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魔族の揺りかご  作者: 広峰
二章 幼体期間

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24/31

一族の元長


 部屋から出て広間へ行き、扉を開けると魔族達が談笑していた。

 広間の外へ出る扉は全て開け放たれ、儀式会場の庭から直接やって来られるようになっている。おかげで風通しが良い。


 儀式日の昼間は各自が自由に行動し、勝手に休憩を取ってかまわないそうだ。夜明けに行う終わりの儀式に間に合うのなら、それまで敷地内でどう過ごしても良いらしい。


 森の館は、『幼子達の家』以外なら何処でもほぼ出入りが許されている。ここ本邸にも、他国から来たらしい見慣れぬ衣装の、良く知らない魔族が出入りしていた。

 

 夏至の今日、繁殖期の魔族はまだ空を飛び回っている。人間の『揺りかご』達は卵を産み付けられるため、椅子の上でぐったりとして体が動かせない状態だ。

 儀式の主役達は契約達成という名の繁殖行為を行っている最中で、ある意味非常に忙しい。


 一方、宴に参加しているお客の魔族達は気楽なものだ。

 余興を楽しむ貴族のように仲間達の踊りを眺めたり、吟遊詩人の魔族が気まぐれに口ずさむ歌を楽しんだり、魔族の商隊が運んで来た他国の珍味を肴に飲み食いしたり。

 魔族達は、気が向けば誰とでも会話し、滅多に会うことがなかった同胞と、親睦を深めている。更には、初見の挨拶回りや知り合いに仲間を紹介するなど、積極的に交流を図っていた。


 まるで一種の社交場のようなものに見える。というか、実際そうなのだろう。

 人間の社交と違うのは、地位や身分に応じて大袈裟に着飾ったり、序列を重んじた堅苦しいやりとりが無いことだ。

 魔族達は年代差に配慮するものの、貴族や平民、国や性別も関係なく、ただ興味の向くまま楽しく過ごしている。

 宴の装いも、繁殖期の主役以外は服装規定が無く、それぞれ自分に似合う好きな格好で自由に楽しんでいるし、話す内容も腹の探り合いなんかではない。

 彼等は昨日から続く宴会気分のまま、明るくにこやかで、分かりやすく皆が浮かれていた。


「あら、ティーさん」


 後ろから声をかけられて振り向くと、角杯を手にしたルルディア様が、にこにこしていた。どうやら一息つきに来たようだ。


「おはよう。良い朝だこと。……やっぱりその服、似合うわね。可愛いわ」


 私は森の館の主人に笑顔を向け、挨拶した。


「おはようございます。ルルディア様のお見立てだったのですか? ありがとうございます」

「そうよ。生地を見たとき貴女に合うと思ったの。地色が瞳と同じ暗緑色でしょう? 私と色違いのお揃いよ」


 そう言って、うふふと笑う。

 ルルディア様の服は、私と同じ形の品の良い丈長のチュニックワンピースで、若草色地に白い花模様だ。彼女の明るい雰囲気とよく似合っている。腰で結んだ共布が吹き込んだ風にふわりと翻った。


 彼女の瞳の色も緑色だが、私と違って春の木の芽のように明るい色をしている。そういえば、クリスの瞳は緑玉のような輝かしい緑色、リコフォスのはくすんだ緑色だ。

 そして元々私の瞳は青かったが、幼体の孵化後から暗緑色になったのだった。


「どうして瞳が緑色になったのかしら」


 服の布地を見つめてぽつりとこぼした疑問を拾い、ルルディア様はさらりと答えた。


「目は幼体の体液の影響が出やすいからよ。貴女の……『揺りかご』の血は、幼体のせいで少し緑っぽくなるの。それで昔から、緑の瞳は魔族の証しで魔性の目って言うのよ」


 さすが元一族の長様。若々しい姿をしていても知識量は豊富だ。


「……ルルディア様は、何でも知っているのですね」

「うふふ、そうね。魔族の大概のことは見聞きしてるかも知れないわ。あら、なあに。私に何か聞きたいことがあるのかしら?」

「ええと、ちょっとだけ……」

「良いわよ。何でも聞いて」


 優しげな微笑で促された。

 この方の姿は可愛らしい。だのに、いつも堂々としていてどこか底が知れない気がする。魔族の一族をまとめていた方。でも、こうして私に気安く接してくれる。


「じゃあ、あの……。お伽話の、呪いの姫の物語は、もしかして魔族の話なのですか?」

「まあ、よく気がついたわね。そうよ。あれは随分と昔の……多分帝国ができるより前の話だと聞いたわ。

『揺りかご』の体が卵を異物扱いして衰弱した時のことなの。望んでもいない『贄』状態になってしまって、親は大変だったらしいわ。それでも、滋養液を与え続けてどうにか孵化までこぎつけたけれど、ちょっと相性が良くなかったようね。産卵後も油断するなという注意喚起のお話よ」


 本当に魔族の話だった。

 スタヴローノの予測がほぼ当たっていたとは。

 驚いて、もう一つ聞いた。


「では、女神の薬泉のお話も、ひょっとして?」

「ああ、バルニバ国の。二百年か三百年前の話だわね。谷の館を建てた時のことよ。たまたまあそこで温泉が湧いてしまって、もう農地にならないって土地の持ち主が持て余していたのを買い取ったんですって。そこで静かに『揺りかご』と暮らしていたら、いつの間にか、出て行ったはずの前の土地の持ち主が里に戻って来ていて、遠くから様子を見られていたらしいわ。それで妙な噂が広まってしまって。

 お話しのほうは後付け。どうにか誤魔化せたけど苦労したって、あちらの長が。うふふ。今となっては笑い話よ」

「笑い話なのですか……。教会になってると聞きましたが」

「ええ、そうよ。次の『揺りかご』が教会関係者だったそうなの。その対価で改築して教会にしたんですって」

「え、凄い……」


 契約者が教会関係者。対価で魔族が教会を建てた。なにそれ……。


 驚きすぎて、色々な考えが頭を駆け巡る。

 教会関係者が魔族と関わるなんて、その人、ばれたら破門どころじゃすまないのでは? それに、教会を建てろと言うなんて。魔族が困ると思わなかったのかしら。もしや魔族への嫌がらせのつもりだった?

 けれど、女神信仰の教会は建ったし、別段、魔族に痛手は無い。いや、魔族なら女神を敬ってはならないとか、誰も言ってないけれど。これが神罰を期待しての賭けだったとしたら『揺りかご』の負けだ。まさか女神は魔族をお認めになっているのか。もう雑念でぐちゃぐちゃだ。


(びっくりしたティシアって、面白い)


 楽しそうな幼体の笑っているような感情が流れてくる。

 口を半開きにして呆けていると、ルルディア様は私の手を取った。


「今日のティーさんは、手袋をしていないのね。ここでは必要ないって分かったの? それとも、フォスアンティピナは貴女と上手くやれているってことかしら?」

(そうだよ。ティシアは私を信じてくれるの。だから私もティシアを大事にするよ)

「まあ、好意のいい香り。可愛いこと」


 私の両手を包むように一瞬ぎゅっと握ると、花咲く笑顔でルルディア様が言った。

 それから彼女は少し目を伏せて、小声になった。


「クリス……クリオスアエラスの『揺りかご』も、最初の頃は手袋をしていたわ。私の『揺りかご』も、昔は手が隠れる袖の長い服ばかり着てて。人間はわりと似たようなことをしがちなのね」


 そんなことを言うものだから、思わず聞いてしまった。


「ルルディア様の『揺りかご』って、どんな方だったのですか?」

「私の? ……そうねぇ、ルルディアーナと私の相性はとても良くて、いい『揺りかご』だったわ。彼女は、帝国に飲み込まれた今はもう無い国の、それなりに良いところの娘だったの。いつも笑顔で前向きなことを言って、隠れて努力するような人。その上お人好しで、情に弱くて……すごく馬鹿な人間だった」


 遠い目をして彼女は言った。

 馬鹿な人間と言うけれど、人柄が良さそうな感じで好感が持てそうだ。一体、どの辺が駄目だったのやら。


「それ……普通に良い方だったのでは?」

「そうかしら。友達だと思っていた女に、間抜けにも婚約者を横取りされるような人間よ。馬鹿でしょう。しかも、その女は婚約者だった男の子供を産んだ後、別の男と浮気して出て行ってしまって、残された赤ん坊を育てるために、結局ルルディアーナは元婚約者と結婚させられた。夫になった男は、傷心を理由に仕事もせず遊び歩くし、周囲の人間も夫の味方ばかり。結婚は家の事情で仕方がなかったとしても、仕事全部を押し付けられる待遇の悪さや、不実な夫の行いを怒って訴えるべきだった。自分が我慢すればみんな上手くいくだなんて、有り得ないのに。本当に愚かだと思うわ」

「うわぁ……」


 つい口から声がこぼれ出た。

 ルルディア様の『揺りかご』だった人は、結構大変な人生を送ったようだ。

 ルルディア様はくすりと笑う。


「でも、魔族との契約を決断した。私は覚悟を決めてからのルルディアーナしか知らないけれど、それからの彼女は真っ直ぐで力強くて、大好きだったわ。何かしら心を決めている人は好きよ。私はいつもそういう人間を()()の。一緒に居て楽しいわ。それに、ちゃんと相応しい対価をあげれば、契約を守って生き残ってくれるから」

(へえ、そうなんだ。皆、選ぶ人間の種類が違うんだね)


 ルルディア様の言葉に、フォスアンティピナが勉強になるなあ、などと考えている。


 心を決めている人、か。

 そういえば、リカルドさんも貴族の子息という立場をすっぱり捨てて、ルルディア様を選んだのだった。何もかも投げ打って、愛を選ぶ覚悟を決めた人だった。


 また、うふふと笑う魔族の元長。唇に角杯を当てる。

 かなり機嫌が良さそうなのは、宴と角杯の酒のせいだろうか。もしかして酔っているのかも。

 私は重ねて聞いた。


「……じゃあクリスは、どんな『揺りかご』だったのですか?」

「クリスの……クリティアスは飛び切り美味しそうで濃厚な香りのする人間だったわ。親が隠居して領主になったばかりの、責任感が強い真面目な青年で、すごく気を張った固い表情をしていたの。自分のことより領民を助ける覚悟をしていた人間。頑張り屋でやつれててちょっと可哀想な人。きっと私以外では、彼が望む対価を差し出せなかったと思うわ」

「なら、望みは領のことだったんですか」

「そうよ。ルフェイ領の苦境を救って欲しい。領の繁栄の道筋を探して欲しい。領主の彼の仕事を手伝って欲しい。ってね」


 小さな田舎領地とはいえ、領の苦境を救えだなんて、並大抵のことでは無い。めちゃくちゃ大変な望みだ、と思う。


「えっ。それを受け入れたのですか?!」

「だからクリオスアエラスが居るんじゃない」


 あっさり彼女はうなずいてみせる。それはそうなんだろうけれど。

 幸い、ルルディア様の『揺りかご』は婚家の仕事を取り仕切るくらい出来た女性で、貴族家を守るだけの才覚があった。ゆえに、彼女の能力を引き継いだルルディア様なら、支払える対価だった。

 きっと、そういうこと。でも。


「そんな大変な望み、どうやって……」

「それはね、結婚の持参金という名目で、私が借金の返済を肩代わりして、大部分を支払ったの。うふふ。私はその時、お金持ちだったのよ。とは言っても、いきなり全額返済するとさすがに疑われるから、何回か分けて返済するぐらいの小細工はしたけれど。これが一つ目。

 それと、運良く岩塩の場所を見つけた子が同胞にいたから、情報を教えてあげたの。その流れで採掘関連の色々を調べて、作業員として罪人を受け入れる体制も助言して、ね。これで二つ目。

 あとは、領主夫人をしながら領政を手伝って、借金の元凶を片付けていったのよ。三つ目ね。なかなかやり甲斐があって楽しかったわ」

「すご……!」

(すっごい!)


 やはり、見た目の可愛らしさを裏切るほど、ルルディア様は優秀な方だった。いや、そうでなければ一族の長などやっていけないか。


「クリスはいい契約者だったわ。クリオスアエラスと相性も良くって。惜しむらくは彼の子孫が残らなかったことね。あの血筋が続いていたらって今も思うわ。すごく美味しそうな香りだったのよ」


 何か思い出したのかうっとりと言い、手にしていた角杯を一口飲んだ。


 美味しそうって。やっぱり魔族は魔族だった。

 もしクリスの『揺りかご』に子孫がいたら、獲物として狙われていたのだろうか。……怖いことだ。


「あ。そうそう、ティーさん」

「はい?」

「貴女はルフェイ男爵夫人になったけれど、クリスの子は得られないでしょう? だから、もし自分の子供が欲しかったら、人間の恋人か愛人を作って子を産んでも大丈夫よ。クリスなら認知もしてくれると思うわ」


 何を言われるかと思えば、まさか愛人を持つことの勧めだった。


「なっ、それは、……ないです」


 一瞬言葉に詰まって、あわてて首を左右に振る。すると、ルルディア様はいたずらっぽい微笑みを浮かべた。


「ふふっ。聞いてるわよ。持ち家を男性に貸しているって。とても良い匂いの個体なんですって?」


 私の持ち家と言ったら、カシィコン領のトロッフィ家だ。食事処「馬の骨」のことに違いない。

 誤解だ。オストアロゴは単なる店子で、友人だ。


「いえ、彼はそんな相手じゃないです」

「あら、残念ね。でも向こうは貴女に好意があるそうだから、考えてみても良いと思うわ。幼体もお腹の子に触れないよう言えば、多少興味があるかも知れないけど特に何もしないはずよ」

(ティーはあの個体、気に入ってるよね。誰にも手を出されたくないくらい。あの個体も、ティーを気に入ってるよ)


 フォスアンティピナまでそんな余計なことを。

 私はちょっと苛立つ気持ちを押さえて言った。


「彼は他人の妻をどうこうするような人じゃなありません。それに、私もそういった目で見ようとは思いません。義父母の仇の子供ですし」

「そうなの? でも、仇とその子は別の人間でしょうに」

「それでも、です」


 ルルディア様は不思議そうに小首を傾げてから肩をすくめた。


「そう? 気を悪くしたなら謝るわ。でも、貴女は可能な限り全力で人生を謳歌すべきよ。仕事だけじゃなく、他にも色々とね。趣味や恋愛も良いと思うわ。貴女は若く綺麗なのだから」


 確かに私は、今まで仕事を中心に生活してきた。望みを叶える為に必要だったせいでもあるが、それしか私には無かったからだ。


「ひとつ助言しておきましょう。人間の生は短い。『揺りかご』は更に短い。悔いが残らないように楽しんだ方が良いわ。たとえ失敗してもやり残しても良いの。ただ貴女は貴女で在れば良い。それが幼体の為にもなるわ」


 ルルディア様の言葉を黙って聞いた。

 人生を楽しめ。それが幼体の為になる。

 そう言われても、今更恋愛なんて分からない。


 つい、(ひね)くれた考えが浮かんでしまう。

 短命な私が成せる事は限られているけれど、人間として好きなように生きろ、後のことは気にしなくても、いずれ幼体が私に成り代わるから、ということだろうか。

 一見、私の欲望を肯定しているように思える。だが、幼体が人間を学び『揺りかご』を模倣するには、好きなことに邁進(まいしん)するのが最も良いのだろう。趣味嗜好、行動や思考の方向が分かり易い。


 私がやりたいことならある。店を守ることだ。


 小さくルルディア様は溜息をついた。


「けれど、そうねえ、家族や恋人を魔族と無縁にしておきたいと思う『揺りかご』もいるわ。貴女のお気に入りのような、良質な個体を欲しがる同胞はきっといると思うから、本当に手出しされたくなければ、隠しておく方が良くてよ」

「隠す?」

(どうやって?)

「魔除けのお香を焚くのよ。臭くて誰も近寄らなくなるわ」

(臭いお香……あ!)


 私よりも先に、フォスアンティピナが気付く。

 去年登城したときに、王家の方々の後ろで(くゆ)っていた虫除けの香炉を思い出していた。

 ああ、フォスアンティピナが嫌いだと言った、あれか。


「もしかして、王宮にあった香炉ですか?」

「見たの? そう。あれよ。酷い臭いでしょう? 帝国辺りから、貴重な香だという触れ込みを真に受けて高値で仕入れたらしくて。権力誇示のつもりなのよ。趣味の悪い……」

(あれ、嫌な臭い。私も嫌い)


 嫌悪感を伝え、フォスアンティピナがルルディア様に同意する。そうか。そんなにか。


「もっとも、王家の周囲にはなるべく近寄らない方が良いから、そういう意味では、一族の誰かがうっかり接触しないよう、臭い匂いを放っていてくれた方が助かるわね」


 クリスによれば、ルルディア様は国王陛下に気に入られていたという話だったが、どうやら近寄りたくなかった様子だ。

 まあ、国の中枢に魔族と知られたら、どんな目に遭うか分からないだろうし、当然か。

 この方は、長く生きて一族を束ねていただけあって、優れた洞察力と判断力があるのだろう。


 私の中でフォスアンティピナが、王族について考えている。


(臭い匂いじゃなくても、国王は、触らない方が良い? 王族、面倒になる?)

「ルルディア様は、陛下に関わりたくなかったのですか?」


 たずねると、彼女は大きくうなずいた。


「そうよ。例えば、私はしないと思うけど、同胞がうっかり王族を狩ってしまったり、契約の対価や結果で、万が一、政変が起きたりして、国の中心や政治形態が変わったりすると、面倒ごとに巻き込まれるわ。我々一族も身を守る為に余計な対応が必要になってくる。危ういことには近寄らないのが大事。一対一では魔族の方が強いけれど、人間は群れで対抗するから厄介よ。そうなったら出国も視野に入れないと。

 それに、権力者のせいで必要以上に目立ったりすると、狙った獲物が警戒して逃げてしまうでしょう? 程々の権力は有っても良いけど、注目されない平民寄りが一番動きやすいの」

(そうなんだ。王族、面倒。じゃあ、近づかないことにする)


 納得しているフォスアンティピナ。なるほど。偉い人を取り込む方が良いとは限らないのか。

 私も根が平民だからか、高位の貴族や王族と関わるのは怖いと感じる。


 それはそれとして、お香のことだ。


「王家が権力誇示に使うくらい、魔除けのお香は手に入りにくい高級品なのですか」

「直接仕入れたらそうでもないと思うわ。商隊の誰かに頼んでごらんなさい。エクディキシ商店なら安くしてくれるでしょうよ」


 ルルディア様は角杯をぐいと飲み干し、微笑んだ。





 夕方になって、リンティナとスタヴローノが戻ってきた。

 二人でルフェイ領の狩り場……採掘場へ行ってきたという。

 スタヴローノが上機嫌な様子だったので、実験が上手くいったのだろうと察した。リンティナも顔色がずっと良くなっていた。


 彼等は私を見つけると、駆け寄って礼を言った。


「貴女のお陰です。僕は、いや僕の幼体は、誰も死なせずに、生気を掠め取ることが出来ました」


 息を弾ませ、スタヴローノが私に頭を下げる。


「ありがとうございます。これで僕と幼体は、何とかやっていけます」

「私からもお礼を言わせて下さい、男爵夫人」


 一緒にリンティナが頭を下げた。その顔には先日まであった細く繊細な感じが消えて、明るい安心感があった。


「そんな。単なる思いつきでしたのに。でも、何とかなったのですね」

「ええ。ただ、沢山の人に触れねばなりませんでしたが」


 ちょっと苦笑いして、スタヴローノが手を握ったり開いたりしてみせる。


「差し入れと言って、作業員にパンと水を皆に一つずつ手渡しで配ったんです。喜ばれました」


 スタヴローノが説明すると、リンティナがクスリと笑って付け足した。


「その見返りに生気を一口、貰っていったんです」

(あの子、嬉しがってる。食糧を渡す対価が生気。同等の見返り。面白い)


 はしゃぐフォスアンティピナの考えに、なるほどと思う。人間の食事と魔族の食事で、魔族的には同等な感覚か。


「何かお礼をさせて下さいませんか、男爵夫人」


 二人の申し出に、私は後で良いから商隊の品物を見せて欲しいと頼んだ。

 リンティナは快く了承し、儀式の後でエクディキシ商店のルフェイ領本店を訪れる約束をしてくれた。


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