第51話 冒険者、王の元へ
俺とイーリス、そしてアリスの三人は姫の部屋を通り抜け、王座の間を覗ける塔のに辿り着く。王の間、と書かれた踊り場に出た時に脇に階段があり、俺は直感でそっちへ走った。
するとそこは、丁度王の間が覗けるように建てられた、少し離れたところにある見張りの為の塔だった。
「奇襲するの?」
アリスは窓の脇に立って待機した俺に尋ねる。答えはイエスだ。正攻法で仕掛けて行こうと、奇襲をしようとあまり変わりは無いかもしれないが、何もしないよりはマシだ。
「小細工をするより、仕掛けてこっちのペースにするわけね」
「そうだ。今までの少ない経験から考えて、乱戦というのが一番面倒だった。ごちゃごちゃしているとレベルが高くても、見て考え動きと対処が少し遅れる。その隙を出来れば突きたい」
これはネトゲで学んだ知識だが、お行儀よくよーいドンで始めれば強い敵が弱い味方を駆逐していき、立て直しが利かない。それよりも奇襲で攻めれば、慌てた相手に対して優位に戦える。慌てなくても、さっき言ったように対応の遅れという隙が生まれ、こちらにチャンスが生まれる可能性がある。
「二人とも、良いか?」
俺が二人の顔を見る。黙って頷くイーリスとアリス。準備は万端らしい。
ならば!
「いくぞ!」
俺は窓を開けて外へ飛び出し眼下を確認する。
天井はガラス張りになっていて、その下には予想通り王が王座に座っていた。
こちらにまだ気付いていない……今がチャンス!
俺は鞘から出ていた黒隕剣を手に取ると、黒隕剣はレイピアモードから光の刃を形成し、ロングソードモードへと形態を変化させてくれた。
「づぁ!」
黒隕剣が反応したのを感じて振り下ろすと、何か結界のようなもので防がれる。早々都合よく気付いてないなんて無いか。だが今更だ!
「はぁっ!」
「でやあ!」
イーリスとアリスも続けて攻撃を加え、なんとか結界を壊しそのままガラスを破壊して王へと突撃する。
「何?」
王がこちらを見て驚いたので俺も驚いてしまう。流石に気付いただろうと思っていたが物思いに耽っていたのか? 何にしてもこれを見逃す手は無い。俺は深紅の髪の青年の頭上目掛けて相棒を振り下ろす。
それを皮切りにイーリスとアリスと連携し、息を吐く暇すら与えずに攻め続けた。
「おのれっ!」
王は堪らず手で俺達を払いのけようとするが、俺はしゃがみイーリスとアリスは距離を取る。標的がバラけ王は混乱した。俺はそれを見逃さずにしゃがんだ状態から勢いを付けて、立ちあがりながら薙ぐ。
「ぐぉっ……!?」
王は短い悲鳴を上げながら胸に出来た傷を見て驚く。その傷跡から流れていたのは、赤ではなく青のような紫色のような血だった。
それを見て人では無くなったと思うと同時に、絶対者ではなくダメージが通るのが分かり、恐怖心が無くなった。更に勢いを付けるべく咆哮しながら斬撃を加える。
「我が血を糧とし敵を締めあげん! 魔姫結界!」
「悪魔の藻」
アリスとイーリスの魔術により、王は身動きを封じられた。俺はそれを逃さない。
「うぉああああっ!」
全ての力を込めた一撃を放つべく振りかぶり、王に叩きつける。
「ぐあああっ!?」
王は一刀両断され、左右に分かれて倒れる。俺は肩で粗く息をしつつも、何かおかしいと感じ始めていた。ここまで全て都合が良すぎる。あの圧倒的な王がこんなにあっさりやられる訳が無い。
「王……いつまでふざけているつもりだ?」
息を整えながら構え、王に問いかける。勘が正しければ、こちらの腕試しのつもりでやられた振りをしているだけだ。
「流石は我と同格と認めた男だ……素晴らしい! 完璧に近いと言える。適材適所の配置に奇襲、そして絶え間ない攻撃。どれも一級品以上の価値がある!」
適材適所に配置した訳じゃなく皆が自分から残ってくれたのだから、俺は仲間に恵まれただけだ。俺は反論はせずに息を整える。
王は分かれながらも口を動かしそう言った。そして煙になると、一カ所に集まり元の状態に戻る。
「欺かれたか」
「いや、ダメージは与えていたぞ? 流石に我も無敵では無い。外で雑魚と戯れていた時とは比べ物にならないほどのダメージを受けた。そしてこの方法は、イーリス、お前が逃げた時の方法をヒントにして得たものだ」
王は、ダメージを受けたと言うが平然としている。天井に手を掲げると、大きく無骨な黒い剣が出現し手に取った。
「通常の悪役ならば、勇者の奇襲をなじるものかもしれんが、我はせん。元々差があったのだ。奇襲をせずに堂々と正面から来れば、称賛はしようが退屈極まりない相手だと思っただろう」
「お眼鏡にかなったようで光栄だ」
「そうだ。喜ぶが良い。やはりお前は我の見立て通り、一番強い。我を倒しうるのはお前だと確信した。だからこそ、我も本気で戦う事にしよう」
王は言い終わると、一瞬姿が消えた。しかし俺の眼はそれを捉えた。低い体勢から俺の胴を斬り裂かんと薙いで来た。あっさりと間合いを詰められ、今度はこちらが防戦一方だ。ビッドの背丈くらい長く幅の広い黒い禍々しい剣を、軽々と振るい俺に斬撃を与えてくる。
まともに受ければ腕を持っていかれると思い、インパクトの瞬間に巧く流した。と言ってもそう都合良く行く訳が無い。最初はモロに衝撃を受けてしまい、腕がしびれた。だが徐々にその太刀筋が見切れて捌けてくる。しびれていたのが良かったのか、余計な力を入れようも無く自然な流れで捌けた。
「ふはははははっ! 流石勇者! この我がお前を斬ろうと思っても斬れぬぞ! これは良い!」
余裕ありすぎるだろコイツ。流石この国のボスって感じだ。上半身と右腕だけを動かし高速で斬り付けながら、息すら切らさないなんてチートも良いところだ。
勇者ならこんな物すら余裕で返してしまえるだろう。仲間を置いてここにはこないだろう。こんな無様な戦い方で敵の大将と戦いはしないだろう。
俺はそんな立派なもんじゃない……。
「俺は」
「ん?」
「俺は、勇者なんて御大層なもんじゃねぇ!」
隙を突いて思い切り斬り返すと、王は防御したが王座まで押し返した。
「……ならなんだ」
目を見開いて驚いた後、剣を振りそう問われた。俺は一瞬考える。そうだな。御大層な名前は必要ない。
「無職で引きこもりだったおっさんだ!」
俺はそう言いながら笑顔で大声を上げ王に告げる。嘘偽りのない俺の元々の状態だ。勇者などとはかけ離れている。これまでの道筋を思えば、他の言い方もあるかもしれない。だけどこんな大一番だからこそ、どうしようもない自分をさらけ出し、体裁も何も捨てて挑む為に、そう名乗った。
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