だって今更、何を言えば良いのだろう。


 本当は、何か言うべきなのかも知れないが、胸の内のもやもやは、上手く言葉にまとまらなかった。何もかも終わったことだ。たとえ、まだ辛く悲しいとしても。

 それに、先々代の御領主様の頃は、大通りの周囲も店も平穏で、領の治め方にも不満など無かった。だから、義父母は先々代とこの人に対しては、恨みなど持ってないと思う。

 背後の侍女が、私に続いてそっと頭を下げたような気配がする。


「っ……く」


 と、伯爵夫人が嗚咽を漏らし、唇を噛みながらほろほろと涙をこぼし出した。

 突然のことに驚いて凝視してしまう。こっちの涙が引っ込んだ。


「……この人が悪く無いのでしたら、一体、誰が、何が悪いんですの……?」


(この個体、悲しみ、怒り、諦め、混ざってて複雑)

 フォスアンティピナが、嗅ぎ分けて教えてくれた。


 泣き顔を見せないように、伯爵夫人が両手で顔を覆う。感情を抑えるのが苦手な人なのかも知れない。


「……お祖母様。男爵夫人が夫を誘惑したんじゃないというなら……カシィコン家を恨んでないというなら、全部、間違っていたんですのね……。

 薄々分かっていました。ソストースは、私のような女はお好みにならないんですわ。控え目でおとなしそうな女が好きなんでしょう。男爵夫人のような、庇護欲をそそる見た目の女が。私のことなんて、義務ばかりで娶ったどうでもいい女で、無事に息子を産んだなら、あとはもう用無しなんですわ!」


 老婦人の驚いた顔はほんの少しの間だけで、すぐ穏やかに否定した。


「そんなことありません。アミーナさんは我が家に必要ですよ。大事な女主人です」

「いいえ。お祖母様は優しくして下さいますが、ソストースは、私の血筋だけが目当てでしたわ。家のために私と結婚しただけ。どれだけ私が心を砕いても気にとめないのです。そのうち私をお飾りの妻にするつもりなんでしょう」


 伯爵夫人が弱音だか本音だかを、赤裸々に吐き出した。


 貴族女性が、婚家で夫と上手くいかなくなるという話は良く聞く。原因の多くは、政略結婚で本人の好悪の感情より利害関係を重視するからだ。婚姻で両家の繋がりと、その血を引く子供が求められる。しかし、結婚前も後も、男女間の色々はほぼ考慮されないせいで、夫も妻も、それぞれが余所で恋愛するのは黙認されている。

 とはいえ、跡取りは夫婦間の子であることが望ましいから、世間一般で、浮気はやっぱり醜聞でしかない。


 ちょっとこれ、私が聞いてしまって大丈夫なの?

 他家の事情に口を挟めなくて、私は無駄におろおろしてしまう。どうしよう、気配を消したい。とりあえず黙っていよう。


「私の目が届く限り、そんなことはさせませんよ」


 老婦人は、伯爵夫人の背中を優しげにさすってなぐさめたが、伯爵夫人は否定した。


「だって、最近は忙しいと仰って、しばらく顔も見ておりません。私はともかく、息子の様子も見に来ないんですもの」

「おかしいわね。別荘の方には、ご機嫌伺いと言って顔見せに来ましたよ。それに、今年は実りに問題も無く、それほど忙しくないはずです。まだ新酒のワインも出来ていませんし。……まさか、家に帰って来ていないとか?」


 伯爵夫人の赤い髪がふるりと揺れた。

 使用人達がしかめ顔で口を引き結んでいる。


(周りの人間、困ってる。何か隠してる感じ)

 そっとフォスアンティピナが教えてきた。


 隠してるって、妻に内緒ってこと? 家に帰らない理由が家族に話せないようなことなの? えっ、ソストース様は妻子を放って出歩いているの? 子供ってまだ赤ん坊だよね? 何してるの?


(たぶん、そんな感じ。半分より多くが同情と罪悪感、沢山の緊張、少しが嘲笑)

 なんだか、伯爵夫人が可哀想になってきた。


「……お祖母様……私、あの人の気持ちを得られず……ぐすっ、至らなくて申し訳ありません」


 とうとう鼻をすすりだした彼女を労りつつ、老婦人は怖い顔で微笑んだ。


「いいえ、貴女は悪くないわ。良くやっています。   ……後継が産まれたとたんに()()()をするなんて、少しお仕置きが必要ね。可愛い嫁を泣かせたりして。どこで悪い考えに毒されたのかしら? 

 ……今日の話は皆、内密に。いいかしら?」


 彼女が使用人に命じると、部屋の空気がピリッと変わった。黙って使用人達が深々と頭を下げる。

 どうやらこの中で一番力を持っているのは、隠居しているはずの祖母のようだ。


 老婦人は、少しも笑っていない笑顔を私に向けた。


「ねえ、ルフェイ男爵夫人。お嫌でなければうちのアミーナさんと仲良くして下さいな。貴女は真面目で分別もあるようだから、私のお願いを聞いて下さるわよね?」

「お、お祖母様?」


 老婦人の発言に、びっくり顔で伯爵夫人が顔を上げた。私もびっくりだ。


「お聞きなさい、アミーナさん。互いに何でも話せるお友達になったとソストースに言えば、あの子はかえって男爵夫人に何もできなくなりますよ。やったことが両方に筒抜けになると分かればね」


 大変上品に老婦人がにっこりする。これは、たくらみの顔だ。


「アミーナさんは、何も言わずに堂々と社交してらっしゃい。時々男爵夫人を招いたり一緒に出掛けたりして、仲の良さを見せつけて、いつ嘘が露見するのかと冷や冷やさせておやり。あれでも外聞は気にする子ですから、貴女が社交的になればなるほど気をもむでしょう。男爵夫人は普通にそれに付き合って下されば良いわ」


 どうですか、と私を見た。

 それって、結託してちょっと嫌がらせしてやろうってこと? 


(えっ、面白そう!)

 フォスアンティピナが、わくわくした感情を送ってきた。


 伯爵夫人がゆっくりこちらを向いた。目に涙が一杯溜まったままだったが、それが急に挑戦的な色に変わったような。

(うん、すごくやる気がある)

 ドキドキした感情と共にフォスアンティピナが肯定した。


 彼女は遠慮がちながらも期待のこもった声で言った。


「私と……友人に、なってくれるかしら? 今回のことは、謝るわ。その、何なら、友人の振りだけでも構わなくてよ」

「……恐れ入ります。私で良ければ」


 ゆっくりと私はうなずいた。

 格上の二人を前にして、私が嫌と言えるわけがない。

 それに、私だってずっとソストース様にむかついているのだ。協力するのにやぶさかでない。


「ああ、良かったわ!」


 嬉しそうに伯爵夫人が笑んだ。笑えばそれなりに可愛らしい顔になった。ずっとそうしてくれれば、なんとか親しく出来そう……かな。


 その顔を見ていて、ふと(ひらめ)いた。


「あの、伯爵様へのお仕置きなのでございましょう? でしたら、伯爵様から頂戴した盤上遊戯のお金は、一度私のところで預かりました後、内密に伯爵夫人へお返しします」

「まぁ、いいのですか? でもどうして?」


 驚きつつ、嬉しそうに伯爵夫人が両手を合わせ、次に小首を傾げた。


「もちろん良いですわ。元がろくな理由じゃありませんもの。そんなお金をいただいても、あまり気持ちの良いものではございません。私が持っているより、いっそ、伯爵夫人が伯爵様から罰金を徴収したと思ってお受け取り下さい。それを有効活用して、()らしめて下さいませ」


 老婦人が「それは面白……良い案ですね」と満足そうに頬を緩ませ、伯爵夫人は楽しそうに含み笑いした。


「ふふふふ。良いでしょう。そうさせてもらいますわ」


 それから、お茶が淹れ直され、先程は無かった茶菓子も出てきて、仕切り直しとなった。


 少し三人で相談して、いくつか取り決めた。

 まず、伯爵夫人と老婦人は私をティピナさんと名前で呼んで、私は伯爵夫人をアミーナさんと名前で呼び、老婦人を大奥方様と、身内のように呼ぶことになった。

 また、季節ごとに一度の頻度で茶会を開き、情報交換をすることになった。

 そして、私が仕事でカシィコン支店を訪れる時は、必ず声をかけるという約束と、今後も私の店を御愛顧いただけることが決まって、最後に握手をした。


(楽しかった。伯爵夫人は気分が分かりやすいから、面白い)

 帰りの馬車の中で、フォスアンティピナが大満足そうに言う。

 まあ、伯爵夫人……アミーナさんは、少々感情的というか、根が正直な人のようだ。先々代の伯爵夫人……クロディア大奥方様は、そんな彼女の真っ直ぐさを気に入っていそう。


「お疲れ様でございました。無事終わって良かったですね、ティー様」


 魔族の侍女が微笑んで労ってくれた。本当に良い結果に終わって良かった。

 招待されたときはどうしようと思ったが、なんとかなった。あの二人に反発せず、お勧め通り憐れを誘ったのが良かったようだ。

 私は深くうなずいた。


「ええ。誤解が解けて良かった。今日は付き添ってくれてありがとう。助かったわ」

「いえ。どういたしまして」


(ありがとう。ティシアがいじめられなくて良かった)

 フォスアンティピナも私の内で侍女に礼を言う。

 すると、侍女は珍しく目をぱちくりした。ふわりと笑んで、嬉しそうに私を見る。


「ティー様が良き『揺りかご』で良うございました」

「そ、そうですか」

(うん。私、ティシアが好きだよ!)


 幼体からの真っ直ぐな好意がぶわりと広がって、私の心を満たした。






 そうこうしている内に、もうすぐ秋に差しかかる頃になった。


 新しく冬季用の五本指手袋を、同じ意匠で色を変えて三組作ることにした。なるべく優雅な仕上がりになるよう、前にリンティナ達の魔族の商隊から買った帝国産の布地と毛皮を使って、ルフェイ領の仕立屋に注文した。

 ひとつは自分の分で、あと二つはカシィコン家に贈る予定だ。伯爵夫人アミーナさんとクロディア大奥方様と、仲良し証明の小細工にするのだ。

 あの二人は、美しく丁寧な仕事の品物でないと身に着けてくれなさそうだから、仕上げは念入りにと頼んだ。


 そんなことをしていたら、森の館から連絡が来た。ロフィーダの子の脱皮が始まりそうだという。


 クリスは、おやおや、と言いながらも嬉しそうだ。


「まだ殻の棺も作らせていないのに、せっかちな子だね。脱皮後の用意も終わっていないだろうに」


 脱皮後か。

 私は以前、リコフォスが脱皮した後、婚姻の儀式の後半で花冠をつけて登場し、お披露目をしていたことを思い出した。魔族の少年は皆の前で挨拶して、一族の間を歩き回っていた。


「ロフィーダの子も、森の館でお披露目をするの?」

「いいや。贄の子はお披露目をしない。脱皮後はまだ幼すぎて、挨拶なんか出来ない。人間なら、乳離れしたばかりの赤ん坊くらいだからね」


 クリスはそう言った。

 贄の子の場合、普通は周囲も親に協力して世話をするので、充分成長した頃には既にどんな子か皆が知っている、と付け足した。

 お披露目を開く意味が無いってことか。

 では、脱皮後の用意って何だろう。身の振り方だろうか。


「ロフィーダはその後の予定を決めたのかしら。どうするのか知ってる? もうしばらく森の館に居ればいいと思うのだけど、この前会ったときに、何処へ行こうかって考えていたようだから」


 そう言うと、クリスは顎に手を当てた。


「いいや、私は特に聞いていないよ。ふむ。幼子の食事が大変だから、狩りが容易に出来る所へ行きたいのだろうな。よく狩り場に出入りしていたようだし、いつも同じ場所に行くと不審に思われがちだ。そろそろ移動したいだろう」

「……狩りが容易な場所って、有るのかしら」


 私は首をかしげた。クリスは軽くうなずいた。


「それなりに有るさ。戦場なんかは不審に思われない。人が多いし死人が出やすい環境だ。それから、旅に出ている人間は狩りやすい。旅人が居なくなってもさほど大騒ぎにならない。他にも、流れ者が多い場所や、貧民街も比較的楽だ。しかしこんな田舎のルフェイ領に、流民の村や貧民街は無いからね」

「貧民街……カシィコン領にはあったわ」


 トロッフィ家から走って逃げる中、迷い込んだ記憶がある。あの肌寒い日、見知らぬ男から逃げようとして転んだっけ。


「ああ、あるね。大きい街の裏路地には、よくあったりするよ。王都にもエレガーティス領にもある。……そうだな。何処かの貧民街かその近くに住めば、狩りが容易だ」


 にこっとクリスが笑みを浮かべた。とても麗しい。言っている内容は非常に不穏だが。


「うん、そう助言してあげようか。……そうだ、ティー。もしロフィーダが困っていたら君の支店を頼ってもいいかい? それで、ルフェイ家へ連絡を取り次いでもらえないかな?」


 私は少し考えて了承した。狩りの手伝いなんかは抵抗があるけれど、取り次ぐ程度なら、まあ。


「そうね。それくらいなら大丈夫だと思うわ」

「ありがとう。優しいね」


 クリスは嬉しそうに微笑んだ。


 その日の内にクリスは仕事の都合をつけ、大急ぎで棺の用意もさせた。

 翌朝、クリスは森の館へ様子を見に行くと言い、早々に出かけて行った。そしてそのまま、あちらに泊まってくるという伝言があった。


 ところが夕方になって、何故かルフェイ家本邸に大きな空の木箱が届けられた。新しい棺だった。


 急ぎで仕事をした職人が、完成後すぐさま運ばせたらしいのだが、どうやら連絡が上手くいかなかったらしい。運んできた老人は、届け先のルフェイ家別邸の森の館ではなく、本邸へ間違えて持って来てしまったのだ。


 もう日は暮れ始めており、今から老人に別邸へ運べと言うのも可哀想なことだ。

 とりあえず品物を受け取って、届けに来た老人を帰してやり、あらためて別邸の森の館へ持っていくことにした。


 ルフェイ家の馬車はクリスが乗っていってしまったので、急遽エクディキシ商店の荷馬車を用意した。

 棺を荷台へ積み、馬車の持ち主の私が同乗する。御者は男性型魔族に頼み、いつものように侍女と護衛の魔族に付いてきてもらった。



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