第9話 引きこもり、町に入る
「お前たちは町に何の用だ」
門へ近付くと門番が二人俺達を制止した。俺とファニーは微笑んで見合いさっき話した設定で行くと確認し頷き合って早速始める。
「私達は大道芸人なのですが、途中ゴブリンに身ぐるみを剥がされまして。命からがらここまで辿り着いた次第です。途中で鎧や武器を拾いましたのでお届けにあがりました。何方か探してらっしゃるかもしれないと思いまして。後、獣は運良く罠にかかったのでこちらで売って身ぐるみを剥がされた分を取り戻したいのですが」
俺は今までだったら絶対にしない事をしている。運命共同体であり見た目が年下で女性のファニーが居るからこそ、巧く喋れず聞こえ辛い声を張り自分は大道芸人だと自分に信じ込ませて一生懸命それっぽくしてみた。
門番はじろじろと見ていたが俺のぼろぼろのパジャマにボサボサの髪の毛と引きこもり全開の容姿を見て
「そうか……大変だったな。鎧と武器はこちらで預からせてもらおう。獣に関しては町に入って少し進んだところに肉屋があるから、そこで買い取ってもらうと良い。これくらいのサイズと量なら、身ぐるみを剥がされた分は回収できるだろう。落とし主が現れれば必ず謝礼するよう言っておく。さ、行くと良い」
と憐れんでくれて中に入れてくれた。以前ならイラッとしただろうけど今は心の中で盛大にガッツポーズを取っているし顔がにやつかないよう堪えているくらいだ。ファニーが笑顔で鎧と武器を渡すと門番も笑顔というかデレデレ気味に受け取り俺たちは町へと入る。
「コウの姿が役に立ったな!」
「ファニーの見た目もな。あの門番は俺一人なら難しかっただろう」
「コウも我の容姿にメロメロだからの」
「アホか」
ファニーはそんな俺の言葉を無視して鼻歌交じりに前を行く。しかし幾ら力があるとはいえ引きこもりに体力は無い。そろそろ本格的に荷車を押すのが辛くなってきた。だからと言ってファニーには頼れない。余裕で引けるだろうけど。引きこもりにも意地があるのだ。くだらないけどな。
「コウ、ここではないか?」
ファニーの言葉に顔を上げると、そこには妙な字体で書いてあるが”ビックリオイシイ肉屋”って書いてある。アメリカかここは。
「そろそろ限界が近いからこの獣たちを売る交渉をしてくれると助かる……」
ここに入る時の問答と荷車を押すのに疲れた俺は地面に膝をつきファニーに頼んだ。
「あいよらっしゃい!」
その声の方向に顔を向けるとそこには狼の顔をした二足歩行の怪人が居た。中華包丁のようなものを二つ持って立っている。体力も気力もあったら逃げ出してるところだけど今はそんなものは無い。俺は荷台を見て相手に見る様に促すもそこにあった狼を見てこれは駄目だろと思ったけど聞いてみる。
「これ駄目じゃね?」
「何がだ」
「いや、アンタこれの親戚じゃねーの? だとしたら買い取れないよな」
俺は座り込みながら荷台の狼を指差す。それを怪人は中華包丁を背中に鞘でもあるのか納めて近寄り顎に手を当てて覗き込んだ後元の位置に戻って腕を組んだ。
「いや、俺は獣人だから狼とは違うぜ?」
「二足歩行の違いか?」
「種族の違いだ。まぁ解り易く例えるなら人間と猿の違い」
「いや、それだったらダメじゃねーのか」
「ダメってことはないだろ。需要があるから売るけど、食べはしないし。お前もそうだろ」
「絶っっ対食わない」
なんつー会話だと思いつつ確かにその通りだと納得してしまったのが恐ろしいところ。この世界ではさっきの人間と猿のように進化の過程で狼と狼人で分かれたと説明してくれてかなり興味をそそられた。
「まぁそういうこった。取り敢えず運んでくれたものは新鮮だし、皮も傷が少ないから良い値段で買わせてもらうぜ」
「いや、相場とかよく分からないんだが、身なりを整えられるくらいの値段が希望かな」
「そっか、なら金貨十枚ってとこかな」
「じゃあそれで」
「え!? 良いのか」
「え!?少ないのか!?」
俺とその獣人は顔を見合わせる。そして暫くした後笑いあった。
「あはははっ。お前は純粋なんだな」
「違うよ。人の悪意には慣れてるし、騙されたとしても今の状況じゃ仕方ない。それに話した感じ、アンタ悪い人じゃなさそうだし」
狼人はそう聞いて笑いが止まり目を丸くした後破顔一笑して頷いた。
「ありがとうよ。俺はダンディスってんだ。お前は?」
「コウ」
「短くて呼びやすい良い名前だな」
「アンタのはカッコいいな」
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