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　夏─ハイビスカス

おはようございます。いつもありがとうございます。やはり、彼女バージョンはなんかこう、考えてしまいます。

何か気がついたら一報を。

今回もおつき合いの程よろしくお願いします。

　私と彼のあいだで咲く

　──ハイビスカス。

　触れる指先(以心伝)

　この大輪のように生まれた想いを伝えたい……。

　どこまでもどこまでも、大きく広がる真っ青の海と空。

　境界の彼方まで続く、晴れやかなこの色はこの島に赦された特権。

　島特有の青さを引き立てようと、大らかに咲き誇る雄大な色とりどりの花。

　ハイビスカス──

　小さな家、細長い家が建ち並び、それに合わすように垣根が青々茂っていた。その中に当たり前のように咲く、朱や黄色の大輪の花があった。

　私の胸ぐらいの高さの物が塀に植わり、揺れていた。

　わぁ、手のひらサイズだ。

　咲いている花に手を広げ合わせ、目を見開き観察した。

　本場で咲く花は活き活きしてるなぁと感嘆し、思わず聲も零れた。

「すごく綺麗」

「ね、でもあんたの目の色はそれだけではなかったよ？」

「え？」

「誰を見てたのかな～？」

　私を茶化す友の頭を軽く叩き、その場からするりと小走りした。友も一緒に駆け出し、肩を並べほほ笑みあった。

　私と友の風に当てられ、優しく靡く花弁がある。

　確かに考えた、彼のことを。

　彼は今頃は……というより、以前彼とこ(・)こ(・)に来たときのことを振り返る私がいた。

　彼との初旅行は沖縄の此処、この場所だった。

　初々しく、何するにもぎこちない二人だった。

　歩き、止まりを繰り返しては互いの荷物を持つか持たないか……同じ景色を眼に写し、片寄せ笑い。

　……懐かしい。

　なぜ友達(この子)はわざわざこの場所を選んだのだろうと、溜ついた。が少しだけ、嬉しくも思った。

　思い出し「ふふっ」と照れ、友の背中を鞄で叩いてしまうほどに。

　気づくと友は前へ、吹っ飛んでいた。

　あっごめんと思うももう遅い。

　転けた友はゆっくり身体を起こしイタタと小さく喚くとキッと私を睨んだ、その怒り顔で迫ってきた。

　「はいっ」と、云いつつ友は勢いよく私に荷物(かばん)を押し付けた。

「まったく、何考えてるか当てようか？」

「ああ、ごめん。当てなくて良いよせっかくの羽伸ばしにまで」

「ほぅ、それもそう、それにこの旅行は」

「分かってます。今日は貴女の失恋旅行です」

「よろしい」

　じゃぁ、なぜこの場所を？

　訊ねたい気持ちもあったが、そう、今日は息抜き旅行。

　なにもかも忘れて楽しもうじゃないか。……一緒にいる子は失恋旅行だけど。

　友を見てなぜか自分のことも過った……最近のあの人の様子から見るにはたぶん大丈夫。でもそんなことは分からない。

　人の気持ちなんて。

　あの子がそうだし……上に向けていた視線は下を向く。すると友に両頰を抓られた。

「あんた、最近ココが弛んでるのよ、ムカつく」

「へぇえ？」

　考えてたことを見透かされた？

　てっいうか、なぜそんなことが過った？

　旅館に着き、部屋で二人寛ぎ始めた。

　二、三日の滞在に合わせ私は荷解きを、その横で友はソファーで「うーん」と両腕広げ身体をほぐしていた。

「はいっ」

　私は冷蔵庫からビールを取り出し、二人で乾杯をし、窓の外を眺めた。

　美しい空と海が、切り取られた一枚の絵のように。

「いいなぁ、こういう場所」

「落ち着くねぇ」

「あ～あ、私もこういうとこに彼氏と来てみたい……ネェ今彼長いじゃんどうよ？」

「どうって」

「あんたの話を聞いてここにしたんだ。なんか疑似体験？　させてよ」

「アレ？　とても傷心とは思えない悠長な発言」

「だって、いつまでもはさ」

　友は笑顔で手にしている物をぐいっと口から喉に通し、つまみを食べた。用意されたつまみはここに来る前に調達した山羊の干し肉、パイナップルの酢豚などの出来合え物だが酒と合うのでヨシだ。

　飲みながら語る、友の失恋話は自身の二股が原因だった。二股をするだけあって気概もあり、男前な友は傷心しているようには見えない。

　笑っているとふと真横に友の顔がある。

　ヤバイと、私は焦った。

　焦る理由は……。

「ネェ……忘れさせてくれる～？」

　悪酔いした友は私の首に手を回し甘え、頰にキスした後手を取り容赦なくベッドに引きずり込んだ。

　そうだった。

　この子は女の子と男性の二股がバレての破局失恋。ある意味すごいと思い、そしてある意味自分に迫り来る危機に……ゴクリ。

「ネェ、彼はどこから？　胸、首、脚？　キスは無論だからぁ～♪」

　ベッドに仰向けになるなり、胸が揉まれ始め……さてどう切り抜けるか考えた。

「わわぁ～落ち着け、お風呂行こう？　お風呂」

「お風呂！」

「そう、行こう」

「おう、行こう」

　私、よくこの子とずぅといるな。

　友は喜び勇んで部屋から出て行った。フゥと安堵しながら後ろ姿を見送り、缶を片していると携帯がベッドの上で振るえていた。

　あっと思ったが、風呂に向かった友を追うことに。

　振動(バイブ)だけだし、急用ではないな。

　携帯音の種類はその使用用途で分けてある。音は誰のでもなく彼の物だと、いうことは判っていたので後回しにした。

　急用があるとすれば大抵電話だ。

　焦ることはない。

　風呂が終わり、部屋に戻ると友はまた酒を出してきた。

　もうと呆れ、眺める私にも酒カップを渡す。

　まぁ、いいかと「今日は無礼講」と笑いながら友人の手にある瓶を受け取った。

　カップは覚えある青い透明の……

　「あっ」と、私の頭に花が生けてあるカップが浮かんだ。

　小さく喚いた私を訝しげに覗く友は同時にグビグビ飲み、どうしたと訊ねてきた。私は閃く表情を友に晒していた。

「なに？」

「フフ、なんにも」

　私と彼との様子に興味が失せない友に、同棲の馴れ初めを話すと絶対に食いつくだろうと首を横に振り、笑って誤魔化した。

　友の目を盗んで、携帯の画面を開いた。先ほど届いた彼の写メに心が高鳴る。

　どっちのドキドキなんだろう。

　酒で出来上がった友を余所目に、そうっと画面に食い付く私。

　『昨日の出来事と今日の朝』

　と、題名(タイトル)付けられた写真が送られてきた。

　月と蓮の蕾、蚊に噛まれた大量の皮膚痕、そして白猫が映っていた。

　淡く洗練された白花を際立たせた月との映え(コラボ)に心打たれた。

　美しい……。

　次に撮られている彼の手にあるモノに私は笑った。

　撮影者は彼のお母さん。彼が持つ白いフワもふ生物が股を広げぶら下がっており、口には……。

　『お魚くわえた猫』

　サザエさんか！

　彼の出来事をハハハと笑う。こんな気持ちにもなるんだと、柔らかいモノが胸から込み上げて来た。

　……こんな遣り取り、久しぶり。

　いつもの遣り取りは要件だけ。

　……私も負けじと今日撮った風景、昼ご飯、諸々の写真をこれでもかと言わんばかりに送った。

『綺麗なハイビスカス』

『だよね』

『こんなの見せられたらまた行きたい』

『云(うん)……』

『帰り気を付けて』

　送った後に、彼の倍の写真を送った自分に恥ずかしく思い、スマホを抱え縮こまっているといきなり取り上げられた。

「なあにぃ、文句言う割に仲良いんじゃない～」

「あっ」

　画面をみている最中だったから……。指でシャッとスクロールする友がいた。

　まだ続きがあった？　と慌て手を出すと「愛されてるじゃん？　ムカつく」と、友は見ている画面を私に差し向けた。

　『君みたい』

　タイトルの下には朝露を帯び、薄らと口開く可憐な白い花があった。

　──！

　目に映り込んだ物にあの人の意図が窺え、頭が項垂れた。

　バカだ─あの人……。

「卑わい～～～」

　意味を察したこの子(ともだち)は口角をあげ、ニヒッと戯け笑う。そしてカメラ(スマホ)を構え、シャッターを切り出した。

「ねぇねぇ、こんなのどうよ？」

　二人笑顔でパシャ。

　ハイビスカス柄の浴衣カシャ。

　「最後はネェ」とニヤけほくそ笑む友人に私はヤバイと、思ったが遅かった。

　私の脚と友人の脚は絡められ、股が開かれた。

　めくれた浴衣の裾下の股肉(もも)に手が這う……のを激写し、ケケケと悦んでいた。

「もうっ」

　ぼやき取り上げた時には遅く、送信されていた。

「女の子とだよね？」

　直ぐさま来た彼の返信(レス)に悪(友)は、高々と笑いだした。

　モウッ！　と喚く私。

（食い付くとこがソコなのか）

　少し嘆いた。

　二人して携帯を斜視し、ビールを煽る。ポコンと音とともに届いた言葉。

　『浴衣が似合う。カワイイ』

　ごちそうさまと云う友の手は私の太股を摩り、胸に手を忍ばせていた。

「こらっ」

　まだ開けてないビール缶で、悪友の頭を弩着いた。

　イタァイと可愛く喚く友をハイハイと宥め、ビールを渡した。

　なぜこの子と一緒にいられるのか、彼との遣り取りがなぜ新鮮に思えたのか、この二つの喜びに一人吹き笑った。

「なぁにぃ？　気持ちわるぅ」

「へへ」

「私がここを選んだのは験担ぎ(神頼み)、あんた達と同じ所に来ればアレかなぁ～とね！」

「ん？」

「あんたはどう想おうがあんた達。端から見ていいカップルだよ？　会話以前、気が合う以前に互いが空気のように溶(・)け(・)あってるじゃない」

「？（そうなのかな？）」

「長いよね今の相手。いいなぁ私もいないかなぁ、そんな相手」

「じゃぁ、あなたはそれ以前に両利き(バイセクシャル)をやめないとね」

「あたたぁ、イッポン！」

「ふふふ」

　私はお礼言いたい気分だったが、今はや～めた。

　離れてても感じること

　離れてても見せたいモノ

　離れてても繋がる会話

　ハイビスカス───

　友と一緒に飲み、語り、彼のことを振り返された休日の出来事。

　忘れるかも知れないが、少し胸に留めておこうと思った。

　お疲れ様です。ご拝読ありがとうございます。

実はこちら少し長く書きたいと、思い始めまして……。当初はすぐ終わらすつもりでしたが。

そんな訳で（どういう訳？）でまだまだお付き合いください。

よろしければ感想、ポイントなどお付けいただけると嬉しいです！勉強に励みになります。