第14話 引きこもり、ギルドの部屋を借りる
「年季が入っているけど手入れはしているから問題無いと思うわ。何か用があれば下に来て頂戴ね」
ミレーユさんは鍵を俺に渡すとそう告げて去って行った。部屋の中は板張りの質素な作りで家具はテーブルと椅子にベッドが二つと言うシンプルなものだった。
灰色のカーテンを開け窓も開けて空気を入れた。この世界には花粉症というものが無いのか時期じゃないのか鼻がムズムズしなくて今のところ助かっている。
「取り合えずゆっくりするかの。洞窟からこっち忙しなかったのだから」
ファニーの提案を受けてベッドで別々に寛ぐ。俺は先ず渡された資料に目を通す。ギルドのルールとしては以下の事が書かれていた。
1.窃盗・殺害・クエストの妨害は冒険者憲章に
照らし合わせ処分される。
2.クエストを他者へ譲り渡すことを禁ずる。
3.戦争が起こった際は各冒険者の判断に委ねる。
迷いがあれば冒険者ギルドへ。
4.クエスト外の宝に関してはギルドは
関知しない。ただし窃盗になれば
1.に帰する。
5.冒険者同士の争い事はギルド委員会において
調停を申し立てる事。
ギルド証のカードに書かれていたのはこの五つだった。カードの大きさに書ける必要最低限のみだが解り易い。冒険者という性質上あまり縛られる事は好まないという理由もありそうだけど。
「コウ、我は腹が減った」
隣のベッドからファニーが気だるそうに俺に言う。この世界に来てから色々あり過ぎてお腹が空いているというのを忘れていたというか、緊張の連続で気が張っていたので牢屋に閉じ込められた後から何も食べていないのをベットで横になり緊張が緩和されて急激に腹が減ったので思い出した。
「行こうか」
そういって俺はよろけながらベッドから起き上がる。ファニーが急いで俺によって来て肩を貸してくれた。
「ありがとう」
俺は力なくほほ笑むとファニーは照れたように笑った。
「いらっしゃっせー!」
階段を下りて冒険者ギルドのカウンターに辿り着くと威勢の良い声が飛んでくる。そして声の主が駆け寄ってくると
「新しい住人の方っすね! 初めまして!オードルと言いまっす!」
空腹と疲れで耳が痛いと感じるほどの元気さを浴びせてきた。オードルと言った青年は頭の上にキツネの耳のようなものが付いており、リードルシュさんとは違う種族だと言う事が解る。
「ど、どうも」
引きこもりの最も苦手なタイプだと感じたじろいでしまい、引き気味になってつい挨拶もおざなりになってしまう。
元々引きこもりは陰の者故に陽の光とか元気とか言うものに素晴らしく弱い。そう考えると異世界ならヴァンパイアが居るかもしれないし、ひょっとすると気が合うのかもしれないと思ってしまう。
「ささ、何をご注文になりますか!? 当店自慢の一品としてはエッドガモのソテーのセットがありますが!」
そんな僕を他所にお構いなしにセールスして来た。やはりどうも苦手だ。相手の生命エネルギーの強さで圧死しそうな気がする。
ここはさっさと注文して退散して貰おう……そう言えば何がおススメって言ってたっけ? 後何を頼めばいいんだろうか。飲み物か?
「ではそれを二つと飲み物を酒以外でおすすめを頂こう。我らはあいにくと疲れておる」
「了解しやした! では少々お待ち下っさいませー!」
ファニーが俺の気持ちを察してくれたのか、さっさと追い払うべく適当に注文してくれた。オードルはそれを聞いて元気良く返事をして素早く立ち去る。
かなりSAN値が削られた気がしてドッと疲れが上乗せされ俺はカウンター席に着いた後、突っ伏した。
「お待たせしました」
暫く隣に座るファニーに背中を擦られながら気力を回復していると、先程と違った優しい声が突っ伏した俺に降り注ぐ。
顔をゆっくりと上げるとミレーユさんがエプロンと三角頭巾姿で目の前に立っていた。癒される……一気に気力を取り戻した気さえする。
「うむ。コウは疲れておる」
「と思ったからオードル君には他のテーブルを任せて来たのよ。コウはああいうの苦手でしょ?」
「はは……解る?」
「ええ。でも悪い子では無いのよ?」
「それも解る」
コウ、と呼ばれた事で親しみがわきついタメ口になってしまった。ミレーユさんはそれを快く思ってくれたのか、鼻歌交じりで食事を並べていく。
ご飯と似た穀物と鶏肉のようなエッドガモのソテーがバターでこんがり焼かれた様な
匂いがして堪らない。皮がカリカリしていそうで本当に美味しそうだ。
この世界に来て初めて食べたいと思った。
「おかわりしても良いわよ?サービスしておくから」
「ありがとう!」
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