第24話 おっさん、果たしあう・その二
「ぬぉおおおっ!」
「つあっ!」
俺はドラフト族の剛戦士ビッドの大剣をかわして足に蹴りを入れる。
多少バランスを崩したが、二撃目を繰り出して来た。しゃがんで薙ぎ払いをかわすとカエルの様に飛び跳ね後ろへ距離を取る。体力が無いからなるべく最小限に小さい動きでかわさなければ。
息は幸いまだあがっていない。色々あって体力が付いたのだろう。有り難いが、あの大剣を一撃でも受ければお終いだ。どれだけ持つか。黒隕剣をどのタイミングで抜くか。
ミスが許されない。
ミスはすなわち死に直結する。
ビッドをにらみつつ、なるべく体を硬くしないように気を付けた。
互いに隙を窺いつつ俺は避けて小さく細かくダメージを与え続け果し合いは朝から昼へと移り変わる。いよいよ息があがってきた。良く体が持ってくれた。
相手も俺が与えたダメージが馬鹿に出来ないものになっていた。
剣筋がぶれ始めている。
足を中心に攻撃していた為、踏ん張りが利かなくなってきたのだろう。
そろそろ行くか黒隕剣。
俺がそう思うと、剣が鞘からシャッと音を立てて自然と抜けた。
昨日は意識的に抜いたが、こんな事は初めてだ。
この剣に意思でもあるのか?
俺は小さくほほ笑むと柄を手に取り、片手で構える。
砕くは武装。
斬らぬは命。
そう念じながら目を瞑る。
「はぁっ!」
ビッドの斬りかかる声が耳に届く。自然と抜けた黒隕剣は、その声に反応しなかった。俺は身を預ける。暫く立っても音がしない。恐らくフェイントだったのだろう。
これで死んでいたら笑うしかないが。
「……死にたいのか?」
「良いからこい。こないなら終わるぞ?」
俺はそう告げたまま目を開けない。黒隕剣に全て委ねる。
脳裏には今と違い金髪で色白の剣を打つリードルシュさんの姿が見える。
嬉々として打ちつつ命を注ぎこんでいた。
これは黒隕剣の記憶?
そして暗闇なり暫くすると明かりがさし込み、リードルシュさんが顔を出した。
黒い髪に青白い肌。哀しみが一瞬伝わるが、手に取られた時剣を打っていた時の様な喜びと活力が溢れていて安心する。
黒隕剣は俺に握られて、生みの親と握手をかわしたことを喜んでいたようだ。
「ならこれで終わりだ!」
グォンという音と風圧が俺の頭上に来る。だが黒隕剣は動かない。まだだ。そう言っているようだった。
「だあっ!」
黒隕剣がピクリと反応したのに合わせて左から右へ薙ぎ、斬り返そうと刃先を
動かしたのに合わせて、素早く右斜め左斜めそして振り下ろし斬り上げた。
キィンと言う金属を弾いた音の後
「ぐあっ」
砕ける音共に短い悲鳴が上がる。俺は眼を開く。そこには剣も無くボトムスだけになったビッドが居て不敵に笑いながらゆっくりと仰向けに倒れた。
「さぁ止めを……」
草原に大の字になっていたままで、ビッドは俺に言う。俺は黒隕剣の刃身の平を額に当てつつ感謝の言葉を捧げ、鞘に納める。
「取り合えず依頼完了ってことで報酬は頂いておく。リムンの件はいずれ謝ってもらう」
「待て! このまま俺に恥をかかせておくつもりか」
「知らん。恥をかいたら死ぬのか。随分楽な人生を送っているな。ファニーも俺も、そしてリムンも恥をかくより辛い思いをして生きてきた。それでも生きている。死にたいなら死ね。俺はそんな楽に死ぬ奴の介錯なんてしない。じゃあな」
俺は背を向けて歩きだす。そう言えば俺も死にたいとか言っていたなぁ。
なるほど、確かにそんな奴は死にたきゃ死ねばいい。誰かが手を貸してくれるなんて甘え以外の何ものでもないな。ていうかあれおかしい、俺ダメ人間じゃん。
何カッコつけるんだ!? 暫く草原を歩き街の近くに来ると、
人の来ないところで悶える。
二人も世話するのが増えたとはいえ、俺はダメなおっさんである事は間違いない。
元の世界に戻ればクソみたいな日々を過ごすにきまっている。何偉そうな事言ってるの!? 馬鹿なの!? 気恥かしさで暫く奇妙な動きを繰り返して落ち着くと
「まぁしょうがないよな。もう始まってるんだから」
と諦めて歩きだす。自分が立派な人間だなんて有り得ない。カッコつけたところで現実にはダメなおっさんだ。現実世界では子供が居てもおかしくない年だ。
無職で引きこもりのダメなおっさんが、チートのように力を与えられ、宝剣のようなものを不意に渡されたからと言って中身まで立派になる訳が無い。
大きな目標は無いけど、あの二人の引きこもりをこの世界で不自由無く
暮らしていけるようにすれば少しは生まれた意味を見いだせるのか。
でもこれも依存だな。
結局自分自身の問題を解決しなければ……でも待てよ。今引きこもりでもないし、一人でもない。冒険者という職に就いた。ダメなおっさんの部分が問題か。
しかし世界が変わって無理やり変えられた二点以外に根本的なダメおっさんの部分を
解決する方法なんてあるのだろうか。まぁおいおい探して行こう。それ位の時間はあるはずだ。
俺は色々考えつつも、溜息一つ吐いて冒険者ギルドへ戻るのだった。
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