秋─松茸
おはようございます。
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呼ばれた私は台所に立ち、彼の母が拵える夕食の手伝いをしていた。
「おみゃあさんは手際いいね、あん子がこんな子を傍に。おばさんうれしいわぃね」
「そんな、そんな。私こそ……」
褒められ照れる私だが彼の横と訊き、心は弾むどころか落ち着いていた。何か腑に落ちない私がいた。
(何だろう。私?)
彼に冷めているのかとも考えたがそういうことでもないらしく。
首を傾げ、渡された具材の調理工程を練る。
今日のメニューは松茸づくし。
包丁片手に私はかやくご飯の材料、人参、筍をみじん切り、牛蒡をささ斬りにし水に置いた。次に水で戻された乾燥椎茸を細かく千切り、皿に除け、椎茸の戻し汁は横に置き、米を研いた。
「なぁんも言わんでも段取りが良いし、きちんと椎茸の汁が残されて。ああ、こっちの娘がほしがったわぁ」
「確か妹さんも料理が上手と」
「あん子は洋風は出来て和風はソコまでせんて」
自分の娘の文句を述べ、鼻歌を歌い調理を続けるおばさまがいた。
文句は近しい者だから言えるわけで──、私の母も知らないところでこんなふうに文句を言うのかな。
少し考え、心を暖かくした。
「ご飯は何時ぐらいに出来るかね?」
ざく切りにした松茸としめじを上に並べ、炊飯器の蓋を閉じ、スイッチを押した。
「今からですと16時過ぎぐらいには炊けてます」
「ほうかね、じゃあ軽くお茶しようかね。あっその前に」
彼の母親は手をパンッと叩くと隣にある箱をごそごそしていた。
梨と書かれた箱から立派な丸いリンゴが出された。思いもしない物が出て来た私はぽかんと、していた。
「なんに、驚いてるん。おもろい顔やね。さてこれ、仏壇に供えんとなぁ」
「あっ、私が置いてきます」
(梨が出て来ず林檎だった……びっくり)
仏間に入り、黒塗りの仏壇の扉を開いた。仏前の斜め前に果物を置き、ふと立て掛けてある犬の写真に見入ってしまう。
写真の枠に触れていると、彼のお母さんが隣にススッと立った。
「昔飼ってたゴールデンだがね」
「可愛い。隣の子は?」
薄茶色いゴールデンレトリバーの横に、笑顔の子どもが写っていた。雰囲気は彼に似ているけど、どうなんだろうと首をかしげた。
「視てのとおり息子だがね。めんこいやろう?」
「可愛いです」
(クスッ、女の子みたい。昔の写真を見せたがらないのはそういうことかぁ)
感心していると彼のお母さんはポツリと、言う。
「あの子の不眠症はこのチロが原因だがね」
「不眠症?」
キョトンとする私におばさまは「しまった」と、いう表情を見せた。
「あれ、知らんのかっ、あれまさか毎晩一緒に寝てるん?」
言われたことに私はまた、赤面した。
(ここでも訊かれた、どうして? どうなってるの? 彼はいったい)
私の顔をじぃっと覗き込む女性は何かを納得し、頷いた。
「そうかね、そういうことかね。思わず口滑らせたけんど詳しくは息子に訊きぃね」
にこやかに微笑むお母さんはスッと私から、離れていく。
不眠な彼の姿なんて見たことのない私はどうしていいか解らず。くすしき光を放つ仏像に手を合わせ、居間から離れた。
夕刻─、ご飯が美味しく炊け、蒸された大豆に似た薫りが広がる。
卓上に並んだ松茸づくしに彼は喜んでいた。
「多種な天ぷら、土瓶蒸し、松茸の直火焼き。かやくご飯」
浮かれた彼は箸より先にグラスを出し、ビールを私に強請った。私は差し出されたグラスに瓶口を添え、トトトと音を立てた。
「わしも貰えんか」とお父さんにもお願いされ、快く瓶を向けた。
彼が拗ね気味に、返答していた。
「美人の酌は高いよ、父さん」
「酒が美味くなるならいくらでも払う」
また睨み合う二人に私がまごついていると、
「母さんが代わりに入れちゃる」
そして私が持つ瓶はおばさまに奪われ、おじさまのグラスに泡が溢れんばかりにつがれていた。
「おまえの酌はいらん」
云いつつもグラスから溢れる白い泡に慌てる彼の父親がいた。
「母さん、いいね」と彼が高々に笑い、私もつられ笑った。
ザルのように次々とビール、酒瓶を豪快に開けていく親子。一緒に膳を囲う者は目を見張った。彼のお酒は遺伝だと今日、しみじみ思わされた。
さすがの酒豪も許容量越えると倒れるよね?
久しぶりの団欒が楽しかったのだろうか、私は彼が酒に酔う姿を始めて眼にした。
少し嬉しく思う私がいた。
「あれまぁ、飲みすぎゃーてほんまに」
「すみません、でも二人ともすごいですね」
酒を浴び、うたた寝する彼の頭を膝に乗せ、私はおばさまに微笑んだ。
「アホゃねぇ~、でもこん子ぐっすりやがね。あんたのおかげかいなぁプフ。今日は泊まりぃね、明日も休みやろ。お布団敷くわ」
「お世話様です」
「遠慮はいらんて。こっちゃこそありがとぃね息子をよりょしゅう」
「そっそんな……」
(今日は彼に、不眠のことは訊けず……か)
彼に対しての蟠りは消えないが、お母さんの口調はどこか可笑しくも柔らかく、おかげで気は楽でお言葉に甘え泊まることにした。
居間に敷かれた布団は離れておらず、二つピタリと寄り添う。「あの」と口を濁すと「今さら今さら」と、笑窪をぷくっとさせ、はにかむお母さんがいた。
寝間着浴衣を彼の分も手渡され、着替えも任された。確かに、今さら恥ずかしがることでもないけど。
浴衣は腕を通し、今着ている服を脱がすだけで終わった。
スヤァと眠る彼は可愛いと思うが昼に云われたことが気になり、ワザと距離を置いた。暫くすると、眠りが浅い私の耳に彼が起きたのであろうと思われる、布の擦れる音がしている。
そして彼の前髪が私の頬に触れ、物欲しそうに顔色を窺っていた。
「どうしたの、眠れない?」
「……寝間着、着けてくれたの誰?」
「私だよ?」
「ありがとう。キミは……何着ても似合う」
同じ浴衣を着る私を彼は褒めた。
酔いがまだ冷めない彼の熱い吐息が私の耳に触れ、次に耳朶を甘噛みされた。
気づくと彼の大きな手は、私の胸を掴み揉んでいた。
「ちょっ、ここで?!」
「シィ、漏れる声は僕が隠すから」
「そういう問だ……ぃァハッ」
布団が被われ、力強い口づけに私は溺れていく。ダメだと思いつつも彼に流され、疼く私がいた。
いつもの部屋ではなく、彼の実家という背徳もあったのだろう。彼の体も私の体も、いつも以上に熱い。
「んっ……!」
私のか細い吐息が漏れ掛かり、鬱ぐために彼の指が口に入ってきたけど、ワザと噛んだ。
「イッ痛!」
「……いつもの仕返し?」
私は震える小声で彼に伝え、顔を隠した。フッと嘲笑する彼は私の太腿に舌を這わせ、股座の奥へと指が……。
「アゥ!」
布団の中だけど、何故か互いの表情が手に取るように良く分かる。
大きく開く彼の口に私の口は塞がれ、舌がもつれた。
「……ッ!」
「シィ、訊こえるよ?」
「じゃあ……や、めて?」
「やだよ、俺。止まんない」
(またっ! その口調はずるい!)
「それに今日の、口の動き。反則だよ」
「それ、は松た、ッ!」
(私の所為じゃ……ないのに!)
彼にしがみ付く私は彼の匂いを感じ、彼に酔う……。
彼も同じだろうか?
「甘い、キミ……、の匂い……」
途切れる彼の言葉はあたかも私の所為だと、云われてるようで。
全身がチリチリ……灼ける。
下腹部で滾る私の熱に合わせ、彼が抱きつく。それに合わせまた私も、抱きかえした。
私を感じ、私に溺れ、私の所為で吐かれる彼の息が好き。
首を擡げ、喘ぐ私の髪に触れ、彼は首筋を軽く食んだ。彼の肩に回した私の腕は解かれ、手を強く握る彼は体を求めた。
「小声、漏れてる」
「だっ、て、気もち」
私が言うはずだった最後の二文字は彼の口で、塞がれた。
重なる肌の心地良さに落ちる私がいた。
ヒクつく瞼にうっすらと差し込む光に、私は起こされた。
横にいるはずの彼がいない。
「?」と思う私はトントンと響く包丁の音と彼の笑い声。それに変わった方言の声を訊き、安堵した。
クスッと笑み、私は布団に包まりふと考えた。
(彼の不眠症って……)
考え中、気持ち良さげにウトウトし出した私は覚えある可愛い声、囁かれた言葉に驚き、一瞬で頭の中が跳ねた。
「良い匂いだね、朝ごはん。松茸のお吸い物かな? ねぇ、松茸もいいけど兄貴のとどっちがいい?」
「! ィヤァアア!」
私の悲鳴は家に木霊し、彼に届けられた。
「どした? ゴキブリ? 何の悲鳴?」
慌てた彼は私と、昨夜会えなかった妹さんの姿を捉え溜ついた。
「コイツの奇声の原因はおまえか」
彼の端正な顔は仁王のように眉間に皺寄せ、妹さんを一瞥した。
「ニヘヘ、ただいま兄貴。あのね」
「お帰り、なんだよ」
「彼女と土瓶蒸し、どっちが熱い?」
「おまえ! こっち来い!」
九つ離れた可愛い女の子は首根っこを捕まれ、細くも逞しい腕に持ち上げられ連れ去られた。
朝方まで続いた蜜事を覗かれていたのかと思う恥ずかしさに顔が熱くなったが、別の感覚が刺激され太腿をキュッと閉じた。
今度は兄に説教を食らう妹の声が私の耳に届き、クスクスと浮かれた。すると……、
「孫が出来るなら良いことだがね」
ネェと相槌、毅然に振る舞う声と笑顔が私の眼前にあった。
……しばらく、来れない。
そう思う私はせかせかと動き出した。布団を片し、彼のお母さんの手伝いを始めた。
実は松茸にも、花言葉がある。
それは『控えめ』
彼と私は控えめではなく、知れ渡った昨夜の秘め事を隠せるでもなくただただ恥ずかしい。
お母さんの前で気丈に明るく振る舞うも、深く深く落ちこんだ。心の中で「あの人の馬鹿」と何十回も繰り返し、連呼する私がいた。
◇ ◆◇花言葉◇◆ ◇◆
松茸。
(控えめ)
※こちら本文で紹介した通りです。所説ありますが他のキノコと違い、群れず単体で土の中からポッコリと顔を出すことからつたらしいです。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇ ◆◇
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