夏─仏桑花(ハイビスカス)
おはようございます。
いつもありがとうございます。次回は遅い4日後か5日後に?ってほぼ一週間後ですね。
それでは今回もおつき合いの程よろしくお願いします。
彼女と僕のあいだに咲く
──仏桑花
触れる以心伝。
僕の指先はこの大輪のように彼女に届いているのか。
ハイビスカスの花言葉は「繊細な美」「新しい恋」
僕は新しい恋をするつもりは毛頭ない。彼女にもっと触れてたいし寄り添いたい。
出会った時も今も、そう思っている。
なのに──。
慣れとは恐いものだ。
当たり前に時間が過ぎ、ナァナァに過ごしている内に初心を忘れてしまった。
知人、同僚、友人に言わすとそれはそれで良いじゃないかと、連呼された。
いや、よく考えたら蔑ろにしている気も……。
あいつはどう思っているだろうか?
今日、旅行から帰って来ると訊いていたはずが、気に入ったから少し伸ばすと連絡が入った。
いつも計画通りの日程を熟す、彼女が……。
どうしたんだろう。
昨日まで普通だったが、悪友に何かそそのかされた─いやいや、そんなことはない彼女に限って。
……まぁ、ここ最近まで重い空気があったはあったがそれもユルくなっていると思いたい。
悶々と、仕事に着手していた。
「オイッ! こことここ。誤字、あと計算ミス!」
「は、あっすみません、直ぐに」
「アレ? お前今起ち上げてるそれ、旧い?」
「あっ?!」
「そんな式で計算されたら……ってゴミ箱でも開いたか?」
云われ調べ……。
「すみません、捨てた資料が必要だったのもので、そしてやってもうた……」
「もうた? 久々のため口。良いねぇ、どうした?」
「え?」
「お前がそんなカワイイミスをするとは」
「すみません」
「小休憩するか」
「そうですね」
先輩に誘われ、喫煙所へ。
滅多に吹かさない煙草を咥え、目の前の丸テーブルには缶コーヒーが二本並ぶ。
隣の先輩も満足そうに白い煙を吐き、腕を組んでいた。会話をするでもなく、二人並んで草を楽しんだ。
吐き濁すヤニは直ぐ、清浄機に吸い込まれた。もくもく悶々と燻される葉巻の先を見遣り、先輩の指の耀きに瞳を奪われた。
気付くと僕は質問をしていた。
「プロポーズにタイミングって必要?」
思ってもいない言葉がポロッと、口から注いでたがもう遅い。
先輩の表情は鳩が豆鉄砲を食らったかのように。
出た言葉というのはなかなかに取り消せない、相手に訊こえてなければ誤魔化しも利くけども。
はっきりと口にしたことを自覚し、取り繕うことも考えず煙草を頭上に掲げ身を屈めた。
背を丸めた際、狭い壁が僕に当たりイテッと小声が出た。
帰省が良くなかったか?
先の質問に僕自身も驚いたが先輩の目玉もまだ、飛び出たままである。
ああ、とへこたれる僕の額に、缶コーヒーが当たった。
まだ新しいそれは、先輩の分。
いやいや、悪いですってと押し返すと、まあ飲めと云われた。確かに僕の分はもう無い。
喉が癒やしを、欲していることは分かっていた。言葉に甘えていると、先輩の葉巻は二本目に突入した。
「タイミングかぁ、今日の失態は彼女か?」
「……みたいです」
気が許せる先輩ともあって、本音がポロリと出てしまう。
「喧嘩か? まぁタイミングなんて多分ないぞ?」
「?」
「そういうのは俺も判らん」
「はぁ」
「俺はデキ婚だから。助言らしいことが出来ないが、勢いに任せると良くないとは訊く」
「そうですか」
「……仕事終わりに(指でクッと)行くか?」
先輩は帰りの予定を決め、火を消した。
居酒屋にて──。
色々と愚痴り合い、会社や私生活、お互いが許せる範囲のグレーゾーンまで吐ききった。
気が赦せる先輩がいるのは良いことだ。
良い気分で帰路に着いた。
上機嫌でガチャと玄関の扉を開け、煌々と差す光に目が眩んだ。なぜか明るい。
廊下に温もりを感じる。
ハッと意識を靴箱の横に置くと、見慣れたヒールがあった。
彼女だ。急いでリビングに顔を出し、キッチンに足を急かせた。
彼女は僕を覗くと、旅先の不満を口走っていた。
「もう聞いて、いきなりの台風予報で……キャッ」
僕はキッチンに立つ彼女を見掛けるなり小言を訊かず、冷蔵庫の扉に攻め寄せた。
狭い場所にも拘わらず彼女を求めた。激しく、口に吸いついていた。
水よりも彼女を求めた。
僕を落ち着かせようと彼女の手が腕を押し退けていたが、力は僕の方が上だ。
彼女の不満を訊く前に、僕の不満を打ちまけた。
帰って来ないと訊いていたから。
舌を搦ませ唇を食み、互いを求めた。キスをし終え、ジッと見つめ合う僕達は荒い息を漏らし、額を引き寄せ重ねた。
距離を縮める僕と彼女は意識し、肩で大きく息を吸う。
「……最近……強いよ」
呼吸の乱れた彼女の隙間から、零れ落ちる言葉が嬉しく僕はまた深く口づけた。
とんだ彼女、依存症だ。
酔っているのもあったのか、そのままの勢いで首筋にキス攻め仕掛けたらいきなり、お盆で撲られた。
「酒くっさ! 落ち着け!」
こういう時は女の方が冷静だって云うが、だからってお盆。
僕は苦笑し、顔を上げた時、青い花瓶が目に入った。
大柄に咲く赤さに瞳を奪われる。
「綺麗でしょう?」と彼女は訊ね、友達が買った鉢の一部分が「落ちたの」と話し、生けてある花弁に触れていた。
「アレ? 確か害虫阻止法とかで花木はダメでは」
「うん、挿し木を土産で買ったけど、雰囲気を味わいたいとこっちで植木をね」
友達の鉢植えの花が帰る際に折れたと、嬉しく語る彼女が可愛かった。
もう一度口づけようとした僕に彼女は容赦なく、ハブ酒を向けた。
瓶越しに睨む牙は可愛くない。
蛇に虚どった僕を、小馬鹿にした笑みが飛んだ。
彼女の足元には土産袋があり、僕にモウッと溜ついたあと屈み、セッセッと片付け始めた。
ちんすうこう、泡盛、紅芋タルトにシークヮーサーにさとうきび。
ここまでは僕も知る定番「沖」土産、ここからが?
芋のチーズケーキ、芋のレアケーキ、レモンスフレに黒糖カヌレってお菓子だらけ。
女の子だ。
タコスもあるよう? と無邪気に袋から出す彼女は僕の呆気ぶりを顔から察しったかのように。
ヤキモキしていた僕の気も知らず、無邪気に笑う目の前のコイツに何かがムカつき、何かが切れた。
女の身体を担ぎ、シャワー室に放り込んでやった。
「罰だよ」と、キレ気味口調で逃げられないように湯を被せた。
水も滴る何とやら。
怒る彼女も良いが、髪から滴る水の似合うこと。
唇を歪ます彼女の服を剥いだ。自分も湯を浴びようと、思っていた矢先だから丁度良い?
シャワーを一緒に浴びた。
彼女の白い肌は痛々しく少し焼け赤身を帯び、優しく湯水を掛け流しただけで過敏に反応し、身をくねらせた。
裸体まるでクリムトの「水蛇」に視えた。
やばっ、脳が蕩けてる……。
タガが外れた。
お湯の中で蠢く肌はしなやかに、艶めかしく、まるで……。
生唾を呑んだ。
理性が抑えられない。
弱々しい彼女にそうっと触れようとしたが、そんな気はシャワーの音とともにかき消された。
涙腺を緩ませた瞳で、こちらに視線を投げ、何かを乞う姿がさらに気を昂ぶらせ、壊したい。
シャワーの音が感覚も何もかもを消すが彼女の感触は消さず、僕の手の中で残る。
……! 静かに彼女と指を搦めた。
お風呂から上がり、彼女を両腕で抱き抱えた僕を彼女は躙る。
足腰に力が入らないとぼやく彼女をベッドに運んだ。
小さく呻る彼女に詫びながら、肌に薬を塗った。
日焼け痕にお湯が当たり過ぎ、まるで因幡の白兎だ。
僕はかわいいと思った反面。
赤く火照った四肢に平謝りした、面目ない。
「欲情しないでよ」と彼女に、クリーム越しに触れる手に釘を刺された。
お風呂上がりに指摘され、僕は体温の急激な下がりを感じた。残念そうな僕の表情は青ざめていたのか、彼女は嘲笑い。
ハイビスカスが揺れる……。
ベッドの上で手を握り、昔の旅行を振り返った。
二人で行った沖縄──。
街並みに溢れる南国の花々や、背の低い木々。
珍しい食べ物に、珍しい珍獣見学。どれもが目まぐるしく。
突然、爪を立てるように襲い来る沖縄特有の雨。肌は強く打たれ、慌てて軒下に逃げた。
びしょ濡れになり、二人笑った。
しっかりと手を握り指を搦めて。
懐かしい思い出に更けながら彼女と、寝息を立てた。
離れてても感じとる指
離れてても通じ合う指
離れてても搦める心
この先も手を、指を──。
朝、僕の前ですやすやと寝る彼女と、繫いだままの指先に安堵した。
僕は二度寝してしまった。
……先に起きた彼女は優雅にプランタの野菜に水撒きをし、ベランダから慌てる僕を眺めほくそ笑む。
起こしてくれても……とぼやく僕の会社の身仕度が済んだ所で横に立ち、
「ご苦労さま、土曜出勤?」
と囁き、手を振る彼女。
アッとなる僕に……
「いつもの仕返し」と彼女は揶揄い、僕のネクタイを締め直した。
赤面した僕は彼女の良い、慰み者へとなっていた。
お疲れ様です。ご拝読ありがとうございます。
すみません。バラバラ投稿で。でも一週間に一回は必ず上げます。
カクヨムと違いコメント一緒に時間設定出来るのが嬉しいです。投稿時間も午前に決めます。
内容が卑猥場合、深夜朝方?に投稿しますので。よろしくお願いします。
よろしければ感想、お待ちしております。勉強に励みになります。
では、ご機嫌よう。