第3話 引きこもり、異世界でも引きこもる
怪人達が逃げ去った後、空っ風が街を横切っていく。
昼間テレビでやっていた西部劇映画のような光景が広がっている。
これがペンペン草も生えないというやつか。
そんな所に立っているのは小汚いおっさんである俺のみ。だが流石に疲れたので座り込んだ。移動した方が面倒な事にならないとは思ったが、疲れた。
暫くジッと前を見つめて座り込んでいると、生き残った村人たちが戻ってきて遠巻きに俺を見ていた。ここでイケメンや十代二十代前半なら、英雄として歓喜の声を浴びただろう。残念なことに俺は三十歳のおっさんである。
それも彼らからすれば見た事のない物を着ている、先日まで道端に座り込んでいて子供に石を投げられ蔑んでいた、物を恵んでもらうだけの可哀想で汚いおっさんだ。歓喜の声など浴びようもない。
ああ、何処まで行っても邪魔者のままだ。元居た世界の両親や弟は喜んでいるだろう。こんな人間が居なくなって。体があり疲れているのだから、例えば魂だけがこちらに来たというのは考え難い。
「ははっ」
この期に及んで両親や弟を想うなんて、ホームシックかおっさんキモ! と自分で思う。以前はネットで嬉々として叩いていた無職で引きこもりのおっさんが、今は自分だ。因果応報とでもいおうか。
「そこのお前!」
声に反応して我に帰る。いつの間にか目の前には豪華でゴツい鎧を着飾った恐らく人間達が、馬に乗り俺を囲んでいた。そして槍を突き付けられている。
「お前がこの騒動の火付け役だと住民から聞いている! 無駄な抵抗はするな!」
なるほど。
先日までのおっさんが華麗に敵を倒せば、それは自作自演にみられるのか。凄まじい自作自演だ。小汚いおっさんに助けられたと言う屈辱と、殺された人たちに対する怒りをどこへ向けたら良いか解らなくて、石を投げ蔑んだ男なら適当だと踏んだのだろう。解り易い……実に解り易い。
「抵抗なんてしないさ」
俺は人間の汚さをここまで実感したのは初めてだ。だが何とも清々した気持ちになる。ここまで汚ければ、いっそ潔い。死を賜るのは怖いし嫌だけど、もう絶望を通り越して悟りすら開けそうな気がして来た。なるべく簡単にさよなら出来ると良いのだが。
「ならば立て!」
「悪いけど、そんな力残ってないよ」
「我らに歯向かうか!?」
「歯向かうも何も、抵抗しないし連れて行くなら連れて行けば? でもこっちは疲れてるんだ。今殺したいなら出来れば痛くない方法で頼むよ。もう疲れたんだ……何もかも」
「……おい、こいつをひっ立てろ!」
中でも偉そうな鎧が横に居た部下であろう鎧に対してそう怒鳴り、俺は腕を掴まれ引き摺られながら村を離れて行く。その村を出るまでに石を投げられ、何か罵詈雑言を浴びせられたが、真実でもないことをよくもここまで信じて出来るなと思い、はっとした。
そうだった。
死んだ村人の事や怪人の恐ろしさから目をそむけたいから、俺はこうして引き摺られていくんだ。忘れていた。暫く引き摺られ、パジャマのズボンがボロボロになった頃、村よりも大きな街に着く。石畳に綺麗なレンガの家が立ち並び、活気に満ちあふれていた。
その中を引き摺られていく俺を見て、村人と変わらない視線を向けるものが殆どかと思ったが、そうでもなかった。ほぼ無視に近い。雨が来た位の感じで見ていた。毎日俺の様なやつが引き摺られてくるのかと思った。
この国はどういう国なんだ。何か気持ちの悪さを感じつつ、俺は石畳の薄暗い牢屋へと閉じ込められた。足かせなども付けられず。放り込まれた。
かくしておっさんは、また引きこもる。今度は何年かな、と思いつつ。
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