第8話 引きこもり、町へ向かう
俺とファニーはゴブリン達との戦闘後、街へ向け動き出した。道中運良く古びた荷車を見つけ俺はそれを引きながらファニーは先頭を歩きつつ警戒しながら進む。
デカイイノシシと三度、オオカミと二度交戦しあっさり勝利。ファニーの戦闘能力の高さに感心しながら骸となった物を荷台に積んで街を目指す。満月の明かりのお陰で進み易かったしこれまたラッキーだなと思う。
こんなに前向きに捉えたのも久し振りだ。前なら要らぬ心配をしたり不運に感じたりもしたのに。ファニーと出会ってこうして旅を始めた俺にも心境の変化があったのだろうか。色々考えながらも真っ直ぐずっと進んで行くと丁度森の出口へ差し掛かった。
「ファニー待って」
「ん?」
俺はファニーを制止した。このまま鎧を着て行くと見た目は俺だけに関して言えばパジャマだけよりマシだがこの鎧がゴブリンたちが正当な手段によって得た物とは思えない。下手をすると僕らが盗んだなどと言われる可能性すらある。
もう人質になるのはごめんだ。今回はファニーも居るんだから慎重にいかないといけない。幾らファニーが強いとはいえ数の暴力に対抗するのは今は厳しいだろう。
「ここからはもう敵は居ないだろうから、さっきの鎧と武器を荷台に乗せてくれ。このままいくともし仮に持ち主が街に居た場合、盗賊と見られかねない」
「コウ、我が言った事を覚えているか」
月の灯りを背にして俺を見るその幻想的な画に見惚れそうになってしまうが頭を振りその真意を考える。ファニーも俺も引きこもりだったが出会ったのが切っ掛けでただ引きこもり流されるのを止めたんだ。
それを忘れる訳が無い。慎重になるのは当然として臆病になっては意味が無い。結局それを選び続ければまた引きこもりに逆戻りだ。彼女もそれを心配して改めてそう問いかけてくれたんだろう。俺が臆病になってしまったから。
「勿論だ……まだ旅は始まったばかりだからな。ちょっと慎重になり過ぎてるかもしれないが出来れば穏便に始めたい」
「ふふ、了解」
ファニーに向かってほほ笑み大丈夫だと直接言うのが少し恥ずかしいのでそう言った後サムズアップしてみせると、先程の鎧と武器を荷台に置いてからファニーも微笑んでくれる。
俺も脱いで荷台に積み町に向けて再度歩き始める。やがて森も抜け草原に出た。月明かりが何だか心地良く感じ二人で夜風に当たりながらこうして歩くのも悪くないなと感じながら進む。やがて空は黒が薄くなっていき世界が夜明けから朝へと着替え始める。
前は遅くまでネトゲをしたりしていて朝が来ると皆が動き始め五月蠅くなるので嫌いだったが今は全くそうは思わない。これからどんな出来事が待っているのかと思うと胸の高鳴りを感じずにはいられない。
「ファニー、あれ」
「見えておるよ」
テンションが上がって声が上ずってしまい恥ずかしかったがファニーは気にも留めずそう答え両手を広げながら前方に見え始めた町を抱きしめに行くように進む。それを見てファニーも高揚しているのかと思うと一体感を感じて嬉しくなり僕も荷車の取手のところを御腹に当てファニーの様に両手を広げながら後に続く。
遠くから見たら可笑しな二人が来たと騒ぎになるかもしれないが、それも何だか面白そうな気がして吹き出してしまうとファニーも面白いのか笑い出し二人で朝焼けに染まる草原を進んで行く。暫くしてから大分町に近付きじっと見ると門は閉じたまま。
恐らく陽が完全に昇りきれば門があいて門番が出てくるだろう。自分のパジャマを見てどう説明しようかと思うと同時にまた笑いがぶり返しそうになる。何とか堪えながら考えた結果この格好ならピエロだろう、サーカス団と言うのは無理があるので大道芸人かなと考えファニーに提案して見る。
「大道芸人てのはどうかな」
「大道芸人が何で鎧や獣を荷台に乗せてきたか問われるだろう」
「途中で追い剥ぎに遭い身ぐるみはがされたってのはどうかな。それで町を目指していると荷車と鎧を拾ったので届けに来た。獣は途中で小銭稼ぎになればと思って拾ったとか」
「それらしく聞こえるが……まぁこの場合それ以外に方法は無いか」
「今回はそれで行ってみよう。大道芸を見せろと言われたら瓦割するよ。俺の今の力なら二十枚くらいはいけるだろう」
それで決定すると俺とファニーは門が開くのを待ちつつ警戒する。ゴブリンが逆襲に来るかもしれない、獣が襲い掛かってくるかもしれない。二つの可能性がある以上気が抜けない。やがて門の周りに人が集まって来てそろそろ開く時間なんだなと分かる。俺たちの回りは誰も近寄らず焦らなくても一番最初に入れるのは有難い。
「さぁ行くかの」
「そうだな。さぁ大道芸人のお通りだ!」
少ししてから門がギギギと音を立てて空き始めた。俺とファニーは見合うと、俺が荷車を引きつつファニーが軽やかに歩きだす。
いよいよこの世界の人間たちとの交流の始まりだ。
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