第7話 引きこもり、竜の少女と森で過ごす
「コウ、これで良いのか?」
「ああ、問題無い」
俺とファニーは洞窟を出て森を歩いていた。しかし流石引きこもり同士。体力が無く、森を抜けるには至らずに日が暮れてくる。そこで俺は以前ネットで見た丈夫なつるを使ったハンモックの作り方を真似て、二人分用意し丈夫な木と木の間のなるべく高い所につるした。これで獣の類は何とかなるだろう。ファニーは意外に器用でサクサクとつるでハンモックを作ってくれた。
とても助かる。しかし二人とも軽装だ。どこかで何か手に入れた方が今後の為になる。このまま街へ入っても奇異の目で見られる事は間違いない。
「なぁファニー。この世界にはファニーみたいに角を生やした種族が、普通に街に居るものなのか?」
「そうさな。居る事は居る。混血の類ではあるが珍しくは無かろう。我の見た目で角が生えている事に少しは驚くかもしれんが、対した問題にはならない」
混血……てなると鬼みたいな生き物とか獣が二足歩行したりとかも存在するんだろうか。まぁ最初の町を襲撃して来たような生き物がいるんだからいても可笑しくは無いのか。
俺からすると摩訶不思議な知識を手に入れてちょっとだけテンションがまた上がる。
「そうか。とすれば問題は俺の服装にある訳だ」
「だな。コウの服装はどう考えてもこの世界のモノでは無い。人は理解出来ないものに拒絶反応を示すもの。出来ればこの世界の一般的なものが手に入ればいいのだが」
「ファニー。この世界で売買されていて、俺達が手に入れやすい物ってやっぱり獣を狩って売るのが一番簡単かな」
「そうだの。それが安全で手っ取り早い。盗賊の類になりたくなければな」
「有難う」
俺はそう短く答えハンモックが掛け終わると木から下りて少し考える為に目を閉じる。
この森を抜ければあの洞窟から出た時に見えた感じだとそこそこ大きな町に出る。そんな町なら経済の流通はしっかりしているに違いない。となるとやはり獣をある程度狩って街で売ってファニーと俺の服装を変えることを先ずは目標としよう。
なるべく自然にこの世界に溶け込んでそこから気ままな旅暮らしに。ただ引っかかっている点がある。それは俺が捕らえられ生贄にされても平然とした顔をしているこの国だ。もしここを抜けて辿り着いた町があの国の範囲で衛兵の目の届くところなら追手が来るかもしれない。運よく厄介払いが出来たと思って忘れてくれると良いのだが。
「コウ、どうした?」
「ん? ああ、どうしたものかと思ってね。大体の方針は決定したし今日は早めに寝てしまおうか。朝早く起きて獣を探して五体くらい確保できればいいんだけど」
「……コウ、引きこもりとは中々考えているな」
「そうでもない。無駄な命のやりとりが嫌いなだけだよ。森の生態系を壊すのも後が怖いし。必要最低限のものさえそろえば後は旅に必要なものを随時手に入れて行く形で、例えば護衛とか洞窟探索の仕事だとかしていけば問題無いと思う」
「コウ。我はお主が主で良かったと思う」
「それは早計だよ。まだ何も始まっていない。全ては明日の朝からだ。ファニーにも気が引けるだろうけど獣を捉えるのを手伝ってもらわないといけない」
「一蓮托生の身だし、我は生態系として上位に居る存在だ。獣を捕えるのに良心の呵責は無い」
「そうか。それは何より」
俺は横に来たファニーの頭を撫でながら取り合えず地道にやっていくしかないかと結論付けた。
「オイ! ナニカイルゾ!」
夜の静寂に体をゆだねながら寝付いた時、まぶしい明りと共に声が飛んできた。これは聞きおぼえがある。最初に戦った怪人だ。
「ファニー」
「コウ、主より後に目を覚ます訳はなかろう。勘づいていた。出来れば素通りして欲しかったのだが」
「オッケー。残念だけど仕方が無い。降りかかる火の粉は早めに払わないと後からぞろぞろ来そうだ。ファニー、他にどれくらい居ると思う?」
「そうじゃの。恐らく今ここに三人程度じゃから、あのゴブリンども村が近くにあると考えられる。とするときりが無い可能性も高い」
「なら迅速に対処しよう。その後ハンモックを解いて持って街の方へ向けて移動しよう。それなら襲われる確率が多少はマシになるだろう」
「心得た!」
ファニーと一緒にハンモックの下に居た怪人、RPGのメジャーな敵であるゴブリンに襲いかかる。
三人組で鎧の様なものと武器を所持し松明を持っていた。しかし不意打ちに近い形になり俺は先ず一人を飛び降りた勢いを載せて頭に拳を叩きつけた。グシャッという音共にゴブリンは膝をついた。ファニーの方も同じ感じで一人片付けた。
「クソッ! 増援ヲ!」
そう言って逃げようとしていたゴブリンを俺は襟首を掴んで捕まえた。
「おいおいツレないじゃないか。そう慌てる事もない。俺はお前達を一撃で倒せるし、俺の相棒も同じな上にあの角を見ろ。お前たちの村を全滅させたいのか?」
ゴブリンを引き寄せ肩を組んでそう囁く。するとゴブリンは俺を見て暫く考える。
「ドウスレバイイ?」
「どうするもなにも、俺達は街へ移動しているしがない旅人だ。お前達が鎧とかを置いて行ってくれれば、俺達はお前たちの村を滅ぼすまで暴れる必要が無くなる。それだけだ」
「そうじゃの。面倒じゃからゴブリンの村など焼き滅ぼしてやろうぞ主よ」
ファニーの目が据わっている。それを見たゴブリンは喉を鳴らしてつばを飲み込むと、黙って頷いて着ていた鎧や武器を置いた。
そして俺とファニーで他のゴブリン達の装備を外す。流石に真っ裸は可哀想だから下着っぽい物は勘弁してやった。
「契約成立だ。仲間は気を失っているだけだから、早く村に連れて行って治療すると良い。ただもう一度俺たちを襲えば、本気で滅ぼすぞ?」
ゴブリンが仲間二人を抱えて去ろうとした後ろ姿に念を押した。一度立ち止まった後、逃げるように駆けだして去って行った。
「コウ。労せずして換金できるものが手に入ったな」
「そうだな。これで追撃が無ければいいが。ファニー、体力は?」
「主と同じく」
「そうか、なら夜で危険だけど留まるのは更に不味い。運よく物も手に入ったし街へ向けて移動しようか」
「賢明だ。取り敢えず着心地は悪そうだが其々ゴブリン達の鎧に身を包んで移動しようかの」
「大丈夫かなこれは……」
俺はそう呟きつつゴブリン達が来ていた鎧を身に付ける。鎧と言っても動く邪魔にならない範囲のもので、パジャマは相変わらず見えている。所謂軽鎧というものなのだろう。
そして恐らくこれらはゴブリンが作ったものではない。しっかりと俺の体にフィットし、人間に動きやすいようになっているからだ。盗品か……売り捌く時に問題にならないと良いんだがなぁ。
「さぁコウ行くぞ。追手が来ないとは保証できかねる」
「ああ悪い。急ごうか」
俺はゴブリンが置いて行った剣を腰に差してファニーと共に駆け足で森を抜けるべく夜の森を移動し始めた。
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