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あべこべフレンド

作者: 杉将

 玄関のタイルに雑巾掛けをしている串くんに向かって聞いた。毎日やってるのかい? 串くんはしゃがんだまま、こちらを見上げる形で、たまにだよ、と答えた。僕は一度も玄関のタイルを磨いたことがなかった。意味はあるのかい? と聞こうとして、やめた。


 網戸の掃除をしている串くんに向かって、パチンコでも打ちに行かないか? たまには頭を馬鹿にさせよう、そういうのも大事だと思うんだ、と僕は言った。俺は元から馬鹿だから、これ以上馬鹿になる必要がない、というのが串くんの見解だった。


 なにを作っているのか串くんに聞くと、ペペロンチーノ、と鍋を細かく振りながら串くんが教えてくれた。ペペロンチーノ、と僕は口にしてみた。まさか、知らないの? と串くんに言われ、クラシカルなパスタだろ、と咄嗟に僕は言った。伝統的なパスタ、と串くんは言った。なぁ、そんなに鍋を細かく振って、どうしちゃったんだ? と聞くと、ニュウカという聞いたことのない単語が返ってきた。僕は、ニュウカを見守った。

 

 僕と串くんは向かい合って座った。目の前にはペペロンチーノと、コップに入った水がある。串くんがニュウカさせたパスタ。

 串くん聞いて欲しいんだけど、僕は窓を開けて寝ると、必ず怖い夢を見るんだ。

 どんな夢?

 人間としての尊厳を傷付けられる夢。

 人間としての尊厳を傷付けられる夢。

 そう。もう忘れちゃったけど。

 もう忘れちゃった人間としての尊厳を傷付けられる夢。

 どうして繰り返すんだい?

 考えてるんだ。

 何かわかった?

 すぐにはわからない。

 僕と串くんは、ほとんど同じタイミングでペペロンチーノを口に運んだ。

 どう? と聞かれて、食べたことのある味だと僕は答えた。

 こういう時は冗談でも美味しいって言うべきだぜ。 

 食べたことのある美味しい味。

 串くんが僕の皿を取り上げようとしたので、必死でその手を押さえた。


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