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第40話 冒険者少女たち・その三

             ・


「どうだ? 大体解ったか?」


 草原の真ん中で小さな二人が並んで座っている。リムンは本をジッと読みながら難しい顔をしていた。その顔を見ながらファニーは暫くそよ風に身を任せていると


「よしっ!」


 と勢い良くリムンは立ち上がり、杖をかざした。


「我が魔力によりて紡ぎゅ」

「噛むな」


 すかさずリムンに突っ込みを入れるファニー。涙目になったリムンは口をぎゅっと結び耐えた。そしてもう一度と気合いを入れ直し、口を開く。


「我が魔力によりて、紡ぐは安らぎの場、誰も阻む壁なり」


 そう言葉を発しながら、杖で自分の前の地面を左から三つ叩く。するとリムンより少し高い半透明に薄緑が入った壁が出来た。


「更に三つ、紡ぎて、囲いを立てたり、魔力よ通りゃんせ!」


 リムンは更に自分の横と後ろ、ファニーの横を三つ叩いた。


「なるほど。一気に言えば噛むから一つずつ分断しての詠唱か」

「うん、アタチ噛むから。これなら大丈夫」


 鼻息荒く胸を張るリムンに、ファニーは小さく笑う。素質は十分だが師匠が居ない状況ではこれが精一杯だろう、と。


恐らくこれはただの魔術師が張るものよりも耐久は高い筈。それを見越してミレーユはこの本と杖のみを渡したのかもしれないなとも思った。


一応手放しで褒めると向上心が無くなるかもしれないから、少しだけ褒めようと考えるファニー。


正直とても困っている彼女は、少しずつこの小さい仲間の扱いを学んでいた。子は元より弟子も居ないし同族の年下にも会った覚えが無い。


思えばもうずっとあの洞窟に居て世界を眺めるだけで十分満足してしまっていたから、こうして外に出ている自分は夢の中にいるようだった。


「まぁ及第点だな。本を読まずにさっさと言えるようにならねば、戦では役に立つまいよ」

「出来た事が大事だのよ。おっちゃんを助ける為に。その内詠唱無しでもやってのけるだのよ」


 詠唱無しでやる意味を理解していないだろうなと思いながらも、いつか自然にそうしているだろうなと何となく思ったので説明はしない。


コウは恐らくこれからも苦難が続くだろうし、自分自身も何れは閉じ込めた者の血族たちと向き合うだろう。


リムンも外に出たからにはそれらに遭う。そうすれば嫌でも強くならざるを得ない。コウへの恩義で踏ん張っているのは、試練の始まりには最適な難易度なのかもな、と考える。


「何万年先になるやら。ま、結界の練習でもしておれ。我はイノシシの大群相手に加減の仕方を学ぶ」

「頑張るだのよ!」


 立ち上がりつつリムンを見て、この小さな仲間に負けてはいられないとファニーは思う。自分もこの形態で力を扱えるよう鍛錬せねば。


 実際のところ、加減をするだけなら問題ない。要するに相手を倒しつつ連戦出来る加減が必要なのだ。となれば、竜の吐息(ドラゴンブレス)も巧くすれば焼け野原にせずにいけるのではないか? ファニーは森から抜けてきたイノシシの大群を前に考える。


「つあっ!」


 最初に使ったのは前回リムンの時に使用したブーメランだった。しかし力が弱過ぎて突進を鈍らせるのみだった。次々と向かってくるイノシシたち。


「イノシシさんイノシシさん、そこのけそこのけ危ない崖がある、ミラージュ!」


 後方から元気な声が飛んでくると、猪たちの真っ赤な眼が黒眼に変わり、全体が足を止めた。ファニーが後ろを振り向くと、うんしょうんしょと小さくとび跳ねながら杖を光らせているリムンが居た。それを見てファニーは微笑む。


 必死なのだなあれも。コウ、我らをこんな気持ちにさせたその責任を取ってもらうまで、お前は死なさない!


 ファニーはブーメランをもう一度投げる。思いのこもった一投は、二列三列と次々にイノシシたちをなぎ倒して行った。そしてすかさずファニーは大きく息を吸い込んだ。

 あのような小さきものが足掻いているのに、我が挑まぬ理由は無い! 一気に息を吐くファニー。口から炎が飛び出し、イノシシの群れを焼き尽くす。ファニーは炎の息を吐きつつも、草原に直接炎が移らないようにコントロールする。次々とイノシシが倒れて行くなかで、当然火は草原の雑草に移る。


「雨降れ雨降れカエルさん、ゲコゲコ鳴いてレインウォール!」


 ファニーが後ろを振り返ると、リムンの足元にはカエルが沢山現れゲコゲコ大合唱していた。そして小さな雨雲がイノシシの群れの上に現れ、雨を降らせ消火する。ファニーはリムンの奮闘する姿を見て、仲間とは、一人では無いという事はこんなに素晴らしい事なのかと感激していた。


 誰かが背中を守ってくれている。竜の身では叶わなかったが人の身に化ける事で叶うとは。生態系で神を除いた頂点に立つ竜よりも人の方が凄いのかもしれない。一人で出来る事はたかが知れている。だからこそ知恵を磨き、物を作り手を取り合って生きて行くのだな。


「俺との出会いでその後の道が変わったのなら」


 ファニーはコウと出会った時の言葉を思い出し口に出す。


「我は運命と呼びたい。誰かと共に生きたいと願うこの心は、もうあの頃の我の道とはもう違っている。ああ、我はお前に逢いたい」


 雨雲はファニーにも雨を降らした。その頬を伝うのは雨なのかどうか。







読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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