周囲の皆さんはパニックです
トレーヌ王国の王女が出ていった後、王は何が起こったのか分からなかった。
宰相も分からなかった。
貴族も分からなかった。
護衛も侍女も分からなかった。
その場に居合わせた者たちは自分達が何を目にしたのか分からなかったのだ。
王ははっとした。銀行なんて1人で行かせたら国際問題だ。
「王女に銀行はこちらで開設しておくと伝えてこい」
宰相ははっとした。銀行にも国に対して友好的であるものと、反発的であるものがある。それに勝手のわからぬ者には利息が出ないように騙す手口も横行している。銀行を王女に選ばせてはならない。さすが陛下だ。
「承知しました」
急いで宰相は王女を追うために退出した。
「侍女長、早急にピグレット姫の部屋をキッチン付きの部屋に移す手配を頼む」
侍女長ははっとした。
陛下と姫様の結婚が決まった時から、何ヵ月もかけて用意していた部屋を急いで移さねばならないのだ。カーテンも家具も全て完璧な状態にしていたのに。これは私の腕の見せ所だ。
「承知しました。侍女は全員ついていらっしゃい」
侍女長を含めた侍女たちは全員退出した。
「この件は他言無用。皆は通常業務へ戻れ」
その他大勢は、何事もなかった振りをした。
内心はパニックだった。思うとこは同じだった。
王女強っ
何とか全員が普段通りに戻りかけていた。
「陛下、大変です」
侍女の1人が駆け込んで来た。
「王女様が!部屋を破壊しています!」
「何っ!?」
なぜか貴族が叫んだ。貴族は皆に注目されて恥ずかしかった。
「どういうことだ」
「お部屋から騒音が聞こえます。食材をお届けしたのですが、中から破壊音が響いておりました!」
「新しい土地に来たのだから、精神的に不安定にもなるだろう」
全員が王の言葉にはっとした。陛下はこの訳のわからない王女を庇おうとしているのだ。なんてお優しい。
「そ、そうですわね。失礼致しました」
全員は何事もないという体に徹した。
王はパニックだった。生まれた時から次期王として育てられたおかげで、ポーカーフェイスには慣れていたので傍目では冷静に見えただろう。しかし、とにかくこの場を乗り切ることだけに必死だった。
いやいやいや。この王女体弱くて大人しいって聞いていましたけど。お話が違いませんか?
王にとって長い1日が終わった。