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第59話 冒険者、時を待つ

 王の言葉を聞きながら俺は口から出た血を拭う。口が切れただけじゃないな……内臓が悲鳴を上げている。手が震えていたが気合を振り絞り俺は斬りかかる。


「遅い」


 王が握る剣の柄で鳩尾を打たれた。続けざまに顎を蹴り上げられる。俺の体が浮き意識が途切れそうになるも、何とか意識を繋ぎとめ体を回転させて薙ぐ。しかし王はそれを避けて俺の胸に蹴りを入れた。


またしても壁に叩きつけられ、ズルズルと落ちながら床に降りへたり込む。咳き込む度に血が出てくる。まったくエライ化け物が誕生したもんだ。霞む視界に王が剣で俺を突き刺そうとしてきた。寸での所で顔を横へ向けかわすと、何とか力を振り絞り王の腹へ黒隕剣を斬り付ける。


斬れない。


だが態勢がくの字になった。俺は出た顎を黒隕剣で斬るべく薙いだ。斬れはしなかったが、吹き飛ばしには成功する。表面の固さも尋常じゃない。

 

「死に体だと思ったのだが存外やるな。だがそれを今から計算に入れる。お前に勝機は万の一つも無くなった」


 これは参った。体力だけじゃなく体全体が悲鳴をあげている。迫り来る王の姿がスローモーションで映る。切り札を伏せたままやられるなんて情けない。もう一歩と言う所まで追いつめたんだがここまでか。


すまない、ファニー。リムンに姫、ダンディスさんにリードルシュさんそしてビッド。今一歩及ばずだった。


「残念賞だったな王様よ!」

「そう、よくぞここまで持ちこたえてくれた」


 懐かしい声が耳に届く。一瞬幻聴かと思ったが、王が併撃され防御し後退すると、俺の前に頼りになる背中が二つ立っていた。


「ダンディスさん……リードルシュさん」

「待たせたな。雑魚は片付けたぜ!」


「少し休んでいろ」


 二人は俺にそう言って構える。本当なら二人に加わりたいが、この状態では邪魔になってしまう。俺は悔しさに顔を歪ませながら壁にもたれ掛かり力を抜いた。一刻も早く回復し二人と共に戦う為に。


「……今さらお前らの出る幕ではあるまいに」

「さてどうかな。あの時はこっちも勘が戻って無かった」


「そう、色々錆ついていたのでな」

「あんな小物を倒した所で我を倒せるとでも?」


「倒す必要なんかないさ」

「その通り、時間を稼がせてもらうぞ?」


 ダンディスさんとリードルシュさんは王に向かって斬りかかる。勘が戻ったと言う言葉通りに二人は躍動し、攻撃を避けながら攻撃を加えていた。


流石だと思う反面、王はそれに対して驚いた顔をせず視線は俺に向けられたままだ。余裕かましてくれるじゃないか。回復まで二人で遊んでやると言わんばかりの顔をしている。


「コウ、大丈夫!?」

「しっかり」


 アリスが駆け付けてくれ、イーリスも俺を壁から放し仰向けに寝かせてくれた。もう少しやれると思っていたがここまで差があるとは……。二人を見てから余計に悔しさがこみあげてくる。


「くそっ……あんな早さありかよ」


 俺は二人の顔をみてつい弱音を吐いてしまう。情けなさに涙が出そうになる。


「凄いわよアンタ! あの王の化けの皮を剥がしたじゃない!」

「そうよ。悔しいけど私達には出来なかったわ」


 二人は俺を励ましてそう言ってくれた。王が生きていればこれから誰彼構わず被害は際限なく広がるだろう。死活問題はこの国だけに留まらない。彼女たちの為したいものにも影響がある。


だからこそ人間と協力してでも倒すと誓いここまで来てくれた。そう誘った俺が弱音を吐いて諦めたらダメだ。


そう思って踏ん張り体を起こそうとすると、イーリスに手で制止され首を横に振る。起き上がっても消耗するだけで今は無駄以外の何ものでもない。分かっていても姿勢だけでも負けていないって見せたくて、俺は上半身のみ起こす。すると今度はアリスが俺の背後に回りしゃがんで支えてくれた。


「ゴメン。つい弱音を」

「良いのよ。弱音くらい吐いても」


「そうよ。頑張ったわ」

「ああ、だがまだ終わっちゃいない」


 俺は逸る気持ちを抑えきれず立ちあがろうとするが、アリスとイーリスに制止される。


「あの二人が頑張っている間に少しでも体力を回復させて」

「私達に人の治癒をする事は出来ないけど、魔力を分ける事は出来るわ」


 イーリスはアリスを見て頷く。二人の手が暖かく感じ、弱い電流のようなものが流れてくる。黒隕剣の光の刃も戻り消耗した分が少し戻ったようだ。


不思議なのが体の重さも徐々に取れて着ているように思う。確かに傷やダメージは回復しないのだろうが、最初の頃までとは言わないまでも動ける気がして来た。


「我はもう遊ぶつもりはない。アイツを消すと決めたのだ。邪魔をするでない」


 ダンディスさんと剣を交えつつ、振り払いリードルシュさんの抜刀も

軽々と捌く。王は俺を見てそろそろかと思ったのかそう告げた。ダンディスさんとリードルシュさんは、一度惨敗したとは思えないほど対等に渡り合っている。


「なら余計させねぇよ!」


 ダンディスさんの中華包丁二刀流の剣撃は速度を増し、先ほどまで余裕で捌いていた王を徐々に押し始める。


「そういう事だ」


 リードルシュさんも合間を見て抜刀術を繰り出し牽制する。二人のコンビネーションは抜群。元々戦闘経験の無さそうな王だったからこそ、あの二人にとってはやりやすいのかもしれない。そして一度敗戦しているからある程度動きも読み易いはず。


「この形態になってここまで手こずらせてくれるとはな」


 押せ押せで攻撃していた二人もやがて息があがってきた。肩で息をし始める。ただ王も息が荒くなってきた。これまでの積み重ねが漸く実を結んだんじゃないか? だったらここはチャンスだ!


「まだダメよ」


 アリスに読まれて肩を抑えられ


「まだ今動いた所で貴方はあの二人ほど動けないわ」


 イーリスも抑えてくる。だが二人の顔を見ると、自分たちも仕掛けたい気持ちを抑えているよう感じた。二人が抑えて無ければ俺は当然飛び出していたに違いない。


 チャンスなのは二人も分かっているだろうが、あの様子ではダンディスさんもリードルシュさんもそう長くは持たない。だからこそ二人が倒れそうになった瞬間飛び出す為に堪えたのだと思う。


もどかしい。


 恐らくこの世界に住む普通の人より力も魔力も与えられたと言うのに、今はただ見て耐えているだけなんて。


「王、アンタはオヤジさんとは違う。幾ら強大な力を手に入れようと、圧倒的に足りないものがある。それが戦闘経験だ」

「そういう事だ。特に一対一なら支障はないかもしれんが、一対多数の乱戦では戦闘経験こそがモノを言う」


「ふん……ならばその経験の少ない我をお前達はどうやって倒すと言うのだ? 圧倒的な力の前にひれ伏す寸前ではないか」

「まだいけるさ」


「そういう事だ」


 王はリードルシュさんに斬りかかるが、素早く避けられてしまう。追撃で空いてる手で殴ろうとするも、ダンディスさんがその隙を突いて腹を斬る。


勿論斬れてはいないが、肌は赤みを帯びダメージを与えているのが分かる。そして続けてリードルシュさんが王の後頭部に抜刀術を飛び上がって放つ。その衝撃に堪らず地面に手を着く王。


更に隙を逃さずダンディスさんとリードルシュさんは併撃し、王の肉体にダメージを蓄積させて行く。王は苦し紛れに暴れ二人を遠ざけると飛び退いた。


「くっ致命的では無いとは言え、蓄積されるダメージも馬鹿に出来ん」

「そうだろう。もう気付いているだろうが、コウが与えていたダメージがあったからこそでもあるんだぜ」


「王、お前は俺達と最初に戦った時は万全の状態であっただろう。今回はコウがお前を消耗させるべく動き回り、疲労が動きに出るまで落ちるよう積み重ねていた。我らの戦闘の勘が戻ったのもあるが、それが今響いている」



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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