第11話 引きこもり、剣と出会う
「俺に斬りかかってこい」
中へ入るといきなり一本の鞘に納められた剣を投げつけられる。それを受け取り見たが特に店で売っている物と変わらない。目線を店主へ戻したが店主は殺気を発しつつ剣を構えていてどうあってもこのまま終わりにはならない感じだ。
「解りました」
剣を交えれば納得するだろうし今はそれしかないと考え俺は短く答えて剣を抜いて鞘を下に置き、片手で持って店主へ斬りかかる。狙いは店主ではなく店主の剣だ。ダンディスさんの知人でもあるので怪我をさせず納得してもらう為には持っている剣を叩き割れば良いだろうと思っての行動だ。
店主側の狙いは俺の力を確かめる為なのだから斬り合う必要などない。剣の腕は全くないので斬り合っても勝負にならないし。
「何っ!?」
店主の驚きの声と共に叩き付けた剣は俺が持っていたものも店主の持っていたものも両方砕け散った。怪人、いやゴブリンを倒しファニーを封じていた岩を砕くほどの力だ。普通の剣を持っていたところで直ぐにダメになってしまうだろうと感覚で分かっていた。
「……良いだろう」
店主はそう言ってから部屋の隅にあった木箱の中を漁り始めた。そして殺気は全く無くなり何処か高揚しているような感じがしている。それを見て後ろに居たファニーを見ると苦笑いしながら肘を曲げて掌を上に向け首を振っていた。何が原因かは分からないが機嫌が良くなったのは間違いないないようだ。
「こいつならどうだ」
投げてよこされた剣は黒い鞘に収まっていて抜いて見ると剣身は黒く輝き装飾も柄頭まで凝った剣だった。俺はそれを握って振ってみたがこれは店のどの剣とも違う。何と言うか剣自体が気を放っているような感じがしてとても異質なものだ。
「……どうやら馴染むようだな」
店主は俺を見てニヤリと笑った。最初の印象と違うので少し戸惑いながら剣を振りつつ頷く。
「お主、この剣をどこで?」
ファニーが俺の後ろから前に出ようとしてきたので剣を振るのを止めて鞘に納めた。そして彼女は店主に尋ねそれを聞いて店主は眼を瞑り暫く黙った後
「そいつは俺が昔鍛えた剣だ」
「お主が……? これは普通の技では無いな?」
この人が鍛えた剣というのは驚いたがファニーの普通の技では無いのではと言う問い掛けを聞いて握っている俺に剣はそうだと囁いたような気がした。
「ああ、その通りだ。お前も似た者だろう?」
「……誰だお前は」
ファニーがゴブリンを威圧した時のような感じで店主に問う。流石にファニーの正体そのものは知らないだろうけどこの人も似たような境遇なのだろうか。ファニーの圧を感じても平静を保ったままの店主は一体何者なんだ。
僕の戸惑いを他所に店主はフンと鼻で笑った後
「俺は見ての通りエルフだ。ただ禁呪を犯したダークエルフだがな」
そう答えた。俺はそれを聞いて頭の中でダークエルフを思い出す。確か白い髪の毛に褐色の肌、エルフの対極にあるような存在だった気がするけどこの人から邪悪さは感じない。
「エルフだと?ドワーフでもないエルフが剣を鍛えるなど聞いた事もない。エルフにそんな力は無いはずだ」
「その通りだ。だが俺は憧れた。この世で最も強い剣を作る事に。そして禁を犯してこの有様だ」
なるほど確かにエルフは力が無い分器用で知性が高く精霊術などが使え、ダークエルフは器用さとエルフより少し腕力が強いタイプだった気がするから違和感が出るのは分かる。そして店主はそれを認めドワーフに勝るとも劣らない能力を得る為に禁を犯した、と言う。
「ではこれは禁呪の結晶か?」
「違うな。製法の一部に禁呪を用いているが、呪われた武器ではない。ただべらぼうに魔力が吸われるがな。その代わり切れぬものも砕けぬ物も、持つ者によっては無い。極端で使い手を選ぶ剣だ」
「……エルフを材料として使ったのか?」
「それも違う。エルフは極端に保守的なのはお前は知っているな? 全てエルフの法を守り伝統を守りそこからはみ出る方法を許さない。用いる物もまたしかり。エルフがレイピアを得意とするのも、それしか作れないから得意なだけだ。禁呪の種明かしをするなら黒曜石と隕鉄を混ぜて鍛えては溶かし鍛えては溶かし、その後術式を組み込んで黒曜石と隕鉄の元素をガッチリと組み合わせて剣となした。エルフの術は普通の術とは違う。門外不出で尊いものだとされている。傷を癒す物などな。俺が用いた術は」
「魔術に近いな」
「そう言う事だ。元素を扱うと言う事は、術をより研究し理解しもっと突っ込んだ部分を習得するしかない。だから俺は魔術師に師事し、習得して完成させたのだ。そして里から追われ、肌も髪もご覧の通りだ」
「生まれつきのダークエルフではなく、禁を犯した罰によって変化したのか」
「理解が早いな。その通りだ。エルフの保守的な部分の異常さが解るだろう?お前達もエルフの里には近付かんことだ。何をされるか解らんぞ?」
店主はフフフと小さく笑う。そこに後悔も恨みも無かった。折角合う剣に巡り合えたのにと思っていたから正直俺はホッとした。生贄に他人の命を使った剣は使えないし。最初に出会った時に感じた飾らない無骨な武器のイメージはこの人そのものなのだとも分かって何処か親近感を覚える。
それと同時にこの剣はやはり異質だと思う。製法はさておきこの装飾などこの人のイメージとは少し違う。若かったからなのだろうか。
「じゃあ何で店の中の剣は」
「単純な話だ。生きる為に大量生産した剣に何の魅力がある。俺も最初は世界一の名工を目指して良い物を作り高い値段で売っていた。王家のお抱えになったこともある。だがな、お前もそうかもしれないが、人間のバカバカしさに呆れ果ててこの街に来た。相手の虚栄心を満たす為だけの作った剣などには何も感じる事はないからな。店で並んでいる物は俺が生きる為に叩いただけの剣。心情が反映されては居るがお前の持つそれほどではない。折れたら買いに来て疑問を感じない者たちには、店にあるもので十分だろう? 俺も生きるのに困らないしな」
俺の問いに熱を込めて語ってくれた店主に頷く。俺が持っているこの剣はこの人の人生と熱意が詰まった剣何だと思うと丁重に扱わなきゃならないなと思わずにはいられない。
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