第65話 冒険者、出会いの意味を知る
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「さぁ来るが良い冒険者どもよ。まさか逃げられると思うなよ」
「ぬかせ!」
俺は黄金色の剣と王が姿を変えた紫の剣を持つアグニスへ斬りかかる。だが王のように浮遊せず地に足を付けたまま、自分の動きを確かめる様に避け続けるアグニス。
いやアグニスという名前すら本当の名前では無いだろう。さぞ名のある魔族なんだろうな。ひょっとするとそこから何か弱点に繋がるような情報が得られるかもしれないと考え、俺はその名を問う。
「お前の名前は何だ?」
「私の名前か……私の名前はそうだな、アーサーとでもしておこうか」
「英雄気取りかよ!」
まだしっくりと来ないのか余裕で避けているのに攻めてこない。アーサーと答えたのも、ほぼどうでも良い感じでふと頭に浮かんが物を口にしたように見える。
すぐさま慢心状態で攻めてくるかと思いきや、長年用意周到にして来ただけあって整うまで攻めないようだ。
アーサー王と言えば俺からするとゲームでのイメージが大きい。どの作品でも剣士として一流で比類なき人物として描かれている。
まさか魔族がアーサーとは皮肉な気がするが、確かに円卓の騎士の物語や結末を見ると闇落ちするのも分かる気がする。
「反撃しないのか?」
「してもいいならするが、すると死ぬかもしれん」
俺の問いに対して悲しそうに微笑みながら答えるアーサー。この感じからして自分が長く楽しむ為に手加減が出来るよう、体の感覚を確かめていたのかもしれないな。
だがこちらも斬りかかりながら、どれだけ動かすと痛くないかや体の捻りなどもチェック完了した。いざという時まで最小限に傷めないようにしなければならないし、恐らくチャンスは一度あるかどうか。一瞬の隙も見逃せないので見つけた時に動かなければ困る。
自分の動きを把握したので相手の凄さを実際の攻撃で確認したい。その為に挑発してみよう。
「やってみろよ」
「ならば」
こっちの挑発に迷わずに微笑みならば乗ると、身を一瞬屈めてからこちらへ突っ込んで来た。それを半身で避けたのを更に追ってくる。ここから怒涛の攻めが始まる。
目で追えているからこそ対応出来るが、そうでなければこんな攻撃は防ぎようがない。何とか目に頼りながら風をまいて四方八方から攻めてくるアーサーを、避けて弾いてを繰り返していく。
「お前は王が相手なら勝てるだろうが、私相手では力不足だ」
「それはどうかな!」
俺は一瞬の隙を突いてアーサーの腹を蹴った。後ずさりしたが素早く間合いを元に戻されてしまう。
「その剣もこの世界では異質な物の様だが、私の剣には敵わん」
「だが斬り合えているぞ」
不敵に笑いながら答えた俺の言葉に対して眉間にシワを寄せた。敵わないと言いながらも何か変だと思っている証拠だ。王と同じようにまだこちらの勝機はある。
「それも終わりだ」
二剣を素早く斬りまるで一太刀の様に見えた斬撃を喰らい、俺の黒隕剣の剣身は光の粒子共々粉々に砕かれてしまう。そんなバカな……リードルシュさんが全てを賭けて打った剣が砕かれてしまうなんて。
「強度も何もかも、私の剣が勝っている」
「くっ……」
アーサーは笑顔も見せず、挑発の代償だとでも言いたそうな顔をしながら冷静に俺を見下ろして言う。
何とか黒隕剣の剣身を復活させようと力を込めて握るが反応が無い。このままでは斬られるしかない……! 何とか蘇ってくれ相棒!
「長い年月に魔族と堕天使の魂で練成した剣だ」
「このっ!」
剣を振り上げ止めを刺そうとするアーサーに対し、砕けて鍔と柄だけになった黒隕剣を握りながらアーサーと向かい合う。何とか出てくれと力を込めながら藻掻いていると、ダンディスさんが俺を突き飛ばし割って入った。
「私たちも行くわよ!」
「ええ!」
「はい!」
「良かろう!」
イーリスの合図でアリスに姫、リードルシュさんも加勢する。しかしアーサーは二振りの剣を巧みに操り、付け入る隙が無い。
こちらが同時に仕掛けても、それを上回る速度で剣を振るい弾いてしまう。何て強さだ……今こうして俺たちを相手にしているのも、その先の為にとでも言いたげな、余裕の表情でダンディスさんたちを捌いている。
「しっかりしろ、コウ」
俺はファニーに声を掛けられるが、砕かれた黒隕剣を握り力を込め続けた。まだ行けるはずだこのまま終わる訳が無い。リードルシュさんが全てを賭け、俺とここまで戦ってくれた相棒がこんなところであんな剣に砕かれたまま負ける筈が無いんだ。
「馬鹿もの!」
パンという乾いた音と共に、俺は吹っ飛ばされる。壁に激突して前を見るとファニーが手を薙いだ後だった。ファニーの強烈なビンタに唖然としてしまったが、執着していたものも飛んで行った気がする。
「ファニー」
「しっかりせよ。こんな所で負けるわけにはいかんだろう」
「あ、ああ」
「情けない。我らにはこの先がある。その為に我もコウの力になろう」
「どういう……」
「我はファフニール。相手が二剣なら、こちらも二剣になればいい」
「え?」
「必ず勝てよコウ」
そうファニーが言うと体から眩い光を発し、部屋中を光で埋め尽くした。俺は咄嗟に目を瞑ってしまい、早く目を開けたいが光の強さに目が開けられず焦燥感に苛立ち、やっと光が弱まった瞬間直ぐに目を開ける。
するとそこには、深紅の幅広い剣身に黄金色の柄、柄頭には蒼色の宝石が付いた剣だけがあった。ファニー……まさか。
「我を使って敵を討て、コウ! 相手がアーサーなら、より古き物で!」
「……バルムンク……」
ファフニールを倒した英雄ジグムンドが持ちし聖剣。元の名をグラム、またの名をバルムンク。
俺は自分の未熟さと弱さに絶望し怒りを覚えたが、ファニーの思いを無駄にしない為、それら全てを力に変えてアーサーを討つべく左手で取る。
剣に俺の気が流れて行き、ファニーの気と合わさって剣身に小さな粒子が舞う。ここまでの道のりは、旅路はこの為にあったのかもしれない。
だとすれば俺たちにはその先もある筈だ。その為にファニーは剣に自分を変えた。だがまだ黒隕剣が戻らない。
右手にある黒隕剣を見ると光を放ち始めた。
――我と共に歩みし者よ――
頭の中に声が響く。黒隕剣の声だ。
――お前も気付いていただろう――
恐らく。でも確かじゃない。
――そう、それは正しい――
――我が進化した時、何故剣身を分けたのか――
――何故そこから光の剣身が出たのか――
――我は元よりこの世界のモノにあらず――
――幾千か幾万、幾億の星の間を流れ――
――辿り着いた欠片では無く凝縮された本体――
――我は鍛冶師により形を変えた鉱物――
――我の真の姿を持て、相手を滅さん!――
その声が消えると、黒隕剣の鍔の剣身があった所から再度光の刃が生まれる。それはエネルギーの様で、しっかりした剣身では無かった。だが握る手に感じる凄さは本物だ。今度こそこの力で全てを終わらせるんだ!
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