嫉妬と誤解と噂
日射しが強く木陰が心地良い。夏らしい暑さに閉口する時期になった。
私は再び荷馬車に商品を積んで、エクディキシ商店のカシィコン支店へ赴いた。
今回は、オラニオことオラニオトクスと一緒だ。ルフェイ領本店で落ち合って出発した。護衛と侍女もいつも通り付いてきている。
それというのも、今度はエレガーティス子爵家のご令嬢が、「他国の珍しい品があるなら是非とも見たいわ」と言ったせいだ。彼女の親は娘のおねだりにとても弱いようだ。
オラニオには今、エレガーティス領の支店長をしてもらっている。
あちらのお客様は富裕層が多いせいか、質の良いものを求める傾向が強い。
商人としてのオラニオは、なかなかの目利きだ。彼にエレガーティス支店へ運ぶ品物を吟味してもらい、ついでにルフェイ領本店で作る調味塩や入浴剤、カシィコン領産のワイン等の品物なんかも、まとめてエレガーティス支店へ持って行ってもらう予定でいる。
久々に会った彼は、相変わらず陽気そうで容色に優れた男性型魔族だった。前に会ったときと同じ、赤茶色の髪と明るい緑の瞳も、少しも変わっていなかった。
移動中の馬車の中で、私は彼にカシィコン伯爵夫人の話やエレガーティス子爵家の話をし、密かに張りあっているらしいことを伝えた。
すると彼は納得した様子で教えてくれた。
エレガーティス子爵令嬢は、先日行われたカシィコン伯爵家の内輪の祝宴に出席した縁者から、他国産の高級品を伯爵家がエクディキシ商店で手に入れたと耳にして、大層口惜しがったらしい。何故あっちの支店にしか無いのかと。
それで、エクディキシ商店へ他国の珍しい品を持って来いと要求したようだ。
有り難くも厄介なことだと思いつつ、オラニオからエレガーティス支店の近況を聞いた。
「こちらは順調ですよ。未だにエレガーティス侯爵本人にお目にかかったことはありませんが、定期的にご注文はいただきますし、子爵家からも良く呼び出されます。子爵家のご用は大体はちょっとした注文ですが。屋敷へ伺うと必ずご令嬢がお声がけ下さいます」
「もしかして、まだ雇いたいという話をされているの?」
「はい。ご冗談がお上手でいらっしゃいます」
オラニオの口元が、楽しそうにほんのり笑んだ。どうにも心配になってしまう。
「それは……本当に冗談なのかしら?」
「冗談でしょう。嘘の匂いがしました。本心は蒐集品や戦利品を飾るように、ただ見目が良い者を近くに置いて眺めたいと思っているのでしょう。
ご令嬢は店にも時々いらっしゃるのですが、見目の良い男性型の同胞を集めて、終始お相手をするよう求めます。適度にお相手すれば、金払いのとても良いお客様ですよ。一貫して自分に正直なところが大変可愛らしい方です。店の上得意様ですね」
「あらまあ……」
外見重視主義というやつか。
オラニオは上手いことあしらっているようだが、何ともいえない気持ちになる。
「新しいカシィコン伯爵様も、それなりに外側が良いと聞きますし、ご親戚でなくともご令嬢のお気に入りなのでしょう。カシィコン伯爵家のことは時々話題になさいます。ルフェイ男爵家と長のこともですが」
(ふうん。外側の見た目が良いと、獲物が向こうから寄って来るの、本当なんだ)
私の中でフォスアンティピナがそんなことを考えている。
そういう従姉妹がいては、あの悋気の強そうなカシィコン伯爵夫人は快く思わないだろう。
「ご安心を。ご令嬢のお好みは存じ上げていますから、良い品を選んでいきますよ」
溜息を吐きたい気持ちを抑えてうなずいた。
「……ええ。頼みます」
カシィコン支店に着くと、店主の私が馬車から降りたときよりも、先に降りて馬車の戸を開け押さえて待つオラニオの方に皆の視線が集中した。
女性従業員達は彼が気になるようだ。男性従業員もどこか対抗意識があるのか、ちょっと意識している感じがする。
「カシィコン支店の皆さんは良い方ばかりなので、また来ることが出来て嬉しいですよ」
などとオラニオがしれっと言うので、ますます女性陣が好意的な目になる。見た目もあるが、とにかく女性受けが良い魔族だ。
早速店に入り、支店長と挨拶を交わす。
他国産の品を選ぶため応接室へ移動した。
棚の上の品物を眺めながらオラニオが言う。
「店主様、今回だけでなく、もっと雑貨を入手しませんか。腐らないので良いと思います。バルニバ国の硝子は多色使いの精緻な技が美しい。小さめの室内装飾品などいかがでしょう? 多少高価でも、エレガーティス支店でかなり売れると思います」
「うーん。硝子や焼き物は割れやすいから、運搬中の破損が心配であまり乗り気になれずにいたの。この前、リンティナさん達の商隊から少し買い入れたけれど、確かに良い技術ですね。硝子杯を欲しがる方も多そうです。でも仕入れたとして、問題は輸送方法だと思うわ」
「平気ですよ。我々の同胞はただの商隊とは違うのですから。いっそのこと彼等に支店への運搬も任せてはいかがですか? 寄り道程度ですし、こちらの負担が減りますよ」
「そうね……」
そんなことを小声で話しつつ応接室を出ると、馬車の音が聞こえてきた。ふと窓の外を見ると、以前も見たことのある荷馬車が店前の通りで停まるところが見えた。
荷馬車に気付いた支店長が急いで表へ出て行くのを見て、オラニオが聞いた。
「お得意様ですか?」
「恐らくカシィコン領主様のお使いです」
少しして、店内へ見覚えがある人間が入って来た。あの無茶振りのお使いの人だ。予想通りの伯爵家だった。
伯爵家のお使いが来ると、店の者は一時手を止め頭を下げて挨拶し、上得意様を歓迎している様子を見せる。
私も皆と同じように頭を下げた。護衛と侍女、オラニオも私に倣う。
伯爵家のお使いは私を覚えていたようで、こちらを見て少し驚いたように目を見張ったが、支店長に「こちらへどうぞ」と促されて応接室へ入っていった。
来客のお相手は、慣れている支店長にそのまま任せることにした。こっちはこっちでまだやることがあった。
私は運び込んだルフェイ産の調味塩など主力商品を補充し、オラニオはカシィコン産の特上のワインを大量に選んでいった。
カシィコン支店は変わらず食品が多いが、最近は小物雑貨も増えた。編み籠や布鞄とか。手袋などルフェイ領の物もある。
オラニオは、他にも女性が好みそうな雑貨をいくつか見つくろっていた。
エレガーティス支店用の荷を全て馬車へ積み終えて、私達の作業が終わっても、まだ伯爵家の使いは応接室から出て来なかった。
扉の外まで機嫌が良さそうな話し声がするから、歓談中なのだろう。
商談の邪魔をしたくないので、支店長へ帰る旨の伝言を従業員に残し、カシィコン支店を静かに出た。
途中、前回と同じように食事をしていくことになった。
場所はやっぱり「馬の骨」だ。私にとってここが一番落ち着く場所だった。オラニオも気に入ったという。
今回も、前と同じく護衛と侍女を連れて店に入った。
「おう、いらっしゃい。久しぶり」
入店すると目敏く声がかかる。
いつものように出迎えてくれたオストアロゴに、持って来ていた包みを手渡した。
「こんにちは。贈り物があるのだけど、受け取ってくれませんか」
「うん? 俺、何か新製品のお試しがしたいって言ったっけ?」
覚えがないんだが、と彼は首を傾げた。
自領だけでなく「馬の骨」でも時々新作の調味塩のお試しをしてもらっているので、いくらか品物を渡しているのだ。彼が気に入った物を追加で渡すこともある。
彼は随分と背が伸びて逞しくなった。鼻をくすぐる美味しそうな香りも増している。
私は首を振り、見上げながら言った。
「いいえ、日頃のお礼よ。他国のだけど、魔除けのお香なの。虫除けに使うと良いと思うわ。香炉か何かはある?」
「ああ、虫除け香炉ならある。だいぶ煤けてるけどな。夏季になると蚊だの羽虫だのが寄ってきていけねえから、助かる」
笑顔で受け取るオストアロゴ。
私達のやりとりを見ながら、オラニオがニヤニヤした。
「これはこれは。虫除けですか。成る程ねえ。フフッ。やはりそういうことなのですね」
言外に、貴女の獲物なのですね、と含ませている。
私はあわてて手を振った。
違うのだ。ただ、彼がどこかの魔族に狙われたらいけないと思っただけで、フォスアンティピナの獲物にしたいわけでは無い。
「っ、ちょっと。違うのよオラニオさん。ただの用心よ……!」
(この個体は美味しそうな匂いだから、誰かに狙われないように、だよ。私じゃなくてティシアの、だよ)
フォスアンティピナが私の中で一緒に言った。
護衛が横を向いてぷっと吹き出し、侍女が口元を片手で隠す。
彼等は幼体の気持ちが何となく匂いで分かったのだろう。面白がって笑っている。
「はい。承知してておりますとも」
笑顔でオラニオもうなずいた。
意味深な態度にしか見えない魔族達に、つい頬が熱くなってしまう。
否定しようとしたら、オストアロゴのほうからゴホンと咳払いする音が聞こえた。
「や、うん、その……ありがとうございます。若奥様」
見ると、照れ臭そうにオストアロゴが赤い顔でお礼を言った。
ああっ、何か勘違いしている……!
「いえ、本当に何も」
焦って言い訳しようとしたが、私の声は親切に説明する侍女の言葉に遮られてしまった。
「使い方はお分かりになりますか? 匙に一杯ほどで半時弱くらいは火が保ちます。匂いは火が消えてもしばらく続くので、お店のお料理に移るのが嫌でしたら、寝る前など、自分の部屋でお使いになるのがよろしいかと思います。衣服に焚きしめれば効果的ですよ」
「あ、そっちのがいいか。やってみるよ」
上機嫌でオストアロゴは包みを大事そうに持ち、厨房へ戻っていく。
私は魔族達に、むっとした顔を向けた。
「受け取っていただけて良かったですね、ティー様」
「喜んでくれたようですね」
だのに、美しい顔でにっこりした侍女が言う。護衛もきりっとした顔を緩めてほほえましそうにしている。
全員に悪気が無いのが逆に質が悪い。
邪気の無い皆の笑顔を見ていると、怒る気が失せてしまった。
「全くもう。……座りましょうか」
変に目立ったらしく、ちらちら視線を感じる。肩をすくめて店内へ目をやると、何人かにさっと目を逸らされた。やれやれ。
今日もほどほどに客がいて、店は繁盛しているように見える。
奥の広いテーブルは空ていたので、そちらへ皆で座った。
私達はオストアロゴのお勧め料理を注文した。夏らしくさっぱりしたハーブと柑橘類のソースがかかった薄切り肉を堪能しながら、くつろいだ。
ふと、オラニオは去年も今年も夏至の宴のときに森の館へ来ていなかったな、と思い出した。
ということは、ロフィーダの近況を知らないのでは。
彼等……クリス、オラニオ、ロフィーダ、リンティナ……は、かつて同じ夏至の儀式に参加していた。それぞれの卵が全部無事であったならば、フォスアンティピナにとっていわば同期にも似た間柄だったはず、と私は勝手に想像していた。
私は彼にロフィーダのことを伝えておこうかと思い、口を開いた。
「今年の夏至、森の館でロフィーダさんに会ったのだけれど、彼女の幼……っ、と。その、子供が。脱っ……んん、何て言ったら……ええと、もう一度生まれる? みたいなの。予徴? が、現れたと言っていました」
産卵印が再浮上したことを言おうとして、うっかり幼体だの脱皮だのと言いかけ、しどろもどろになった。
説明に苦労してから気付く。良く考えれば、人が集まる町中の飲食店でする話ではなかった。
しかし、ちゃんとオラニオは察してくれた。
「ああ、もうロフィーダの子が生まれるのですか。思ったより早いですね。そういえば、ルルディア様の所に滞在していたのでしたね」
「ええ。とても嬉しそうだったわ」
「森の館なら安心です。男爵様もお喜びでしょう」
オラニオが同胞の誕生を歓迎する笑みを浮かべた。護衛がうなずいて同意する。
「はい。新しい命の誕生を期待していましたよ。ルルディア様にお任せすれば間違いない」
(うん。新しい仲間に会うの楽しみ!)
私の中でフォスアンティピナが弾んだ感情を伝えてくる。
侍女も微笑んで言った。
「一族が増えるのは喜ばしいことですわ。私共も楽しみに思っています。早くお子に会いたいですわね」
「でも、ロフィーダさんは今後のことをあれこれ考えているようだったわ。落ち着いたら子供と一緒にどこへ旅しようか、とか」
私がそう言うと、侍女があら、と声をもらした。
「ルフェイ領内に居ればいいでしょうに。きっとクリス様はお許しになりますわ。彼女が元いた一団は旅路に出てしまっているでしょうから、今、森の館を出たら一人になってしまいますわよ」
「ひょっとしてルルディア様とクリス様に遠慮しているのでは? 彼女の子の場合、普通の生まれではありませんから、迷惑をかけると思っているのかも知れません。しかし一人で子育てとなると、色々大変になるぞ……」
護衛が心配そうに言う。
そうだ、贄生まれは通常よりも小さく生まれると聞いた。大丈夫だろうか。私はオラニオにたずねた。彼も贄生まれのはず。
「オラニオさん、ロフィーダさんの子のような場合、育てるのって大変なのですか?」
「そうですねえ。やはり彼女一人では大変でしょう。同胞と離れて『揺りかご』も無く、いわゆる片親しかいないのと同じ状況になります。せめて後見してくれる誰かが居ませんと、万が一のとき不安ですし守りが薄いです。それに、育ちが悪いことにもなりかねません。僕も片親で、商隊に入るまで苦労しましたよ」
「……つまり、世間知らずになってしまいますわ」
侍女が付け足しながら、ちらっとオラニオを見る。成る程。人間社会での常識が不足してしまうのか。
私は侍女にたずねた。
「ちょっと心配になってきました。私、何か手伝えるかしら。館ではロフィーダさんと時々お話しましたし、知らない仲じゃありません。……後見には、どんな方が理想的なの? あ、元いた旅の一団の方々のほうが、気心が知れて良いのかしら?」
「それはそれで悪くありませんが、子育ての経験豊富な方、例えばですが、ルルディア様のような方なら最高です。ティー様はお気持ちだけで充分ですわ。ご自分の身を大切になさって下さい。そうそう、ただの人間では駄目ですわよ。たちまち食い物にされてしまいます」
ああ、人間が不用意に近付くと、まだ分別の無い幼体が、餌扱いして襲ってしまうのか。
「じゃあ、今後しばらく私も近寄らない方が良いのかしら?」
(ティシアは私の大事な『揺りかご』だから、他の子に食べられたら、私は怒るよ。味見も駄目。かじったら反撃するから!)
ふっと、幼体の決意を感じた。私を守ろうという気持ちが伝わってきて、ちょっとほっこりする。ありがとうフォスアンティピナ。
「いえ、同胞ですもの。ティー様でしたら大丈夫ですわ。ふふふ。ロフィーダの子とティー様のお子が、仲良くしてくれると良いのですが」
『揺りかご』の私は、食欲の対象外になるようだ。
何かを察知した侍女が、眼を細めて笑った。護衛も柔らかく言う。
「喧嘩はいけません。身内なら子供同士だろうと仲違いは避け、一族の為に助け合うべきです」
(うん。わかった。ロフィーダは仲間。ロフィーダの子も仲間、だね)
魔族の結束は固い。フォスアンティピナと一緒に、私は神妙にうなずいた。
「……そうね。クリスも常に一族のことを気にかけているわ」
「はい。もちろんティー様とお子のことも大切にしていらっしゃいますわ。仲良くなさいませ」
と、カシャッと音がした。
そちらを見ると、オストアロゴが食後のハーブの茶を運んでくるところだった。うっかり碗と受け皿が擦れたらしい。
「失礼しました。……どうぞ」
どこか掠れ気味の声でつぶやいて、器をテーブルへ置いた。
その手が微かに震えている気がして訝しく思い、彼の顔を見上げると笑みが消えていた。その上、顔色も青白い気がした。
(この個体、混乱してるみたいだよ。衝撃と絶望と悲しみが混ざった匂いがする。でもすごく耐えている感じもする)
そうフォスアンティピナが教えてくれた。
彼は突然どうしたのだろう。
「ありがとう。オストアロゴさん、顔色が悪いわ。……大丈夫?」
「ああ。何でもない」
オストアロゴは引きつった笑みを見せ、おずおずと聞いた。
「その、なんだ。若奥様って、お子様がいるのか?」
いきなりの質問で、答えに詰まった。
クリスの子なら体の中に居る。けれど、私の子供というより私に似る予定の魔族だ。
私は曖昧にうなずいた。
「……ええ、まあ。そうね。クリスの子が」
私のはっきりしない返答に、オストアロゴは、そっか、と言った。
「知らなかった。いや、目出度いこったな。……あ、しまった、何も祝いが用意出来てないな。そうだ、今日は俺のおごりにしよう!」
「まあ。悪いわ、そんな。ちゃんと支払うわ」
「いいって。気にすんなよ」
努めて明るくしているのが分かるわざとらしさで、オストアロゴは無理矢理にっこりした。
「大変だろうが子育て頑張れよ。あ、お貴族様なら乳母か何かがいるのか。えー。……あのさ、何かあったら相談とか乗るぜ。本妻はドンと構えて気楽にな。……俺も異母兄弟がいたからよ。あんまり頼りにならねえかも知れねえけど、愚痴ぐらい聞くし。まあ、今日はゆっくりしてってくれ」
「うん……?」
後半、良く分からないことをもそもそ言い、オストアロゴは目を伏せてそそくさと離れていった。
私が首をかしげると、困ったようにオラニオが言った。
「彼はどこから聞いていたのでしょう」
「さあ。少なくとも、ロフィーダの子が生まれる話のときには気配を感じなかった。随分と驚いていたようだ」
護衛が声をひそめた。侍女が気遣わしげに言う。
「単にティー様にお子がいたから驚いたのではありませんか? 傷心でしょうね」
「しかしあの言いよう……。ルフェイ家に他の子が居て揉めそうだとでも思っているのか?」
「ロフィーダのアピリスティアを一族の子と言ったから、誤解したんじゃないかしら」
私は、ロフィーダの子のことを勘違いしたのかもと考え、そう言った。
オストアロゴは、平民の庶子でありながら跡継ぎにされかかった。意にそわず振り回された自分の経験から、私を心配してくれたんじゃないかと思う。
「ですが、男爵様が愛妻家なことは、この国の貴族の間では知られた話だそうですよ。そろそろ店主様にお子が出来ても、何の不思議もありませんでしょう。それに、男爵様は愛人も、ご兄弟や近しい親戚もいらっしゃらない。妻が平民の出だろうと正妻の子なら嫡子では?」
オラニオが否定する。
まあ確かにそうだが。前カシィコン伯爵が非常識なだけだ。
私は肩をすくめ、そっと滋養液を垂らしたハーブのお茶をいただいた。
……私達が店を出るとき、オストアロゴは忙しいのか厨房におり、代わりに若い女性の接客係が見送ってくれた。
私とオラニオはここで別れ、それぞれ帰途についた。
後日、カシィコン伯爵家が、残っていた高額商品を全部買い取ったと報告を受けた。売れて何より。
それと一緒に、「ルフェイ男爵家でいつの間にか子が生まれていたらしい」という噂が流れていると報告があった。
更にもう一つ。「ルフェイ男爵夫人は男女を問わず容姿が良い者を侍らせて、何処へでも連れ歩いている」という噂も流れていた。




