第20話 引きこもり、謎の世界で絶世の美女と会う
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「起きなさい」
聞き覚えの無い声が急に聞こえてくる……もう少し体を休ませたいなぁ。
「ちょっと起きなさい」
少し強めのトーンで言われたので、俺は何かあったのかと思い目を開く。すると空が凄く近くに見えて、ファニーが空を飛んで運んでくれているのかと思ったが、そんな訳は無いので。
首を横にして見ると
「どこだここは……」
何と先の方まで雲が広がり俺はその上に寝そべっているようだ。慌てて立ち上がってしまい落ちる! と思ったものの全然平気だったので胸を撫で下ろす。
まさか、二人を残して死んだのか!? と一瞬思ったが死ぬような感じでは無かったと思うし死んだところで天国に行けるはずもないのでこれは夢だろうな。
「夢では無いわよ」
声はすれども辺りを見回しても姿も形も無い。威厳に満ちているものの綺麗な女性の声に僕は自然と背筋が伸びてしまう。
「お行儀が良い子は嫌いじゃないわ」
次の瞬間、深紅のドレスに身を包みそれが映えるほど真っ白な肌に床に突くほどの長い黒髪、ふっくらとした唇に少し高い鼻と切れ長で宝石のような美しく煌びやかな瞳を持った絶世の美女が目の前に現れた。クレオパトラを映画に出すなら、こういう美女が配役されるに違いないと思うほどだ。
「ふふ、ありがとう坊や。そんなに褒められると照れるわ。まぁ美しくないと好きな相手に失礼じゃない?」
「はっ!」
俺はそう問われて同意以外出来ず何故か敬礼していた。何だこの感じは……人のようなだがこの美しさは自然と生まれて来たとは信じがたいというか人間離れしているというか。
それにこの人には逆らえない感じが体の奥からしていて恐怖を感じて敬礼しているような気がする。
「まぁそう硬くならず……と言っても仕方が無いか。今回は特例だしね。本来逢うはずのない私達ですもの。仕方ないと言えば仕方ないわね」
「はっ!」
「もうそれ飽きたから止めて頂戴。しつこいのは嫌いよ」
澄んだ瞳に炎が灯った気がして直立不動を背筋が痛くなるほど全力でしつつ敬礼を止め口を開かず瞬きもせず停止した。
「まぁあんまり長く接していると、坊やの精神が参ってしまうから手短に。貴方の剣、あれを使う時はもう少し慎重に使いなさい。坊やは元々の力があるのだから、人族獣族程度なら捌けるわよ。武器に頼る前に体の使い方を学ぶのが先ってことね。あの剣はジョーカーなの。毎度毎度ジョーカーを切れるゲームなんてないでしょう?」
俺は高速で頷く。それしか出来ない。何か余計な言葉を口にすれば消される。何故だか確信めいたものが俺の中にあった。
この人はこの世界というかこの星の凄い存在なんじゃないだろうか。
「解ればよろしい。ネーミングセンスがイマイチだけど、解り易い部分は買うわ。大事に使いなさい。私が気まぐれで祝福を与えて誕生させた、あの世界に置いてるどの剣より強い剣。あのダークエルフが言ったように何でも斬れるんだもの強いはずよね」
「ありがとうございます!」
俺は何とか頑張って感謝を口にした。すると絶世の美女は眼を丸くし口を開けた。怖すぎる……何か変な返答をしただろかしつこくないだろうか。
ファニーとも旅を始めたばかりだしリムンを立ち直らせるのも始めたばかりだまだ消されたくない死ぬわけにはいかないんだ俺は。
「……凄いわね坊や、私を前にして口を聞けるなんて。面白いわ坊やがあの世界で生きていけるかどうかこれからも楽しみにしています。今回は特別サービスとしてリスク無しで戻れるようにしておくから。また逢いましょう……なんて気軽に言える立場じゃないけど、縁があると良いわね」
妖艶に微笑みながらそう俺に言うと、俺は雲の世界から暗闇へと戻る。あまり考えない方が良いんだろうけどあの人は特別な人だと言うのは分かった。
味方のような感じで話していたけど恐らくそのまま受け取って良い感じじゃない。あの瞳に灯った炎がそれを感じさせた。
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