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無職のおっさんはRPG世界で生きて行けるか!?Refine  作者: 田島久護
第一章・引きこもり旅立つ!
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第5話 引きこもり、竜と出会う・その一

 俺はじっと座って生贄にされる相手を待っていた。

こういう洞窟の場合、コウモリなどのモンスターみたいのが出てきてもおかしくないはずなのだが全く出てこない。気配もない。妙な感じがしかしない。竜が居るから当然なのかもしれないが。


「おいお主」


 違和感を感じながらじーっと座っていると、暫くしてから奥の方から声が届く。恐らく俺に問いかけたのだろう。


「何だ?」

「何だとは偉そうな奴だ。ここからでも私はお主の顔が見えるが、お主は見えまい?」


「だから?」

「……挑発しているのか?」


「いや、別に顔を見なくても俺は全く問題ないだけなんだけど」


 そう気だるく答えた次の瞬間突風が奥の方から吹きつけてきた。あまりの強さに顔がひっぱられたが何とか耐えていると風が止む。


「これでどうだ?」


 目の前に現れたのはトカゲの顔に金色の角が生えた生き物だった。しかも顔だけで洞窟を覆っているのだから体はもっと大きいだろう。


 しかしビビることは無かった。威圧感は感じるが殺意みたいなものが無い。もしあれば今の俺なら生きる為に、異世界に来て得た力で一応抵抗しなければと思っただろう。鎧たちと違ってこの生き物も怪人と似たようなものだし。


「……気にいらぬ」


 大きな口を開けているが五月蠅くない声でそう言うその生き物。恐らく竜なので竜としよう。この竜は眼の縦長の瞳孔を広げ俺を見た。威圧感は増したがただ脅しているだけという気がする。


「お主本当に人間か?」

「いや引きこもりだけど」


「引きこもりとは人間ではないのか?」

「人間じゃないかもね」


 俺は自虐気味に答えた。それは両親の言葉だった。家でテレビを見る事もネットをすることも出来る中で日がな一日天井を見つめていた俺に対して、長い事ドアを開けて見ていたと思われる両親が


”人間じゃないねアンタは”


 と言った言葉を思い出し、妙に腑に落ちたので俺は人間では無い何かなのかもしれないと思った事があった。まぁ何の事は無い人間なんだけれど。


「人間でなければ何だと言うのだ」

「さぁ……何だろうね」


「貴様!」


 またしても突風が俺の顔を押す。息が止まる中で俺は思う。俺は何なのだろうか。何もせず日がな一日天井を見て何も思わず日が暮れていた日々を送っていた。


 息をしているだけ見ているだけのおっさん。息が出来ずに苦しくなってきたが、答えらしい答えは見つからない。


「ならお前がつけてくれ」


 ひねり出すように俺は竜に言った。すると風が止んだ。竜は口を空けて瞳孔を開いたまま見つめていた。


「……引きこもりというのは凄いな。普通の人間なら我を見て驚くものだが」

「いや驚いているけど、想像を絶していないだけかな。で、何か良い案ある?」


「……フフフッ……アハハハハハハッ!」


 洞窟が揺れるほどの声をあげて笑う竜。そんなに面白いことを言ったかな。


「いや、失礼。我に問う者は数多くいたが、自分が何であるか問われたのは初めてだ。実に興味深い。長く生きてきたがまさかここで新しい事に出会おうとは思わなかった!」

「どれだけ生きてるの?」


「さぁな。我は生れてよりここに居る。ずっとな。大昔、大魔導師の何とかいう奴に封じられていてここから出る事は出来ないようになっている」

「ふーん。じゃあお前も引きこもりじゃん。もしかすると俺より長い」


「……クックック。お主は愉快な奴だ。なるほど閉じ込められている状態を

引きこもりと言うのか。ならば我も同じだな」

「まぁ引きこもりは最終的には自分で選んで引きこもってるんだけどね」


「……そう言う意味でも同じかもしれん。我も何とかしようと思えば何処かへ行けたかも知れんが、そんな気も失せていた」


 竜は眼を閉じ言葉を止めた。きっと今までの事を考えているのだろう。俺も自分で言って解ったが自分で選んで引きこもりになった。


 色々な要因がありそれで人から離れたくて引きこもりを選んだのだ。


 この竜も人に恐れられそんな怯える人に会いたくなくて引きこもりを良しとしたのかもしれない。勝手な憶測で共感している俺に対して竜は


「生贄として最上級の者を寄越してくれたものだ。これほど気が利いた者をくれるとは、余程良い事でもあったのだろうか」


 そう言ったがそんな訳はない。彼らは何時もの様に邪魔なものをただゴミ箱に捨てただけだ同じ人間を。あの目はそれを物語っていた。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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