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魔族の揺りかご  作者: 広峰
一章 契約者期間
1/26

魔族との出会い


 拙作はフィクションであり、登場人物、団体、法律、宗教、及び名称等は実在のものとは一切関係ありません。



 その人は美しかった。


 男とも女ともつかない、年若そうで中性的な顔立ちと柔らかな雰囲気。

 晩秋の冷たい風と雨の中、光の加減で虹色の光沢を帯びる長い黒髪を、緩くひとまとめにし、背中に垂らしていた。


 背丈は男なら低いが女なら高い程度。雨避けに羽織った長い黒の外套のせいで、体格が良くわからないため、ますます性別不明だ。なのに、妙に惹きつける雰囲気を漂わせている。

 滑らかで綺麗な色白の肌。目鼻立ちの配置と形は完璧だ。天才芸術家による天の御使い像のように、人間離れしていた。


 私はといえば、汚れた薄着姿の上、冷たい雨で濡れた石畳の上で枯れ葉と一緒に倒れ伏し、弱って傷だらけだった。

 そしてその人は、みじめな私の上から立ったまま覗き込み、静かに聞いた。


「おや、まだ生きている。これはこれは、極上の香りだ。外側も良さそうだな。しかし、ぼろぼろだねえ。……君、助けて欲しいかい? その身と命をくれるなら、助けてあげるよ」


 声は甘みを含んで高からず低からず。

 お伽話の悪魔じみたその言葉に、私は自暴自棄な気持ちになっていたこともあって、やっと動く頭で小さくうなずいた。

 死にかけの私に、他の何が出来ただろう。


 すると、その正体不明な誰かは、ふわっと音も無くかがみ込んだ。

 水を含んで重いはずの私の体を軽々と抱え上げ、嬉しそうに微笑む。間近で見た彼の顔はやはり異様に整っていて、緑玉のような瞳が輝いていた。


「よし、では我が家へ来るが良い」


 言うなりいきなり口付けた。しかも強引に唇をこじ開けてきた。甘苦い唾液か何かが喉の奥に流れ込んでくる。

 死にかけの小娘にすることではないと、薄れかける意識のどこかで思ったが、私はひどく弱っていたので大した抵抗も出来ず、そのまま意識が遠のき、それきり気を失った。





 目が覚めて、やけに明るい感じのする室内に戸惑った。泥まみれだった服は、見覚えのない肌触りの良い寝間着に替わっている。


 暖かく柔らかな寝具と寝台から、首をひねって周囲を見回せば、淡い色調の調度品で整った可愛らしい部屋。そこで私は眠っていたのだった。


 何故こんな所に、と半分寝ぼけた頭で観察する。豪商かお貴族様か。多分、裕福な家の部屋だ。


 事態が把握できず、しばしきょろきょろしていると、控えめなノックの音がして、返事も待たずに部屋のドアが開いた。


 前掛けをつけた綺麗な女性が、水差しと器を持ってそっと入って来た。使用人、お手伝いか侍女だろう。


 使用人は、小さなテーブルにそれらを置いてから、私が起きていることに気がつくと、ひどく驚いた様子だった。急いでくるりと背を向け、戸を開ける。そして部屋の戸を開け押さえたまま、外に向かってよく通る声を上げた。


「お客様がお目覚めになりました!」


 と、ほどなくして、あの美しい人がやって来た。どうやらここの主人らしく、使用人がお辞儀した。


 二度目に見たその人は、やはり綺麗で、その上とても優雅に見えた。首を向ける動きにさえ品がある。

 ちょっとしたお金持ちらしく、身につけた緑色の胴衣は飾りボタン付きの前合わせ、その下の長袖は緻密な刺繍入りで、首元の細いリボンを少し緩め、ゆったりとくつろげられている。ちらりと素肌がのぞいて若々しい健康的な色香が漂っていた。

 男にしては線が細いが、胸は平坦だったし、太い革のベルトと、男性の着る下穿きに脚衣を身に付けていることから、私はその人を男なのだと思った。


 使用人が大きめの肩掛けを持ってきたので、寝たままは失礼かと、私は急いで寝台から身を起こそうとした。


「おはよう。と言っても昼過ぎだけどね。気分はどう? 調子の悪いところは有るかな?」


 寝具から腕を出している途中、体調を問われて、はっとした。

 そうだ、力尽きて地面に倒れたのだ。だが、殴られた頬も重かった頭も、全く痛くない。転んだ膝にも痛みが無い。体が嘘のように軽かった。熱が下がっている。

 私は、捕まれた(あざ)の残る手を握ったり、擦り傷後のかさぶたのような感触がある足をそっと動かしたりしてから、大丈夫と首を振った。


 彼は寝台脇に置いてあった椅子に歩み寄り、ふわりと軽く腰掛けた。


「それは良かった。私の処置は君に効いたようだね。ああ、まだ起き上がらなくていい。目覚めたところで、まずはお互いの自己紹介から始めようか」






 ということで、私の自己紹介をする。


 名前はティシア。年は十五才。ついこの前まではお嬢さんと呼ばれていた。リリパルド国のカシィコン伯爵領に住む商家、トロッフィ家の娘として大事にされていた自覚がある。


 私の養い親である商人ソヴァロス・トロッフィは、そこそこな規模の店を街の一等地に構えていた。

 先々代が始めた頃は、しがない野菜売りだったそうだ。それがだんだん大きくなって、街に店を持つようになったと聞いた。


 扱う商品は、食料品を中心に、生活用品からちょっとした装飾品、伯爵領特産品のワインまで様々なものを揃えていた。使用人もそれなりに雇っていて、まあまあ繁盛していたと思う。


 しかし、私にはトロッフィ家直系の血が入っていない。養子だからだ。

 元は遠縁の田舎の農家育ちで、七才頃まで生みの親の元に居た。

 が、子に恵まれなかったトロッフィ夫妻が、夫人のキリアと同じ黒い髪の私を気に入り、他の兄弟姉妹より、それほど読み書きと算術を嫌がらないということもあって、私を引き取ったのである。


 私の生まれた村は、三年続けて村全体の農作物の出来が悪く、困窮していた。両親は子沢山で貧乏だったたこともあり、多額の謝礼を目の前に出されて、私を手放すことに決めたのだ。

 私はずいぶんと悲しかったが、このまま家族が厳しい生活を続けるよりはと、幼いながらにも決意して、養子になることを了承した。


 そうして養女になって七年近く経ったが、つい一昨日、突然トロッフィ家は潰れてしまった。

 何でも、ご領主様へ納めた新酒のワインに、毒が入っていたというのだ。それが元で奥方様が倒れてしまい、ご領主様がお怒りになった、とか。


 荒々しく踏み込んできた貴族の私兵に、店は滅茶苦茶にされた。問答無用で私の養父ソヴァロスも養母キリアも捕まった。

 使用人の内で、機転の利いた中年の女性が、とっさに裏口から私を逃がしてくれた。

 が、闇雲につかんで出たお気に入りの毛皮の外套の他は、着の身着のままのチュニックで、飛び出した時たまたま財布にあった小遣い程度しか、持ち合わせが無かった。

 生家は遠く、しかし他に行く当ても無い。


 そんな状況で、少し良い身なりの小娘が一人で貧民街の辺りをうろつけばどうなるか。

 案の定、とろくさく走る私にすれ違いざまぶつかってきた赤毛の男の子が、お財布をすっていったらしい。

 しばらくしてお財布が無いと気づき、私はひどくおろおろした。これでは乗合馬車に乗るどころか、パン一切れも買えやしない。


 一見して丸わかりなほど困っているところへ、そばかすが目立つ見知らぬお姉さんが「どうしたの」と優しく声をかけてきた。

 財布が無いと正直に言ったら、「ちょっと外套を脱いでよく探してごらん。その間、あたしが外套を持っていてあげるから、もう一度見てみなさいよ」と、首元に青い飾りボタンのついた毛皮の外套を脱がされた。

 そうして素直にチュニックのベルトに下げた小袋なんかを探っている間に、まんまとお姉さんは消えていて、上等な外套を盗られていた。


 やっと(だま)されたと気づき、しょんぼり薄着で歩いていると、下卑た笑いを浮かべた粗野な感じの男が「お嬢ちゃんいくら?」と話しかけてきた。

 こんな貧相な小娘を、そういう目で見る奴がいたとは。幼い頃の貧しい食生活で、いまだに小柄な体つきなのに。


 本能で恐怖を感じ、無言で逃げたが、男はしつこく追いかけてきた。

 とうとう追いつかれ、手をつかまれ、いきなり頬を殴られて、路地裏へ無理矢理に連れて行かれそうになったので、殴られて転んだ時に握った砂を、必死でそいつの目に向かってぶちまけた。

 上手く当たって、そいつがひるんだ隙に手を振りほどき、死にもの狂いの全力で走って逃げた。


 そのうち、日は暮れるし雨は降るし、空腹だし疲れ切っていたしで、私はすっかり弱っていた。一日で色々な事があり過ぎた。

 貧民街のはずれの、迷路のような袋小路の奥に、たまたま屋根のある所を見つけた時、限界だ、と座り込むようにして眠りを得た。


 翌朝、小雨の中で寒さに震えながら目を覚ましてから、ふと領主様の追っ手がいるかも知れない、と思い当たり、恐ろしくなった。それからは隠れるように人目を避けながら、あちこちうろついた。

 生家に帰るには旅費が無い。かと言って、また貧民街の中を突っ切って店に戻るのは、怖くて出来なかった。

 丸一日を、空腹と寒さと(おび)えで、びくびくと過ごした。


 やがて私は、降り続く雨のせいか、体調を崩してしまった。

 路地裏をさまよいながら、頭がぼうっとしてきて、気がつけばもう、自分がどのへんにいるのかも良くわからなくなっていた。まだそこが貧民街なのか、それとも街の端っこなのかさえも。


 そうして、憔悴(しょうすい)した私は空腹と渇きと発熱、そして疲労により、路上で倒れ伏す羽目になった。

 後は知っての通り。目の前の彼に拾われた。ティシア・トロッフィは、この日で終了したのである。






「ということは、ティシア嬢、君は行くところが無い。加えて、カシィコン伯爵に素性を知られたら、どんな目に遭うか知れない、と思っているんだね?」 


 私はこくりとうなずいた。

 きっと不安な気持ちが顔に出てしまっていたのだろう。どこか憐れみの色を彼の声音から感じた。

 すらりと長い足を組みかえながら、彼はもう一つ質問してきた。


「可哀想に。……君は、トロッフィ夫妻を捕らえたご領主様を、恨んでる?」


 私は(うつむ)いて、ご領主様について考えてみた。

 顔も知らない、貴族。


 ご領主様、プロカッロ・カシィコン伯爵には、奥方様と跡継ぎのご子息様がいるそうだ。

 先代のご領主様とは仲が悪いらしくて、先代様は別邸に住んでいるとか。それから、ご領主様のお屋敷とは別の場所で、愛人とその子供を囲っているらしいとか。

 そういう噂だけしか、知らない。


「領主様は、会ったことも無いし、よく、分からない……。でも、お養父(とう)様とお養母(かあ)様が捕まって……すごく、怖いし悲しい」

「うん。そうか」


 養父母は私に良くしてくれた。

 養母キリアは生さぬ仲でありながら、娘としてずいぶん可愛がってもらったと思う。

 可愛い服や装飾品、美味しい食事、女子のたしなみ等の一般教養、色々な世話を焼かれた。

 養父ソヴァロスも、私を大事にしてくれた。

 彼が取引先へ出向くときは、しょっちゅう私も同行した。田舎の少女であったなら、とうてい学ぶ機会も無かっただろう事柄や、商人としての心構えなどを話し聞かせてもらい、丁寧に仕事を教えてくれた。


 ぽつぽつ答えると、彼は静かに相槌を打った。なんとなく先を促されているようで、私はずっと思っていたことを言った。


「あの、私……。お養父様が、ワインに毒なんて、信じられなくて」

「なぜ?」

「だって、お養父様はいつも、うちの財産はみんなの笑顔、儲けより信用、って言っていたのに」

「それは立派だね」

「だから、商品に毒なんて……。きっと嘘だと思う。それか、やったのはお養父様じゃないと思う」


 ぎゅっと手を握り締めて言うと、彼は特に否定するでもなく、またうなずいた。


「うん、そうか」


 私が身の上を話し終えて黙ると、彼は立ち上がり、テーブルの上のティーポットを取って、手ずからカップに液体を入れ、こちらに渡してくれた。


「どうぞ。喉が渇いただろう」


 寝台で身を起こしたまま、私はそれを受け取った。良い香りのする、少し甘苦い味がするハーブ茶だった。

 ふと、似た味をどこかで知っている気がした。

 私が飲み終えるのを待って、彼は口を開いた。


「今度は私の番だね。君、私と約束したこと、覚えてるよね?」


 残念ながら、しっかり覚えていた。

 私の身と命と引き換えに、助けると。

 私は青くなりながらも、小さくこくりとうなずいた。

 あの時は誘いに乗ってしまったが、何を要求されるだろうか。

 死ぬまで奴隷のように働かされたり、もっと酷い目にあったりしたらどうしよう。


 彼は満足げに美しく微笑した。


「よしよし。なら、君は私の契約者だ。私の本名は、ネライダ族のクリオスアエラスという。表向き、クリスという名を使っている。君もクリスと呼んでくれていいよ。君を助けた理由だけど、私の一族はあまり数が多くなくてね。……うん、何から言えば良いかな……。ええと、魔族は知っているかい?」

「お伽話の?」


 魔族とは、昔話などに出てきて、人を堕落させる奴らのことだ。


 悪魔とか、妖魔とか。夢魔なんかもそうだ。人語を解し人に似た姿だが、ねじれた角や先の尖った細長い尻尾や、背中に羽根など、少し人と異なる禍々しい姿を持つという。


 奴らは、甘い言葉で人に取り入って、欲望や願いを叶える代わりに、対価として彼等の求めるものを差し出させる。

 それは、家宝の品や代々伝わる土地だったり、命や体の一部だったり、誰か大事な人だったり。


 子供を戒める怖い話の悪役、そんな存在だった。


「そうそう。私はその魔族の一人なんだ」


 私は目を丸くした。目の前の人からは、禍々しさなど少しも感じられない。

 ただ、人間離れした美しさがあるだけだ。


「え、でも角とか尻尾や羽根は……」

「ああいうのが生えるのは、繁殖期の成体だけ。私はまだ無いよ。時期が来たら生えてくるけど。……おや、嘘だと思ってる? 一族の決まりで、契約者には嘘をついてはならないんだ。だから私は正直に話してるよ」


 本当だろうか。警戒を怠り、他人を手放しで信じて、ひどい目に遭ったばかりだ。

 こんな嘘くさい話を、簡単に信じることなど出来ない。

 私は眉をしかめて彼を睨んだ。


「あなた、ええと……クリスさんが、その、魔族だという証拠はあるの?」

「やっぱり疑っているね? 慎重なのは良いことだ。が、うーん、そうだな。ちょっと私を切ってみるかい? 人と違って、赤緑色の血が出るよ」

「あかみどり……」


 それはどういう色だろう。想像もつかない。

 けれど、いくらなんでも人の姿をした者を、いきなり切りつけるなんて、出来やしない。


 私が困り顔になると、彼は小首をかしげ考えて、いきなり自身の小指の先を噛んだ。ちらりと八重歯が見えた。そして指先を私の方へ差し出した。

 小さな噛み傷からあふれた血は、緑の光沢を持った赤色だ。

 驚いてそれを凝視してしまう。

 と、みるみるうちに血が止まり、どんどん傷が塞がっていく。

 回復がものすごく早い。そして、乾いて固まりかけた血が普通に赤黒くなっていくので、なおさら不思議な感じがする。


「ね? 信じてくれた? 直ぐに対価を貰おうとは思わないよ。こっちも準備が整っていないし。何より、まずは君が元気にならないとね。全てはそれからだ」


 彼は指を引っ込めてひと舐めし、何でもないように、にこりと笑んで見せた。もう、傷のない綺麗な指だった。


「大丈夫、君のことは大事に扱うよ。……君には、私の卵の『揺りかご』になって欲しくてね」

「あなたの卵の揺りかご……?」


 どういうことだろう。

 問い返すと彼は、うん、と言って説明した。


「私の一族は、卵から産まれるんだ。卵と幼体はとても弱いから、我々には子を守り育ててくれる『揺りかご』が必要なんだけれど、これが、誰でも良いわけじゃ無くて、相性が良くないとちゃんと育たない。

 で、そろそろ私も繁殖期に入るだろうから、『揺りかご』を準備しておきたいと思ってね。『揺りかご』一人につき一つの卵だ。君は私の子と相性が悪く無さそうだと思ってる。いずれ産む卵と幼体の保護をしてもらいたい」

「……どうして自分で卵を温めないの?」


 私の問いに、クリスは可笑しそうにクスクスと笑った。


「いやいや、我々は小鳥じゃないんだよ。

 ほら、巣じゃなくて、水の中や土の中や草木へ卵を産む生き物だってあるだろう? 生き物にも色々あるのさ。無力な幼体で産まれるものもあれば、生後すぐ立ち歩き、成体と変わらない形の生き物もいる。産まれたときは親と異なる見目でありながら、何度か脱皮したり、毛が生え替わったり色が変わったり、角が生えたりして、だんだん親に似た姿へ変わっていくものもある……」


 私は彼をまじまじと見つめた。人じゃない。魔族。

 魔族が卵から(かえ)るなんて知らなかった。

 ……ちょっと待って。ということは。


「あの、クリスさんは、女の人なの?」

「違うよ。我々の一族には性別が無い。どっちでもなくて、どっちでもあるんだ。一応私に限って言えば、世間では男として過ごしてる。その方が色々と都合が良くてね」


 私はまた驚いた。確かに初めて会ったとき、男か女か分からない感じがあったが。

 いや、そういえば、陸貝のある種は雌雄が無いと聞いたことがあったような。


「君が卵の『揺りかご』になってくれるなら、私はそのかわりに君を助けるだろうし、一生懸命守るよ」


 彼はにこりと笑む。

 どこが気に入ったのか知らないが、クリスは私を子供の養育者として選んだ。乳も出ない貧相な、こんな小娘を。


「ねえ君、何かしたいことはある? 欲しいものは? こう見えて私は、人の世界でまあまあお金持ちだからね。それなりに力もある。余程のことでなければ望みを三つまで叶えてあげる。ただし、このことは他人には内緒だよ。無理なお願いのときはちゃんとそう言うから、遠慮せず何でも言ってごらん。心配ないよ」


 甘い声でクリスは申し出た。

 聞いているうちに、だんだん私の頭がクラクラしてきた。彼の話だけのせいではない。急に猛烈な眠気がやって来たのだ。


「ちょっと……考えさせて」

「もちろん。もうひと眠りするかい? まだ疲れているようだね」

「うん、そう、する……わ」


 どんどんまぶたが下がってくる。

 手元のカップを、誰かの手がそっと奪い取っていくのを感じた。

 眠気がひどい。さっき飲んだハーブ茶が胃に残っているような気もするし、指摘されたようにまだ疲れているのかも。


「ああ、ゆっくりお休み。……やっぱり君とは相性が良いようだ」


 再び私は意識を失った。


 読んでいただきありがとうございます。

 現在十話ぐらい予約投稿しています。週一回更新の予定です。初回のみ二話投稿です。

 また、申し訳ありませんが、筆者都合により返信が難しそうなので感想欄を閉じております。


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