第15話 引きこもり、人に疲れる
俺は言葉を聞き終わる前にそう言ってがっついた。喉が詰まるとミレーユさんが飲み物を差し出そうとしたが、ファニーが自分のものを差し出して来た。
本来なら自分のものを飲むべきなのだろうが急を要したのでそれを飲み込み食べ物を胃袋へ押し込む。
「美味い!」
食事でいつ以来か解らないほどの幸福感に包まれた。笑顔で天井へ向けて叫ぶ。暫くすると後ろの方から笑い声が起こる。振り返るとそこには沢山の人々が居た。誰もかれも冒険者なのだろう。鎧を着て武器を携え食事をしていた。
「ありがとうコウ。さあおかわりを持って来ましょうか」
「ど、どうも……」
気恥ずかしくなり縮こまる。こんな人混みの中で食事をするのも覚えが無いほどだ。見られていると思うと視線が気になり緊張してしまって急に食べ方にさえ戸惑うほど酷い有り様になってしまう。
「落ち着け。確かに物珍しくて見られてはいるが敵意は感じない」
「あ、ありがとう」
ファニーにそう言われ一旦深呼吸する。苦手、ではすまされない。ここからは一人で生きているのではないのだから年長者として男としてファニーを支えこそすれ支えられてばかりでは全然ダメだ。
そう念じて目を開けるとそこには先程のエッジガモのソテーと、ご飯の様な
穀物のおかわりが来ていた。湯気を立たせ匂いも食欲を湧き立たせるもので、俺はがっつきたい気持ちを抑えながらゆっくり丁寧に口に運び噛み締める。
簡単に人目が気にならなくなったりするはずもないけど平気な振りをして突っ張るくらいなら出来る筈。引きこもりで何も出来ない自分からもっと変われば気にならなくなるのだろうか。
「よう新人さん、随分賑やかだな」
色々考えながらも食事の美味しさに癒されているところに男が話しかけてきた。その声の主は俺たちの横の席へ腰かけてこちらを向く。
「アンタも冒険者だろ? 俺はビッド。誉れ高きドラフトの剛戦士だ!」
ビッドと名乗る男は屈強な肉体を見せつけるかのように篭手肩当胸当て腰当脛当て靴と言う簡素な鎧を身に着けていた。
もじゃっとした短髪の頭部両端から真っ直ぐ二本の角が生えていた。身長も体つきも町で見た一般人より二回りほど体が大きいく見える。そして声もデカい。
なんでこうも今日は苦手な人間が次々とわいてくるのか。改めて引きこもりではないと実感する。引きこもっていた生活が懐かしい。
「ドラフトとは元はドワーフだがそこから枝分かれした種族で接近戦を得意とした腕力が自慢の種族だと記憶している。それは解ったがコウは疲れておる。話はまたの機会に願いたい」
ファニーは俺を気遣い察してそビッドと名乗る男に席を外すよう促した。
「いやいや、お前さん達は俺の話を聞かねばならん! 何しろ俺は誉れ高きドラフトの剛戦士だからな!」
俺はそれを聞いて食欲が無くなる。ここまでくるとオードルの方がマシな気がするくらい無理な人物だ。きつい……部屋に帰りたい。
「それは解ったと言っておる。名乗りは聞いてやったのだ。失せよ」
ファニーはゴブリンを威圧しリードルシュさんを威圧した時よりも更に激しい威圧感を放った。周りは賑やかさから、唾をのむ音が聞こえそうなほど静寂に変わる。
「なるほど今日のところは引きさがろう。だがお前さん達は俺の話を聞かざるを得ない」
「くどい。その自慢の胴と首を永遠に一体とさせなくしてやろうか?」
「解った。また逢おう!」
SAN値がガリガリ削られる。ファニーの威圧も凄いがそれでも譲ないビッドに辟易した。
「コウ、取り敢えず部屋へ戻ろう。顔色が悪すぎる」
「そうだな」
俺は美味しかった料理を残し、御代を払おうとするとミレーユさんが戻ってきていて首を横に振った。でも、と言おうとしたが体調が戻ったらキチンと払おう。俺は頭を下げてよろけながら部屋へと歩き出す。ファニーがすかさずまた肩を貸してくれた。
「ごめん」
「謝るでない。我らは一心同体だ。相手が困っていたら肩を貸すのは当たり前の事だ」
「ありがとう」
俺はげんなりしてうなだれながら、何とか感謝を口にして部屋へ戻る。そしてベッドに倒れ込んだのは覚えていたがそれから気を失った。
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