家族会議
ヒナはユキのモフモフを堪能しながら、嬉しそうにしているリーベと気恥ずかしそうにしているユーリンを眺めている。
リーベが家族になり、のほほんとした空気が流れているが、ふと疑問が出てきた。
「ねえ、この場合誰が家族の中のどの立ち位置になるの?」
私も家族と見てもらえていることをついさっき知ったので、ある意味、さっきのあの場で家族ができたといっても過言ではないだろう。
そのため、誰が母で誰が兄なのかなどは私にもわからない。
「というと?」
「誰が母で、誰が兄で、誰が妹か、とか?」
「なるほど。確かに気にはなるわね。」
言い出しっぺのユーリンも考えてなかったのは少々驚きだ。
「私的には、ユーリンが母で、パルダリスのじいちゃんがおじいちゃん、私が長女、リーベが長男(弟)、ユキがペット?」
「うーん、それもありだけど、私が母で、パルダリスが弟、ユーリンが長女、リーベが長男(弟)、ユキがペットの方がいいかなって思ったんだけどどうかな?」
ユーリンの中で神獣のじいちゃんは年下扱いらしい。
パット見も性格も、神獣のじいちゃんの方が上な気もするのに。
年では決まらないということなのだろう。
私はそれもありだと思うんだけど、残りの2人はそうもいかないようだ。
「ちょ、ちょっと待ってください。パルダリス様がユーリン師匠の弟はありとして、なぜ私がこいつの弟なのですか!」
ユキも横で猛反発するように鳴いている。
「えー、何々、"ペットはいやー!"?」
「えっ、ペット嫌だった?」
「キュ、キュー!」
ペットはダメなようだ。
「うーん、じゃあ何になるんだろう?ユキ的にはどこがいいの?」
「キュ、キュークー。」
「えーとね。ヒナの娘の位置がいいようだよ。」
「む、娘!」
この年で娘ができてしまうのか――。
確かにユキのことは娘のように、自分的には育ててきたが、一緒に育ったといった方がしっくりはくるように育った。
「いいんじゃない、娘でも?一応育てたのはヒナなんだし。」
「うーん、うーん。そういうもん?」
「そういうもんだって。本人が希望してるんだし。」
「ほんとに?」
ユキが肯定するように鳴いたので、本当なのだろう。
娘、娘かー。あながち、悪くないのかもしれない。
「じゃあ、ユキは私の娘!ユキ。今日から君は私の娘だ!」
「キュー!」
ユキの顔を撫で回してやり、背中に身を預ける。
ユーリンもユキの方にやってきて頭の上にちょこんと座っている。ユキの頭を撫でてやっており、ユキも大満足のようだ。
ユーリンは今は妖精本来の姿だ。
20センチほどでとても小さく、背中には私と同じような羽が生えている。
ちなみに私は普段羽をしまっている。
ユーリンみたいに魔素吸収をコントロールできないからだ。
ユーリンもリーベと同じように擬態に近いことができる。剣術の時とかは、少女サイズにまで大きくなってもらって教えてもらっている。
ユーリンはすごいんだよ~。剣術、魔法、知識、知恵、学力など、生活力以外は完璧だ。
この世で一番すごいかもしれない。
おっと、ユーリンの自慢はそれぐらいにして、現実に戻っておこう。
目の前では、スルーされ続け泣きそうになっているリーベがいる。
案外涙もろいかもしれない。
「お願いします。無視しないでください。私のことも見てください……、グスッ。」
さすがに不味そうなので、合いの手をいれてやる。
「何で私がお姉さんかって?」
「そうです!私の方が年上です。」
「だってリーベ ガキっぽいんだもん。」
ユーリンも同意らしく、首を縦にしきりにふっている。
「ど、どうして私がガキなのですか!あなたの方がガキっぽいです!」
「な、失礼ね。私が子供っぽいのは見た目でしょ!リーベは中身が子供なの!」
「あなたの中身の方が子供っぽいでしょう。私の言葉に必死になって言い返して。」
「それはリーベも同じよ。あと、あなたって呼ばないで、"ヒナ"ってちゃんと名前で呼んで!」
「クヌヌヌヌ。めんどくさい小娘ですね。」
「小娘言うな!」
「あーハイハイ、ヒナ、ヒナ。ヒナはお子ちゃまですね~。」
さすがにこれは頭に来た。
ユキの背中からのそりと降り、リーベのもとへフラフラとした足取りで向かう。
殺意を込めて、おもいっきり睨んでやる。
「ぶち殺してあげようか。」
「クヒヒヒ。その動けない体でよく言いますね。その前に捻り潰してあげましょう。それに、あなたの誘惑眼にはもう完璧に抵抗できるようになりましたから。打つ手なしですね。」
「面白いことを言うじゃない。その口叩き直してあげる。」
「やれるものならやってみろですよ。」
殺意のこもったどす黒い魔力が2人の間に立ち込める。一触即発の雰囲気が漂い、何とかしたいユキだけが懸命に鳴いている。
しかし、2人の頭の中はこいつを潰すということだけを考えており、ユキの声は聞こえていない。
ユーリンが呆れきった顔で、ユキの代わりに止めに入る。
『シャラープ』
「ついでに、『動くな』!」
険悪な2人の動きがピタリと止まり、声もでない。
「はあー。2人のしてまたも何やってんの?さっきも喧嘩はしないっていったでしょ。それに新しい家族って言ったらおめでたいもんでしょ!」
ユーリンがまたも怒りだしてしまった。
しかしこれだけで話は終わらず、ピクリとも動かない体のままでひとしきり説教を受けるはめになってしまった。
それを見て、ユキだけが満足そうにしていた。
「今から解除するけど、暴れないでよね。それと、ユキのことも考えてあげなさい。」
「「はい、ごめんなさい。」」
ここは素直に謝っておいた。
「ユキもごめんね。」
「キューゥ。」
満足そうなユキの背中に戻り、身を預ける。
無理に動いたせいで余計にしんどい。
そこでまだ正座しているリーベがふと疑問を口にした。
「その、師匠。さきほどの、私たちを固定させたのはどういうものなのですか?」
それはユーヒナも気になっていた。魔法でもなさそうだし、特殊なスキルかと思ったりもしたが、まずユーリンのステータスを何一つ知らないので、一つぐらい知っておきたいと思った。
「あー、あれね。あれは"言霊"よ。精神に直接干渉するスキルを強化させたものね。うまくやれば、抵抗もできるはずだよ。まあ、させないけどね~。」
精神に干渉するスキル……。
「ねえ、ユーリン。私の誘惑眼も精神に干渉するスキル?」
「そうだよ。鍛えられていないから、私のほど強制性がないんだと思うよ。」
いいことを聞いたかもしれない。
このスキルを鍛えて、リーベでも抵抗できないぐらいの強制力を持たせれば、こてんぱんにできる。
クッククッククー。覚悟しておけ!
「あ、鍛えるのは自由だけど乱用はダメだよ。反感も買いやすいし、精神に干渉するだけあって危険なものにはかわりないから。きちんと、制御できる範囲でしか使っちゃダメだからね。」
クっ。
先手を打たれてしまった。
このままでは、私のリーベ服従計画が完全に破綻してしまう。
しかし、ユーリンにここまで忠告されてしまうと、さすがにする気はなくなってしまった。
「ヒナはね、顔に出やすいのよ。さっきの時もめっちゃ悪い顔してたしね。どうせ、リーベを僕にしようとでも、考えてたんでしょ。」
「何でそこまで!」
「そ、そんなことを考えていたのか!」
「はっ!認めちゃダメでしょ、私!」
ユーリンのネタバレに加え私の自白までを聞いて、リーベがすごい顔をしている。
「バレバレなのよ~。」
そんな私たちをお構いなしに、ユーリンが口笛を吹きながら、ユキの頭にフワフワ戻る。
それとは対照的に、リーベから怒りのオーラがハッキリと見えてしまう。
まいったな。リーベに私の計画の全貌がばれてしまっては、実行はほぼ不可能ではないか。
その間もリーベの怒りは増えている気がするし。
「クヒヒヒヒ。師匠に怒られたため、今は見逃しますが、いずれは覚悟しておくことですね。」
「チッ。」
「なんてはしたない。」
「うるさい、バーカ。」
「私は大人ですのでその程度では怒りませんよ。」
「マザコン」
「マザコンの何が悪いのですか?ユーリン師匠はもう私の母です。」
「チッ。もういいわよ。計画についてはあきらめてあげる。」
「諦めなくてもいいですよ。どうせ無理ですし、ねえ。」
「ウフフ。よく言うじゃない。」
「クヒヒ。事実ですから。」
「はーい!そこまで。しょうもない喧嘩はよそでやってくださーい。私とユキはこれから、"家族"の話をするから。ほら、シッシッ!」
追い払われそうになったので、仕方なくおとなしくすることにする。
この貸しはいずれ――クックックー。
はっ、いかん。顔は普通に顔は普通に。
そのせいで、変な顔になっているのはヒナ本人は気づいていない。
ユーリンの進行のもと家族会議が始まった。
「えーと、まず家族構成についてだね。さっき出たのだと、私が母。パルダリスが私の弟。ヒナが長女、その弟(長男)がリーベ。ユキがヒナの娘。」
「わーお。これだと三世代家族だね。」
私を中心にして言うと、
母 ユーリン
叔父 パルダリス
ヒナ
弟 リーベ
娘 ユキ
という構図になる。
で、問題はリーベが弟というところ。
ユーリンもこれでいいと言っているのに、リーベが全然納得しない。
「どうして、私が弟なのですか!私の方が年上です。」
「いやいや、年齢より中身だって。私の方が大人びてるし。」
「そんなことはありません。」
ここで譲ると下になってしまいそうなので、私も譲れない。
さっきと同じでまたここで詰まってしまう。
「じゃあ、どうやって決めようか?」
「強い方。」
「私もそれでいいと思う。それなら私が姉だしね。」
「私が勝ちますのでご安心を。」
「あー、ダメダメ。それはなし。破壊活動はもう容認できません!それに、決着がついたときにはどちらか死んでそうだし。」
折角ぶちのめせると思ったのに。
リーベも同じらしく、悪そうだった顔が、残念そうに変わっている。
しかしユーリンに却下されてしまっては別のを探すしかない。
「んー。じゃあ他なにかある?できるなら当事者で決めといて欲しいし。」
「長距離走、はどうですか?」
「やだ。絶対私が負けるし。」
「チッ。」
「汚いのよーだ。」
「ハイハイ。わかりました。あなたは体力ないですもんね。」
いちいちイラつく態度だが、ユーリンに怒られるのは嫌なのでそこらへんにしておいてやる。
「じゃあ、腕相撲は?」
「あなたの意見に従うのは癪ですが、確かにそれなら純粋な力勝負で、大事にもなりにくいですね。」
「よし。じゃあそれで。」
ユーリンの許可ももらい、腕相撲で勝った方が姉または兄となる。
「いつやるの?」
「今でいいんじゃない。私は今でいいし。」
私が今でいいと言ったことに、なぜかリーベは驚いていた。
「いいのですか?まともに動けもしない状態なのに。」
「ええ、いいわよ。今でも勝てるしね。」
「ご冗談を。負けたときの言い訳のための間違いでしょう。」
「そう思ってくれても結構よ。」
「クヒヒ。では遠慮せずにそうしましょう。」
「勝負は一本勝負!見届けにんは私、ユーリンがします。」
そうして、私とリーベの腕相撲が始まった。
勝負は一瞬でついた。
結果から言うと、私の勝ちだ。
開始と同時に神能力解放をし、一気に叩きつけてやった。
リーベがもっと警戒していたら、拮抗してしまっていたかもしれない。
「私の勝ちね。」
叩きつけた衝撃で砂埃が舞うなか、勝利を宣言する。
無事勝てて満足な私とは真逆で、リーベは完全にうちひしがれていた。
「そ、そんな。私が、負けた……。クっ、も、もう一回です。もう一回お願いします。」
「やだよー。先に一本勝負っていってたし。」
「くっ、そう言われると……。」
「ドンマイ。」
そっと慰めてやるつもりが、油を注いでしまったらしく、逆に暴れだしてしまった。
しかし、瞬時にユーリンに拘束され、今ではきれいに正座させられている。
「というわけで、勝者はヒナ。リーベも生意気いい続けるのはやめましょう。」
ユーリンに宣言されたせいか、リーベは反抗せず素直に弟になることを受け入れてくれた。
そこでいっておきたかったことを何個か言っておく。
「私のことあなたって呼ぶのやめてよね。ヒナって名前で呼んで。別に敬称をつけろとかは言わないからさ。」
「……わかりました。」
「あ、あとお堀の修理手伝ってよね。折角作ったのをリーベが破壊したんだから。」
「し、しかしあれは――。」
「つべこべいわなーい。壊したんだからその責任はとってくれなきゃ。」
すっごい嫌そうな顔をしていたが、ユーリンに一言「手伝いなさい」と言われると渋々了承した。
「フゥー。私の言いたいことはそれだけ。」
言いたいことは言えたのでユキの背中に戻り、くつろぐ。
さっきの腕相撲のせいでさらに疲労はたまっている。
「では、これで家族会議をお開きとします。」
「キュ――!」
ユーリンの一言で家族会議が終了した。
ユキの嬉しそうな鳴き声が最も印象的だった。
なにげにユキが家族の誕生に一番喜んでいたのかもしれない。
睡魔が襲ってきたので、今日はそのままユキの背中で寝ることにした。