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第46話 冒険者、猛る王と対面す

            ・


 俺はアリスと共に姉のイーリスと言う魔族を背負い、首都アイルを目指す。彼女たちが俺に付いて来るのも、やり返したいというだけではない。


自分たちが協力していた者がどれだけ強力かを知っているからだ。それが自分たちをも手に掛けようとしたしたなら、放置しておかれる筈が無い。


姉のイーリスはそれを分かっているからこそ黙って背負われている。今ここで俺を亡き者にしても、ただ戦力が減り自分たちの死に直結すると分かっているからだ。


「コウ!」

「おっちゃん!」


 草むらががさがさ動いたのを見て警戒し足を止める。少し間があって飛び出して来たのはファニーとリムンだった。あまりに突然の事で口を開けたまま呆然としていると


「魔族ども!コウを離せ!」

「そうだのよ!」


 と二人が臨戦態勢に入り得物を向けた。俺はハッとなり


「待て待て、二人ともどうしてここに!?」


 前屈みになってイーリスを背中だけで背負うと、左手を前に出し制止し二人に尋ねる。


「お前を助けに来たに決まっておろう!」

「そうだのよ! おっちゃん、アタチの新しい力を見せてあげるだのよ!」


 その勇ましい姿を見ておっさんは少しうるっとしてしまった。だが今はそんな状況ではない。その先の方の禍々しい気を感じて居ても立っても居られない。


「いやいや待て。取り合えず今は首都に行くのが先決だ。この二人にも手伝ってもらわなければならない」

「魔族の助けなどいらん!」


「だのよ!」


 後ろの気なんて無視し、俺を魔族から解放しようとしてくれている。別に囚われてないとか説得するのは難しそうだな、と思いつつ二人のその懸命さが嬉しい。


「兎に角急ぐぞアリス! ファニーとリムンも走れ!」

「え、あ、解ったわ!」


「ちょっ!」

「待てだのよ!」


 アリスの手を引いてイーリスを担ぎながらファニーたちの脇を駆ける。何とか無事で居てくれると良いが……間に合ってくれ!


そう願いながら森を抜け草原を駆け、徐々にその禍々しい気が近くなる。それはキャンプファイヤーのような火柱を黒い炎で立てていた。


自らの身の丈よりも高い黒い炎。この国全てを焼き尽くさんとしているような気がしてならない、その炎の下まで近付こうとしたが足が止まる。


「皆……」


 俺の目の前に広がっていたのは、鎧の残骸と姫やリードルシュさん達の倒れた姿だった。そして中央で立ち尽くす深紅の髪の青年はこちらを向き


「おぉ、遅かったではないか。今しがた雑魚共が息切れした所だぞ。主賓が遅れてくるとは随分と余裕があるのだなそなたは」


 そう言った後、ほほ笑みながら宙を浮きこちらへ近づいてくる。この世界に来て初めて、一人を見て恐怖を感じただけでなく死を感じた。圧倒的な死の予感。


「あれは何だアリス」

「あいつは、アイゼンリウトの王よ。私達はアイツの願いで魂と命を集めて、アイツにそれを注ぎ込んだの」


「なら一緒に責任とれよな。あんなもの放置しておいたら、この世界そのものが危ないのは魔族でも解るだろ?」

「許さない……」


 今までぐったりしていて俺に担がれていたイーリスが口を開く。王は担がれていたイーリスを見る様に顎を上げ少し横に首を傾けた。


「別にお前に許しを請う必要は無い。ここでお前を亡き者にしてやるのも良いが、折角主賓が到着したのだ。我が用意した舞台へご招待せねばなるまい」


 王は一瞥し気にも留めず視線を俺に向けそう告げる。


「用意した舞台だと?」


 俺はイーリスが動こうとしたのを制止して尋ねる。少しでも時間を稼いで回復させないと、この先何が待ち受けているか解らない。勝てる気なんて全くしないが、ここで戦う場合一ミリでも可能性を上げる為には皆で全力で戦う他無い。


「そうだ。お前と我はこの世界にとって規格外、ルールを外れた存在だ。この世界に斯様な存在は二人も要らぬ。ならばどちらが生き残るか、雌雄を決せねばなるまい」

「確かにな。アンタを野放しにするとこの世界がめちゃくちゃになる位は解る」


 上半身裸の王は、巨大な黒い炎以外何も纏っていない。その何も持たない様が余計不気味さを煽る。姫やリードルシュさん達を相手に余裕の表情だし、まだ本気の欠片も出していないとなると怖すぎて逃げ出したいな。


だがこんなものを野放しにすれば、この光景が世界の至る所で繰り広げられてしまう。それだけは何としても防がなくては。


「理解が早くて良い。ならば我は待っておるぞ、お前と我が最初に顔を合わせた場所で」

「ああ」


「遅れた序でだ。ゆるりと参るが良い。最早我とお前とが闘うのは決定事項だ。お前が逃げるような輩とも思えんからな。おすすめは夜が明けてからだ。そうすれば魔族は夜よりも力が衰えるのでな」

「その間にお前は何をする気だ?」


「ふふ、そう邪推するな。我は言ったはずだ。相応しい舞台は用意したと。これ以上何かをする必要もない。お前が勝ちたければ時機を待つのが最良だ。まぁそれでも今の我に届くかどうかは知らんが」

「余裕で居られるのも今のうちかもしれないぞ?」


 俺の言葉を聞いて王は高笑いをする。


「そうであってほしいものだな。何せあれらと戯れていた時は、力を試しようも無かったのでな。察しの良いお前なら気付いておろうが、我はまだ一分も力を出しておらん。多少切り傷は付いたが、今はご覧の通り。お前を待つ間に我は傷の回復にあてた分を回復するだけで良いのだ」


 何とも言いようがない。リードルシュさんたちが全力で立ち向かっても遊びにしかならず、更には傷も全快していてその消耗したエネルギーとやらがあるようには思えない。


「……解った。必ずお前を倒しに行こう」

「待っておるぞ」


 王は不敵な笑みを浮かべながらさらに上空へ向けて浮き上がると、首都アイルにある城へと飛んで行った。


「凄いなあれは……」


 王が去って暫くして、息苦しさから解放され大きく深呼吸をして呟く。平静を装ったが、正直なところ手が震えないようにするのも限界だった。


「王は最後の手段を使ったようね。最早何も加える必要が無いから私達は見逃された」


 アリスは憎々しげに王の去る姿を見て吐き捨てた。


「取り合えず悪いけど門の近くまで行くぞ。仲間が無事か確認したい」

「解ったわ」


 アリスの顔を見て言うと、素直に応じてくれた。イーリスを担ぎながら何とか門の近くに辿り着く。


「おい、今一人で動いた所でどうにもならないと解ってるだろうけど、念を押しておく。大人しくじっとしてろ。でないとあの王の餌になるぞ」


 俺はイーリスを下ろし座らせると、念を押しアリスに任せる。そして倒れている姫達の所へ行って見ると、皆ダメージを受けているがギリギリ生きている。だがこれ以上の戦闘は無理なように感じた。


俺は辺りを見るが、城下町は建物はあっても人の気配はしない。そこに姫達を置いて行くのは危険だ。恐らくアリスの言う最後の手段とは、この街の人たちを生贄として吸収したのだろう。そしてもうこれ以上は必要ないほど十全な状態になった。


全てが後手後手だ。だがもうこれ以上の後手は無い……何故ならそれは全ての終わりを意味する。王は俺に対して街の人たちを吸収してアドバンテージを持っていて、それがあるからこそ俺をここで討たず、朝になったら来いと勧めたのだろう。


読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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