第26話 おっさん、迷う人に襲われる
「二人とも、悪いけど今のうちに部屋で休んでてくれ。行くなら夜に紛れた方が安全だから」
「解った」
「あい」
リムンはそう言いつつも、中々離そうとはしなかったがファニーが優しく解き、
連れて行ってくれた。ファニーも良い子だ。偶に俺より長生きしている竜だと忘れてしまう。
「さて、ここからは汚いおっさんの話をしようか」
俺は真面目な顔でビッドと向き合う。作戦なんて柄じゃないし、元々息をしているだけで死を待っていた引きこもりのおっさんだ。
しかしそうも言ってられない。
掛かっているのは二人の少女の未来だ。
無い知恵を絞って絞りつくしてひねり出す他無い。おっさんとして見栄の張りどころだろう。
「なるほどな。では何から話す?」
ビッドはリムンがさったので生き生きした顔をした。現金な奴だ。リムンに対してバツが悪く、小さくなっていたさっきまでとはエライ違いだな。
「騒動の手っ取り早い終息」
俺は真面目にそう言うと、ビッドは大きな声で笑った。しかし時間を掛けられないのも事実。時間が掛かれば下手をするとファニーとリムンが動き出しかねない。
そして国が挙兵すれば戦争になる。それだけは阻止したい。リムンに更なる悲しみの上乗せをしたくない。
「そんな都合の良い手品は無い」
一頻り笑った後、ビッドは真面目な顔で全否定した。というよりそんなのは知った上で言っている。時間を掛けられないのはビッドも分かっている筈だ。回りくどい話をする時間も。
「それも知ってる。王を取った所で意味が無い。恐らく国そのものが暗示にかかっていると見ていいだろう」
「そう思う」
「しかし王族にその恐慌状態を収めようと言う人物が居ないのも絶望的だな」
「確かにな」
その反応を見る限り、王族に見るべき人材が居ないようだ。とするとその下の将軍や大臣はどうなのか。
「目ぼしい人物で、あの国の中で竜に対する危険性を主張していた過激派の王女が居たな」
「竜を退治して国を取り戻そう、か?」
「ああ、女だてらに剣の腕が立ち、兵を率いれば将軍を凌ぐと言われている」
「なるほどね。それが追手か」
国には見るべき王族は居ないが、国を飛び出して元凶を取り除こうとする、勇ましい姫は居るのか。
と言うか向こうの国の姫と言う上の立場の人間がここに来るのは間違いない。のんびり構えている時間など全くないとビッドは知っていた筈だ。態々俺を試す様にちょこちょこ情報を出して来たのが気になったがまさか。
「……ビッド、俺を試したな? 二人の前で詳しい話をしなかっただろ」
「当たり前だ。姪の命を預けられる人物が、阿呆では困る」
「ビッド、お前リムンを……」
ビッドはそれに対して黙って目を閉じた。それ以上言うなと言っているように見えるので、追及しなかった。恐らく姪を探して情報を得て赴いたところ、スライムの大群が屯していて難儀したんだろう。ビッドの大剣は斬るというより、叩き潰すというのが相応しいもので、スライムを相手にするのは難しい。
そこで冒険者ギルドに立ち寄って手を貸してもらえる人間を
探しているところに、隣の国で話題になっている俺を見つけて情報と交換で姪を救出する手伝いをしてもらおうとしていたのかもしれない。想像だけど。
「なら及第点は頂けたかな?」
「ああ、申し分ない。俺の命も預けよう」
「それは要らん」
「おいおい」
「おっさんの二人旅ってだけでもむさくるしいのに、この上命を預けるの預けないのなんて話はしたくない」
「どうする?」
ビッドが俺に問う。どうするとは? と問い返すとビッドの後ろに綺麗な鎧を着た集団が現れた。ビッドはそれを感じて問うたのだ。面倒臭い奴だなビッドは。
俺は答える前に席から素早く立つとギルドのカウンターを横切り
「申し訳ない、後は頼みます」
とミレーユさんに告げて、外へ出る。恐らくあの集団は
その勇ましい姫君の集団だ。ギルド内でやり合いになれば、
ファニーとリムンが出てくる。そうなると計画が破綻してしまう。
昨日の夜確認したが、あの二人は寝付いてしまえば中々起きない。
俺を信じて一生懸命寝てくれているだろう。多少のばたばたなら問題ない。しかし剣戟をかわす訳にはいかない。
俺はそのままギルドの裏手からこの街に来た時に通った門まで走る。
「どうする気だ?」
巨体を揺らしながら後ろを付いてくるビッドに問われる。
「どうだ、ビッドはあの鎧を捌けるか?」
「余裕だ。ドラフト族の剛戦士だぞ俺は」
「なら良い。俺と、もし居たらその姫君を一対一にして欲しい」
「説得するつもりか?」
「説得というか交渉だな」
「交渉?」
「そう交渉。姫は自身で国を治めたい。俺は今後一切関わり合いたくない。利害の一致だろう?」
「大きく見ればな。だが相手はお前の命をもって事を収めようとしているかもしれない」
「かもしれないってだけで交渉の余地が無いとは思えない」
「お前に預けた命だ。お前の好きにしろ」
「いらんと言ったはずだ。取り敢えず門を抜けた草原で迎え撃とう」
「了解」
こうして向き合わなければならないと思っていた始まりの国に対する特殊クエストはスタートしたのだった。
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