はじまりは突然に
帰りたい。
そんな気持ちがずっと心の中にあった。自室にいるのにそう思った。というより魂に刻まれているような不思議な感覚だった。本当に帰りたいと思っている訳ではないのに帰りたいと思うのだ。本当は帰りたくないはず。というかどこに帰れば良いというのだろうか。
私は一応、このトレーヌ王国の第一王女という立場にいる。しかし、王である父は私になんて見向きもせず、継母と私の腹違いの兄と3人で仲良くしている。どうぞご勝手に。
広い城の中、私に与えられたのは使用人や専属騎士の宿舎がある別邸の一室。キッチンとお手洗い、お風呂など生きていく最低限のものは揃っている。誰もがそもそも私が王女であることなんて覚えていない。私の存在を認識しているのは私の面倒をめんどくさそうにみている侍女たちくらいなものだ。彼女たちは1年に1回くらいで変わっていく。王命でなるべく私と関わらないように言われているから、面倒といっても食材を届けるとかゴミを捨てるとか最低限のことしかしない。もちろん私のことは他言厳禁。だから私は誰かと親しくなることがない。私がこの部屋から出るのは表向きは禁じられている。まあ出てもばれないが。だから夜になると出かけることもある。夜の町は治安はそこそこで危険ではあるが、私は割りと好きだ。解放感があって、このまま逃げてしまおうかとも思う。でも、何も持っていない私は逃げてもどうしようもない。堕ちるだけだ。だから、ここから逃げ出せない。苦しくても。悲しくても。寂しくても。
こんな生活も16年目だ。イコール年齢なんだけれども。悲しきかな。
そう私の人生を悲観しているとなんだかドアの向こうからノックが聞こえる。なんだろう。食材は届けてもらったばかりだけど。
「姫様、よろしいでしょうか」
いいけど?何?
「陛下がお呼びです」
「…?……!!」
な、なに!?へいか?ってなに??
ってなんで
「こちらにお着替えください。早急にとの命ですので。」
何そのドレス!みたことないわぁ。普通の姫君はあんなキレイなドレスを着ているのかしら。私ってカワイソウ!
あー髪がセットされていく~!メイクまでですか?私に何が起こっているのでしょうか??ね~誰か教えてくださいませ~!!
「まぁこれでいいですね。では参りましょう。」
―私、この国の王女(ここ重要!)は今日人生で初めて自国の城に足を踏み入れた。