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魔族の揺りかご  作者: 広峰
二章 幼体期間

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魔族のお伽話


「ええと、昔話の? 山奥の泉の水が不老長寿の薬で、信心深い息子の親が病気になったとき、女神様のお告げに従って水を汲み、親に飲ませたら病が治って若返った、というお話だったかしら? 親孝行のお話ですよね」

「それです。呪いの姫のお話のほうは知りませんか?」

「そのう、呪いのせいで目覚めなくなった美しい姫君を助けようと、王子様が女神様に祈りを捧げ愛の力で呪いを解き、目を覚ました姫君を妻にした、という奇跡のお話で合ってますか?」


 訳が分からないながらも答え、首を傾げて聞き返すと彼はうなずいた。


「はい。大筋はそんな話です。どちらの話も、細部は違うけれど大筋が同じ話が各地にあるのです。どうやら呪いの姫は帝国から伝わったお伽話らしいのですが、若返りの薬泉のお伽話はバルニバ国が発祥と分かりました。僕は、両方とも案外魔族と関係のある実話なのではないかと疑っています」

「魔族と? まさか……」


 するとスタヴローノは、真面目な顔で説明した。


「少し考えてみて下さい。幼体が脱皮して出て来ると、見た目も行動もかつての『揺りかご』そっくりな子供の姿になるでしょう?

 もし、昔の契約者を知っていた者が、たまたま脱皮した魔族に出会ったらどうですか。知人が何十年も前の姿と変わらぬ様子で存在している。若返ったか、その人の時間が止まっていたと思われるのでは?

 また、『揺りかご』であったとしても、幼体の働きと滋養液の効果で、健康と若々しさを保っていられます。怪我や病も癒えていく。きっと驚かれるはずです。

 それに尾鰭(おひれ)が付いた噂でも流れて、いつしかそういうお話になったとしても、おかしくないと思いませんか」

「……ああ。まあ……有り得ないとは言い切れませんね」


 曖昧(あいまい)にうなずくと、スタヴローノは言った。


「今、その泉があった場所と言われているところは、バルニバ国にある女神の教会になっていて、若返りの薬泉は女神の奇跡の一つと伝わっています」

「ということは、教会が言い伝えを取り込んで……?」


 教会は、色々な昔話や例え話を用いて人々を教え諭し、女神様の教えに従って良き行いをするよう、人々に説いている。孝行や慈悲、忠義や貞節や礼節、勇気や正義などを信仰と(から)めたお話が多い。

 それは教会がごく普通に行っている布教活動の一つだ。


「そう考えられます。教会が、言い伝えの他、土地の風習も自然現象も、勝手に都合良く教義と関連付けて布教の種にするのは良くあることですし、いかにも彼等のやりそうなことです。僕はちょっと、根拠のはっきりしない噂まで女神の奇跡と称するのは行き過ぎだと思いますし、都合が悪ければ調べもせず切り捨てる態度も、いかがなものかと思いますがね」


 スタヴローノが皮肉っぽく言う。彼は破門されているからか、少々教会に思うところがあるようで、この布教の手法にあまり良い感情を持っていない様子だ。


「でしたら、ただのお話だと皆は思っているのではありませんか?」

「そうですね。人々の認識では普通のお伽話です。僕もそう思っていました。ただし、その教会が谷の館だと知るまでは、ですが」

「えっ、谷の館って、魔族の? 本当に?」


 思わず私の声が裏返った。

 バルニバ国の谷の館は、森の館のような魔族の拠点と聞いていた場所だ。

 漠然と、ここと同じくどこかの魔族が所有する屋敷だろうと思っていたのに、まさか女神教の教会だったとは。


 道理で。

 義父母の葬儀の時も、結婚したときも、魔族が平気で教会に出向き、巫女にも普通に接してるのは、教会に同胞が入り込んでいたからか。それなら納得だ。彼等が女神様を恐れないわけだ。


「本当です。谷の館は渓谷の地にあって、小さいけれど大変厳格な教会という噂ゆえに、人の出入りが少ない。そこで行われる教会行事のうち、冬至の御祓(みそぎ)の祈り日が儀式日なのだとリンティナから聞きました。寒い時期の御祓日にわざわざ参加しに来る奇特な参拝者は、ほぼ魔族なんだそうです」


 もし、夢のあるお伽話や怖い昔話、不思議なお話、それらの中に、昔からいた魔族を示す伝承が交ざっているのだとしたら。

 それを知ってか知らずか、教会は布教のためにお伽話を取り込んでいる。

 ………ひょっとして、魔族がわざとそう誘導し、人間に(さと)られないよう、逆に教会を噂の隠れ蓑として利用している? いやいや、勘ぐりすぎか。

 

 もやもやした気持ちになった。もちろん憶測でしかない。


「……それじゃあ先生、呪いで眠ったままの姫君のお話は、どのようにお考えなのですか?」

「こちらは『贄』か『揺りかご』のことではないかと思いました。長く不自然に眠り続ける人間の話です。おそらく眠り込む時期、例えば脱皮前とか産卵後とか、その辺りのことでしょう。他がはっきりしないので、そのぶん色々と想像の余地がありますが。

 それともう一つ、僕が似ていると思った話があります。

 夫が死んでしまい、残された妻が嘆き悲しみ、女神に夫を返して下さいと祈りを捧げる。泣きながら妻が死体に接吻をすると、女神の奇跡が起きて夫が生き返る、という話です。姫君の話との類似点は、死んだような状態だった人が接吻、いわゆる愛の力で目覚める話だというところです。

 これは、滋養液を与えられて回復したところを見たのでは、と思いました。

 魔族達は容姿が優れている者ばかりです。姫君や王子などと渾名(あだな)されても不思議はありません。そして、『揺りかご』を探している魔族や、契約者と一緒にいるときの魔族は、まるで異性を口説いている最中、または、夫婦か恋人同士のように見えないでしょうか?」


 言われてみれば、クリスも私に対し大層甘い言動をしていた。あれが魔族の通常なら確かに誤解されるだろう。でも。


「……こじつけが過ぎません?」

「そうかも知れません。しかし、各地で似た話が多く有るのが面白い。夫人はそういったお伽話を、何か他に知りませんか?」


 類似した話が各地にあるのかと思うと、信憑(しんぴょう)性が増してくるようだ。

 他の話……ええと、何かあっただろうか。


「特に何も……。ただ、魔族は甘言で人を惑わし、欲望を叶える代わりに、大事にしている物を奪っていく悪いやつら、と子供の頃に教わりました。あとは……そうですね……。怖いお伽話でしたら、美貌の悪魔が恋人のいる乙女を(たぶら)かして、虜になった乙女の生き血をすすり殺してしまうという、貞節の戒めのようなお話ぐらいでしょうか」

「ほう。リリパルド国にもその話があるのですか。帝国にもあるそうですよ。生き血と生気で違っていますが」


 生気をすするって、それは……。一瞬ぞわりとして、急いで付け足すように言った。


「でも、決めつけるのは早いと思いますわ」

「そうですね。事実確認のしようがありませんし、僕の勝手な考えです」


 スタヴローノはあっさり同意して軽く付け加えた。


「しかし、こうも思うのです。そういうお伽話は、契約者か『揺りかご』が自分の行いを悔いて、人々へどうにか警告を伝えたかったから作られたのではないかと」

「あの、先生、商隊の魔族達にそのことを聞きましたか? 何か言っていましたか?」

「いいえ、特に何も。教会のお伽話はなかなか面白いですね、という当たり障りのない感想だけでした。話の内容はさほど気にしていないようでした」


 いつの間にか開いた窓から聞こえていたざわめきが消え、静かな夜が迫っていた。

 既に儀式が開始されているのだろう。


(お伽話、不思議。 人間は事実だけをそのまま伝えられないんだ? 途中でだんだん変わっちゃうの、変なの)


 内側でフォスアンティピナがつぶやく。


 と、しんとした中で、部屋の戸を軽くコンコンと叩く音がした。つい身構えてしまう。

 すると、留守番の魔族の侍女の声で「灯りをお持ちしました」と告げるのが聞こえた。


 私達は口をつぐんで、侍女を部屋へ入れた。

 先程の話を魔族の前で続けるのは、なんとなくはばかられた。


 侍女の持つ蝋燭の、ふわりと広がる光の明るさに眼を細める。同時に、暗がりが深くなってきたことに気付く。

 侍女が笑みかけてきた。


「良い夜ですわ。風もおだやかで」

「はい。過ごしやすいですね」


 相槌を打つと、魔族の侍女は部屋の燭台へ次々と火を灯しながら、ついでのように「お食事の準備が出来ていますけれど、召し上がりますか」とたずねた。


(お腹空いた。あの子もずっと空腹)


 途端に私達どちらの幼体も空腹を訴えた。

 侍女によると、魔族らは外に行っているので、この部屋を使う予定はないから、このまま居座って二人して食事をしていても良いと言う。

 なら、このまま夕食を、と希望して、侍女に給仕してもらいながら同じ部屋で食事をいただくことになった。


 私は食事中の話題を意識して変えた。

 商隊に加わっているスタヴローノに、道中で見つけた美味しい物や珍しい物についてたずねると、彼も快く話に乗ってくれた。


 今回、彼の商隊が運んできた物は、帝国産の絹織物、隣国の毛皮、遠方の染め糸や、香辛料、乾物類が主な物だそうだ。他に壷や皿、装飾品、絵画なども持ってきたと言う。


 お伽話よりも品物のほうに断然興味がある。後でリンティナを探して、是非見せて下さいと言おう、と思う。

 品物入手の苦労話などを聞きつつ、美味しく食事した。

 王宮の、やたら豪華な見た目の肉料理には及ばないけれど、角杯のワインとハーブのお茶、串に刺した調味塩につけ込んだ鶏と旬の野菜の焼き物や、季節の果物の盛り合わせなど、宴らしく手軽につまめてちょっと目を楽しませるような食事だった。

 

 食後、私達にハーブのお茶をそっと出してくれた魔族の侍女が、孫でも見るような目で微笑んでいた。

 彼女は若く見えたが、見目に反して年を重ねていたのかもしれない。人間の私には魔族の年はわからなかった。






 この夜、私は眠りながら、魔族の踊る独特の拍子に合わせて、背中が(うず)いているのを感じた。

 フォスアンティピナが、拍子に合わせて動いているらしい。まるで、じっとしていられないとでもいうように。何かあったのだろうかと意識をそちらへ向けたら、反応があった。


(何でもない。ティシアは気にしないで。眠っていて)


 でも、落ち着かない様子だ。あの魔族の踊りに同調しているらしいが、フォスアンティピナは大丈夫なのだろうか。そこはかとなく興奮気味のような。


(大丈夫。容器(からだ)の調子を整えるために、ちょっと張り切っているだけだから。眠っててくれたほうが、上手く手入れ出来ると思う)


 そうなの、お手入れか。そういえば去年も頑張っていたっけ。わかった。ありがとう。

 幼体の説明に気を緩め、眠気に飲まれるように意識を手放して、睡眠を得た。


 ……一晩の内に、何度か短い夢を見た。


 夢の中の私はどれも幼い少女で、トロッフィのお養母(かあ)様から大層可愛がられていた。

 流行りの可愛らしい服や小物を買ってもらい、言葉遣いを教えてもらい、お店に出ても平気なように、お辞儀や仕草、振る舞い方を教えられている。上手に出来ると大袈裟に褒められて、頭をなでられる。お養父(とう)様も笑顔になった。

 それらの思い出は幸福な時間だった。


 ……ティシアは良い子ね。お利口ね。私の可愛い子、大好きよ。

 ……おいおい。ティシアは私達の可愛い子、だろう。

 ……まあ、貴方ったら焼きもち? ふふふ。そうね、この子は私達の可愛い子、宝物ね……。


 記憶の断片の寄せ集め。それらは酷く甘くて幸せで、泣きたくなるほどだった。


 その反動か、目覚める間際に深い喪失感を突き付けてくる。

 義父母が居ない。自分は独りきりで魔族に囲まれている。魔族達は私を大事に扱ってくれているが、それはフォスアンティピナのためで、()だからではない……。

 どうにも悲しく寂しく、目が覚めると頬が涙で濡れていた。


 手で顔をこすりつつ寂寥(せきりょう)感を押しやった。夢でしかないが、それでも義父母に再会できたのは良かったな、と思い直す。

 二人共、夢の中では明るく笑っていたから。




 早朝、自分で窓を開けると、曇り気味の空が見えた。

 まだ誰も起こしに来なかったし、館の中はなんとなく静かだ。しかし、窓の向こうは少しざわめいている気配がある。


 森の館では、魔族ばかりで安全な為か、護衛と侍女が揃って傍に控えて居ることは少なく、呼べば誰か来るけれど、随分と自由にさせてくれている。本邸よりもかなり緩い感じだ。単に忙しいからかも知れないが。


 起きたときに用意されていた服は、深い緑地に白い花模様のチュニックワンピースで、共布の飾り帯を腰で巻くようになっていた。簡素ながら品がある。これくらいだったら着替えの手伝いはいらないと思い、一人で勝手に身支度を整えた。


 そして、いつものように手袋をしようとして、やめた。

 ここには魔族とその関係者しか居ないのだし、考えてみれば不要だ、と思い至ったからだ。

 手袋を置いたままにして部屋を出た。


 儀式はまだ続いている。慣例通りなら、翌日の夜明けまで行うはず。

 ということは、私はやっぱり暇なままだ。


 クリスは儀式のため会場に出ずっぱりだし、リコフォスは参加不可で引きこもっている。

 じゃあスタヴローノは、と言えば、リンティナと狩り場へ向かったらしい。行動が早い。


 私は何の予定もなく、はっきり言って時間を持て余している。しかし相手をしてくれそうな者は居ない。夢見のせいか、少し寂しさを感じてもいた。

 そんな時に、黒髪の小柄な女性型魔族、ロフィーダと行き会った。


「あ、おはようございます、ロフィーダさん。お久しぶりです。お元気そうで何よりです」


 つい、ちょっと懐かしい気持ちになって声をかけると、彼女は私を見つけ、にっこりして足を止めた。


「あら、おはようございます。丁度一年ぶりですわね。男爵夫人もこちらへいらしていたのですね。お陰様で、何とかやっていけてますわ」


 実際、彼女は生き生きとしていた。多少細身になったような気がしないでもない。が、上機嫌で微笑んでいた。

 『贄』の世話で大変なはずでは、という思いがちちらりと頭をかすめた。それにしてはリンティナよりも顔色が良い。機嫌も良さそうだ。


「ええ。あの、幼体のアピリスティ……プロセフィさん、は、お元気ですか?」


 長い名前をどうにか思い出しながら問うと、ロフィーダは一層嬉しそうに笑んだ。

 ロフィーダの契約者だったアピリスティアは『贄』になってしまって、幼体のアピリスティプロセフィが宿っていたはずだ。


「ええ、それなんですわ。聞いて下さる? 産卵印が再浮上したんですの! 脱皮の準備が始まったんです。先程気付きましたの!」

「えっ、もう?」


 なんて早い。魔族の幼体期間は十五年くらいだから、『贄』の子は早く脱皮すると言っても五年はかかると思っていた。しかし、まだ二年しか経っていない。


「そうなんですの。それもこれも、クリオスアエラス様とルルディア様が森の館に滞在するのを許して下さったからですわ。やっぱり拠点に居るのと居ないのとでは、子供の成長速度が大違いです」


 そういうものなのだろうか。ああ、でも、儀式のあの魔族の踊りのリズムが幼体の成長を促すというのなら、余所で待つより拠点の森の館に居る意味は大きいのかも。


 脱皮か、と思い出す。魔族にとってはもう一度生まれる日で、誕生日のように祝うのだと聞いたっけ。


「それは、おめでとうございます、と言っていいのかしら」

「ありがとうございます。もちろん、嬉しいですわ」


 おずおずと言えば、嬉しげに礼を言われた。よほど嬉しいのか、ロフィーダは浮かれたように話しだした。


「でも、印がまだごく薄い色ですから、時が来るまで時間がかかると思います。……ふふふ。脱皮して少し体が落ち着いたら、アピリスティプロセフィを連れて、また旅に出たいですわ。それとも、少しどこか良い土地を見つけてあの子が成体になるまで暮らしてみてもいいわね。ああ、楽しみでわくわくしますわ」

「旅に? ロフィーダさんは、商隊に居たんですか?」

「いいえ、吟遊詩人の一団に居ましたわ。私は声がそれほど良くもないので、人前では歌いませんけど伴奏をしてましたの。楽器の演奏は熱心に学びました。だいたいの物はやれますわ。笛も好きですが、竪琴が一番得意ですのよ」


 にこにこと何かを持つ仕草をしてみせる。しかし、不自然なほど楽器のタコもマメも無い綺麗な手だった。

 彼女は謙遜したが、ロフィーダの声は悪くない。聞き取りやすく発音も綺麗だ。小柄ながら魅惑的な四肢に、艶のある黒髪と緑目の容姿は言うまでも無く美しい。これに音楽の才能を加え持つなら、人気があるだろうと思う。


「吟遊詩人の一団に。凄いですね。得意な曲とかありますか?」

「そんなに凄くないですわ。それがそこでのお仕事だっただけです。得意かどうか分かりませんが、歌物語などの曲は好きで、ましだと思いますわ。教会の女神の讃歌より、呪いの姫の物語のような人間的な歌物語のほうが楽しく思いますわ。人の愚かさと可愛らしさ、滑稽さが感じられて。庶民の祭り踊りの伴奏なども、やっていて面白いですわね」


 私の見知っている限りでは、吟遊詩人は主に酒場や町中で歌ったり演奏したりして稼いでいた。他に、人の話ではお祭りに呼ばれたり、招かれて宴を催すお金持ちの屋敷で演奏したりもするそうだ。

 だから様々な多くの曲を知っていて、宗教音楽や伝統的な音楽だけでなく、流行りの曲とか即興曲なんかもやってみせるらしい。

 ふと思いついて聞いてみた。


「あ、じゃあ、ロフィーダさんは歌の元になった物語をご存知なのですか?」

「もちろんです。元の話を知っていると演奏するときに曲の深みが違ってきます。そもそも昔の吟遊詩人の仕事は、曲に乗せ口伝を守ることでしたのよ」

「まあ。もしかして、若返りの泉の話や美貌の悪魔のお話しなどもご存知ですか?」

「ええ。でも、そういう昔話はルルディア様が詳しいと思いますわ。ルルディア様も以前は吟遊詩人の一団に居たそうですし、伝承を歌うのを聞いてらっしゃるでしょうから。きっと古い曲もたくさんご存知よ」

「ルルディア様が……そうでしたか」


 言われてみれば、ルルディア様は一族の元長だったのだ。知識はとても豊富だろう。などと考えていると、ロフィーダは「あら」と思い出したように声をもらした。


「……うっかり話し込んでしまったわ。私、大事な用があるのでそろそろ失礼しますわ」

「あっ、こちらこそ、ついお引き留めしてすみません。機会がありましたら、ぜひ何か聞かせて下さい」

「ええ、また今度にでも」


 ロフィーダは愛想良く会釈すると、背を向けて行った。その浮かれた足取りに、少しだけ魔族の踊りと通じる何かを感じた。


(きっと、狩りに行く準備。脱皮には生気が必要だから、大変)


 彼女の背中を見送っていると、フォスアンティピナがつぶやいた。

 ああ、成る程。脱皮の前後で生気が必要になると聞いた事があったっけ。


 私もいずれ狩りをする……。

 そう思うと、納得したつもりの心が、まだ尻込みしていると感じるのだった。


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