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第67話 全ては結末の為に

「無理もない。お母様が危険を感じて逃がしてくれなければ、僕は生贄になっていた」

「…え!?」


 やはり母親が逃がしたのか、とイーリスは思う。こちらに来て王に聞いた話や養母の話では出産の際最初に一人生まれて少し時間が経ってから双子が出て来たと言う。


その双子の取り上げが大変で、掛かりきりになっている間に先に生まれた一人は死んでいたと聞いた。ただこちらで王に聞いた時に違和感が生まれる。”私の子は男女の双子だ”と言われたからだ。


だとすれば私のところに来たあの子は誰なんだ? あの子と自分が召喚されたのはあの子が王とつながりがあるからだ。何の繋がりもなしに触媒も無く自分たちが呼ばれる筈は無い。


疑念が生まれ暇潰しに調べ始めると、調べても調べても最初に生まれた子の痕跡も双子が両方女の子だった痕跡も無い。


最初の子は荼毘に付され粉になったものからは調べようがなかったし、確かに跡継ぎは男でなければならないだろうがそれを細工した者も分からないとは。


奇妙だとは思いながらも仕事が多く召喚主に対して忠実な振りをしなければならない為、そちらを優先して放置してしまっていたのが悔やまれる、とイーリスは後悔する。


「イーリス、貴女何も話して無いの? 調べた筈なのに」

「……私も死んだと思っていたわ」


 イーリスは不快感を表す様に眉をひそめて答えた。まるで何もかも見透かしたように言うその姿にあの養母の影がチラつく。


「ふーん、凄いねお母様は。魔族の目も欺くなんて」

「イーリス姉さま、コイツは一体誰なんですか!?」


「あれは貴女と姫の姉よ。生まれたのがほんの少し早かっただけのね」

「事実なのですか!?」


「改めて自己紹介するよ。村娘Aことロリーナです。宜しくね」

「ロリーナ!?」


 驚愕し困惑するアリスを始め一同はその怪しさから警戒を解かない。あのアーサーの仲間かもしれないという疑念をぬぐえないからだ。


一応ビルゴが彼女が現れた状況を説明する。門でアグニスと戦っていて死にかけた時に、不意に町からロリーナが現れアグニスを退けたと言う。


アグニスはその存在を訝しみながらも”まぁ良い。今は先を急ぐ。勝てる見込みがあるなら来ると良い”とビルゴに言い残し去って行ったと言う。


一同はその話を聞いても安心はしなかった。それを見てロリーナはやれやれと言った感じで苦笑いしながら肩を竦める。


「確かに警戒されるのも無理無いね。まぁでも今はそれどころじゃないでしょ? リムンちゃん力を貸してね」

「うん、良いだのよお姉ちゃん」


 リムンは笑顔でロリーナと名乗る村娘にしか見えない人物に頷いた。彼女は直感でロリーナが悪い人ではないと思ったからだ。


これまで様々な悪意や憎しみを向けられ殺されかけた彼女は、自分の命を護る為にそう言う人物に対して敏感だった。


コウに対して心を開いたのも、彼が悪意や憎しみそして殺意を持って居なかったからこそだ。コウに出会う前も寂しさのあまり町へ近付いた時もあったが、住民から悪意や憎しみを向けられ石をぶつけられた。


リムンは生きる為、生き残る為にそう言ったものを敏感に感じ取れる。それをしてロリーナはそう言う人物ではないし、どちらかと言えばコウに近い、と言うかコウの匂いを感じたので素直に協力の要請を受け入れた。


「さぁ皆、コウの居る所へ行こうか」

「何故貴女がコウ殿を知っている!?」


「だから言ったじゃない村娘Aだって。僕はコウが来るのをあの村で待っていたんだ。彼が村に現れた時に道端で座り込んでいたから保護したかったけど、なるべく運命を妨げないよう遠くから見守った」


 そして彼に秘伝のレシピを使って作った料理を与えていたと言う。乳母から母の復讐をしたいなら自分を鍛えて待ち、その男が来た時にそうしておけば必ず願いは叶うと教えられて育ったようだ。


コウが現れ去った後、アイゼンリウト城の上にのみ黒雲が掛かった時が復讐の時だとも教えられていたと言う。だからこのタイミングでロリーナが現れたのかとその点に関しては納得を得た。


だがその乳母の読みが素晴らしくて皆は呆れた。イーリスが皮肉交じりにその乳母が国を救えばよかったのにと言うと、ロリーナも同じ思いで聞いたようだ。すると乳母は”私自身は運命には逆らわない”と答えたと聞き、イーリスは直接手を下さない理由を考えようとしたが、馬鹿らしくてやめてしまう。


天使を堕とされた者が偶然この国に来て魔族とのハーフと結婚し、この国の元凶を倒す為の鍵になる娘を生む。更には妙な男が妙な剣を持って現れ元凶を打ち倒す。こんな筋書きを実行出来る存在など数えた方が早いからだ。


「で、どうやって何処に行こうと言うの?」

「アーサーがコウを隔離した空間へ。リムンちゃんの結界の技術と、私の力、そしてアリスが居ればアーサーの物語は完全になる」

「それはアイツが強くなるってことじゃないの!?」


「いいや違う。アーサーは忘れてしまっている。自分が焦がれた物語を。そして自分が描いた結末を」

「意味が解らん」


 リードルシュが一同の代弁する一言を放つ。


「あの男が焦がれた物語は異世界へ紛れ込むアリスという主人公の話。ならアリスがそこへ行けるのは道理」

「それで」


「あの男が参考にして作った物語は、別の世界のある国に竜が来てそれを自分を映した主人公がそこへ行って倒し、平和を取り戻し元の世界へ帰るっていうもの。あの男は自分が転生出来た喜びで浮かれ、途中で物語そのものを忘れてしまっている。でも物語は忘れない。あの男が自分の物語だと言うなら世界は修正する為の存在をこの世に送り込んだ」

「お前達が居て何故完成する」


「アリス、姫、そして僕ロリーナの三姉妹が居ないとその空間へ渡る穴を作れないんだよ。コウは意図してアリスを温存してたわけじゃ無いけど」


 一同は静まり返る。突然現れた人物が語る話に困惑しているのだ。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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