第38話 冒険者、考える
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「おいコウ、しっかりしろ!」
俺はその声に目を開ける。黒隕剣の新しい力を使いこなすには、多いと言われた筈の魔力量でも一度が限度なのか。
使う度に倒れるなら、使いどころを考えないといけない。剣身が変わってしまったが、一応レイピアみたいに細くなっただけであるはあるのでその状態で使っていこう。
「大丈夫です」
顔を覗き込んでいたリードルシュさんとダンディスさん、姫に対してそう答えてから上半身を起こす。俺の前方では縄で縛られた魔族一匹とビルゴ、そしてその脇に座るビッドの姿があった。
「取り合えずリードルシュの旦那が道具屋で買っておいた縄に魔法を掛けて、解けないようにしてあるから安心して良いぜ」
ダンディスさんは俺の体を支えながら説明してくれた。流石方々旅をしていたリードルシュさんだ。冒険者として今度から縄の購入を考えておこう。
「他の魔族たちは一掃し、付近は今のところ敵は居ないようです」
姫も俺の体を支えながらそう教えてくれた。余程重病人に見えるのかと思ったけど、そりゃ急にぶっ倒れたら驚くし心配するよな。
「そっか。じゃあ早速聞こうか」
俺は二人に支えられながら起き上り、魔族とビルゴに近付く。二人はとても捉えられているようには見えない感じで太々しく、胸を張りながら座り不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「で、生贄を必要としているのは誰だ?」
俺が問うと、魔族もビルゴも鼻で笑っただけで答えない。当然と言えば当然だが、この問いには意味が無い。宰相と俺で意見は一致している。宰相がギリギリ政務を取れる状態で生かされているのが、解り易い答えだったからだ。
「生贄は今までどれくらい捧げたんだ」
「聞く気も無いのに聞くな」
ビルゴは鼻で笑うとそう言った。確かにそうだな、俺は聞く必要のない質問をしている。だがそれも喋り易いようにと思って言っただけだ。
ただでさえ喋り辛い質問を、いきなりしたところで埒は開かないだろう。
「魔族、お前達は何時からこの件に係わっている?」
「フン……」
こちらを挑発するように顎を上げながらニヤニヤしつつ鼻で笑う。残念ながらこっちが見下ろしてるので、顎を上げ過ぎて倒れそうになる魔族。それを見て俺はちょっと笑いそうになってしまった。
「本当は最近なんじゃないのか? と言っても姫が生まれた後位か」
「ナ、何ヲ根拠ニ!」
魔族の面白行動の御蔭で知り合いと雑談でもするようにリラックスして話しかけてしまった。が、相手も釣られて一瞬俺の問いに頷き慌てて取り消した。
なるほどね。姫が生まれてから魔族そのものの介入があったとなると、先王の謎の死も確実に関わってると見て間違いないだろう。
それ以前からこんな活動をしていれば、それは隣国にも情報が行っているだろう。それを見過ごせば自分たちにも火の粉が降りかかるので、放置しておくとは考えにくい。
この国の民からすれば、良いタイミングで俺が介入したと言えるだろう。このまま放置していたら人間より魔族が殆どを占めてしまった可能性もある。
「そうか」
俺は興味を失い振り返り姫に尋ねる。先王の謎の死以外にも気になる点があった。それは姫の母親だ。ここまで全く話にも出てこない。
もっと冷徹で傲慢な人物なら話に出てこないのも分かるが、姫の様な人物から少しも出ないのはとても気になった。
「姫、母親の死因は?」
「は、母の死因が何か関係があるのですか!?」
姫は驚き困惑の表情を浮かべる。唐突に聞かれたのだから無理も無いが、もう少し聞きたい。
「解らない……言い辛いかもしれないが、死因は?」
「母は……私が生まれた時に死んだと……」
姫は辛そうな表情を浮かべ俯きながらそう言った。生まれた時に亡くなったと言えば、それ以上原因を追及したりは子供には出来ない。そう言うものだと長い時間を掛けて納得してしまえば、成長しても探ったりはしないだろう。
「辛い事を思い出させてごめんな」
「いえ、ですが質問の意図が……」
「少し気になって聞いてみただけなんだ。申し訳ない」
ビルゴの死者蘇生の話は、全てを嘘と断じるには危うい気がした。
姫の母は姫を生んで死んだという可能性は高いかもと思う部分がある。それは、姫に感じる一般人よりも高い能力によって、誕生の衝撃に母体が耐えられなかったかもしれないと言う点だ。
姫も俺ほどではないが、異質だ。力に技に早さ、そして何よりその強烈なカリスマ性。性格も含め稀代の人物だと思う。
これまでの出来事から考えると、果たしてこれは人と人から生まれたものだろうかという疑念を抱かずにはいられない。
王として父親として、自分よりも優れた子供が生まれ育っていくにつれ民を惹きつけて行く姿を見たら、穏やかな気持ちでいられるものだろうか。
更に先代が存命中に品格のある姫を見た時、息子よりも王の資格があると考えたらどうか。更にそれを口にしたら。
「まぁこれ以上コイツらに聞いたところで、答えらしい答えは得られないだろうな」
「どうする? こいつらを始末するか?」
リードルシュさんは俺の前に出て、縄で縛られた魔族とビルゴに向け抜刀するべく構えた。
「ヤ、ヤメテクレ! ソウダ! 王ガ俺達ニ手ヲ貸セトイッタンダ!」
「召喚されたのは城の地下か?」
「ソ、ソウダ!人一人ノ命ト引キ換エニ!」
難しい話だな。こいつら魔族を呼びだす為に、引き換えになったのは
城の兵士か? いや、それならばれる可能性が高いな。さっきの流れで考えれば、怒りに我を忘れた今の王はひょっとすると生贄として自分の父親を捧げたのではないか?
いやそれでは数が足りない。それともコイツは使い魔でそれを使役する魔族が別にいる?
「姫、姫のおじいさんの遺体は?姫に兄弟は?」
「あ、え、お爺様の遺体はありません。亡くなったと聞いた時には、丁度国に疫病が流行っていたので、遺体を火葬したと聞いています。兄弟は兄が一人おりますが」
「それ以外の兄弟や親戚は?」
「……おりません」
「ありがとう」
俺はそう言うと空を眺める。一国を成した一族に親戚が居ないというのは変だ。姫に兄弟がいると言うなら、子供に制限が掛かったりはしていない。
ファニーが閉じ込められていた長い間に、王は何度も変わっているはず。そうなれば少しずつでも広がっているはずだ。後、兄弟が一人というのも姫の記憶にあるのは、だ。
先王は偉大な人物で仮にそれを生贄として魔族を召喚し、更にその血筋を生贄にして居たなら、目の前に居るような魔族よりもっと高位の魔族を呼べるのではないだろうか。
「ふふ、どうやら期待を裏切らない方ですのね」
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