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新しい家族


()()()!』


凛とした声が響き二人は空中で固定された。

誰が何をどうやったのかもわからない。そのせいで、余計に焦りが出てくる。


「ど、どうなったの?体が動かないんだけど?君が何かした?」

「いえいえ。私の体も動きませんゆえ、そちらが何かしたのでは?」

「してないわよ!」


二人で言い争いをしていると、かわいらしい鳴き声が聞こえてきた。


「キュッ、キュー!」


ユキだ。森の方からかけてくるユキが見えて少々安心した。

その背中にはユーリンものっている。


「ユキー!あ、ユーリンも。こっちこっち。ねえ、これどうなってんの?」


ピクリとも動かない体のまま聞いてみる。ユーリンなら何かわかるかもしれない。

心配そうな顔で私に寄り添ってくれるユキと正反対で、ユーリは呆れ顔をしている。


「はあー。あんたらは一体なにやってんのよ!平野に森に破壊しすぎよ!ヒナはともかくとして、蛇!あんたが守るのはこの平野そのものでしょ。」


たしかこの蛇には地域守護者(エリアボス)の称号を持っていた。その名の通り、その地域を守る守護者なのだろう。

それならば、ユーリンが呆れるのも最もだ。

呆れているユーリンとは正反対に、蛇は流暢に喋り出す。


「おお、これは師匠よくいらしてくれました。もてなしもできずに申し訳ございません。私めがすぐにこの小娘をぼこぼこにいたし、そのあとで師匠を歓迎したいところなのですが、謎の拘束により動けない状態でして、この拘束を何とかしてほしいのです。さすればすぐにでも――。」


私がぼこぼこにされるみたいな前提で話続けるのにイラッとしたが、この蛇がユーリンを師匠といっている所に気がいった。


「え、ユーリンこの蛇と知り合いなの?」


ユーリンが答える前に蛇が邪魔するように吠え始める。ほんと、よくしゃべる蛇だ。


「呼び捨てなど許せません。貴様を今すぐにバラバラにして差し上げましょう。師匠、この固定をすぐにでも――。」


物騒なことを言い出した蛇をユーリンが拳でこづく。


「喧嘩はしない!この拘束は私がしてるんだから、二人が落ち着くまでは絶対に解かないわよ。」


ほんとまったく……とぶつぶつ呟きつつ、平野のへこみや穴を慣れた要領でもとに戻していく。

草などはない状態だが、それ以外は何もなかったかのようにもとに戻っている。

神獣が昔、よく破壊活動をしていたといっていたがもしかするとユーリンが後始末を全てしていたのかもしれない。


「まず、ヒナ。その能力解放を今すぐやめなさい。また動けなくなるわよ。んで、蛇。もう少し落ち着きなさい。さっきも言った通り喧嘩はしない。この子を殺すなら、先に私があなたを殺すわよ。」


ユーリンの指摘で戦闘時のそのままにしていたのを思いだし、急いで能力解放を解除する。

すると、すぐにとてつもない倦怠感が襲ってきて今すぐに横になりたいと感じるほどになってしまった。

しかし、体は依然空中で固定されているので、ただただしんどい。


こうなることはわかっていたことだが、やはり慣れないし、しんどい。

何より早く横になりたい。

明日ぐらいからは動くのも大変になるかもしれない。


蛇の方は仕方なくというように、殺気を小さくさせていく。

姿も蛇から人型に戻しており、顔の仮面が少々シュンとしている。


「落ち着いた?解除した瞬間暴れるとかやめてよね。まあヒナは動けないでしょうけど。」


念を十分に押してから、ユーリンが拘束を解除する。


「フゥー。ではそこの小娘を血祭りに――、グフッ!」


蛇が言い終わる前に、後方に吹き飛ばされる。

言わずもがなユーリンの一撃だ。

拳から湯気のようなものまで出ている。

さすがの一言につきる。

蛇でも反応は不可能だったのだろう。

内心ざまあみろと思ったのは口には出さないでおく。


倒れこむ直前に、ユキに受け止められ、今はユキの暖かい毛皮の上に寝そべっている。

抱き枕のように抱きつき、撫でてやる。

うれしそうに鳴くユキをあやしてやる。

ユキも今では大分大きくなっており、私より大きい。

獣から、聖獣へと進化しており、種族も妖狐になっている。

全身は純白で神々しさもある。

尾が三本に増えており、その尾のモフモフ具合が最高なのだ。


ユキの耳をくすぐってやりながら、ユーリンにもう一度尋ねる。


「あの蛇、知り合いなの?師匠!とか言ってたけど。」

「うーん。そうね。一応は弟子…よ。」

「何でそんなにしぶってんの?」

「いやー、だって弟子って言ったって100年以上前のことよ。それに、教えたのだって剣技だけだし、たった2年の間だけだし。忘れてるって思うじゃん。」

「2年も一緒にいれば普通忘れないよ。師匠とかいうようにもなれば、余計覚えてるもんだよ。」

「そういうもん?」

「そういうもん。それにユーリンでさえ覚えてるんだから、覚えてるに決まってるよ。」

「ふーん。今地味に私のこと煽ってなかった?私は忘れっぽい馬鹿だって。」

「し、してませんよ。長命なユーリンでも覚えてるからって意味であって、そ、そんな意味は微塵もございません。」


嘘である。ユーリンの性格的に忘れそうと思っていた。


「まあいいけど。忘れっぽいのは事実だし。」

「え、じゃあ、何であいつのことそんなしっかり覚えてるの?」


質問した直後にやらかしたと気づいたが、時すでに遅し。

余りにぶしつけに聞きすぎた。


ユーリンの拳が私を捕らえ、ユキの上から飛んでいく。

地面に数回叩きつけられ、やっと止まる。

……動けない。受け身もとれなかったので、あばらの一本ぐらい折れたかもしれない。


ユキが心配そうに鳴きながら大慌てで駆けつけてくれる。ユキに抱きつき、元の位置まで連れてってもらう。

乗り心地も最高だ。

まるで、最高級の乗り物の上で最高級のベッドに寝転がっているような感じだ。

ユキがおろおろしているので大丈夫と伝えつつ、ユーリンのもとまで戻ってもらう。


「で、さっきの質問の答えだけどね――。」

「え、謝罪もないの?」


ぶん殴られたのだから、一言ぐらい謝罪か慰めが欲しい。


「自業自得よ。それに怪我もどうせもうなおってるでしょー。」


折れたと思われるあばらもすでに直っており、痛みはほぼない。

しかし、それのせいで倦怠感は増えた。

ちぇッと思いつつ、ユーリンの続きをユキの上でのんびりと聞く。


「あの蛇を覚えている理由だけどね、見たらわかると思うけど、あいつ、めんどくさいのよ。大袈裟だし、自己中だし、相手してて疲れるのよね。あんなめんどくさいやつを忘れろって方が無理よ。忘れられときたかったのに……。はぁー。」


なんとなくわかる気がする。

ユーリンがポツリと呟く。


「このまま、戻って来なかったらいいのに……。」


ユーリンの顔は諦めを通り越し、死んだような顔にまでなっている。


「漏れてる、心の声が漏れてるよー。」


はっとしたようにユーリンが正気に戻る。


「冗談、冗談!ハハハは!」


ニコニコしているが目が笑っていない。本気なのは、まるわかりだ。

わからんでもないが、ユーリンを見てると、よっぽどひどいのだろう。

しかし、ユーリンの願いもむなしく、もうスピードで蛇が帰ってくるのが視界のすみに入ってきた。


私たちの目の前でまたも急停止し、大量の砂ぼこりをあげる。

私たちがむせかえっているのを気にもせず、喋り出す。


「ひどいではないですかさっきのはほんの冗談だったんですよ。」


こいつも言葉には笑いが含まれているが、仮面のしたの顔はピクリとも笑っていないだろう。


「あんたのは全く冗談に聞こえないのよ。」

「ひどいじゃないですか師匠。私はそんなやつではございません。」

「はあー。わかった。冗談だったということで。」

「クヒヒ。ありがとうございます。それで、師匠。この小娘とはどういったご関係なのですか?」

「家族。」


ユーリンはそっけなくいったが、私にとってはとても嬉しかった。

いつも一緒にはいるが、そこまでの仲と思ってくれているのが私の心を嬉しくさせたのだ。

私が嬉しく感じてる一方で蛇の動揺はとてつもないものになっている。


全身を震えさせ、口から泡まで吹いている。

しまいには、家族、か、俗。カ、カ、カゾ、ク?と呟きだし、崩れ落ちてしまった。


「ねえ、これ大丈夫?痙攣してるけど……。」

「大丈夫、大丈夫。大丈夫じゃなくても大丈夫。」


笑顔で大丈夫じゃないことを言うユーリンが少々怖いが、結局蛇もすぐに立ち直ってしまった。


「はあー……。」


ユーリンが壊れないことを願おう。


「そ、その家族というのは本当なのですか?」

「本当よ。それとも私が嘘をついてると言いたいの?」

「め、滅相もございません。ただ信じられないだけでして。その、もう少し詳しく教えていただきたいのですが。」

「はあ。わかった、わかったわよ。」


ユーリンがめんどくさそうに私とユーリンたちの出会いを蛇に教えてやった。


「そ、そうでしたか。家族、家族ですか。羨ましいですね……。」


蛇がボソリと小声で呟いただけだが私とユーリンにはハッキリと聞こえてしまった。

そんな寂しそうに言われると、こちらもしんどくなってしまう。


さっきゆーりんに蛇について聞いたときに、ついでに教えられたのだが、蛇が人に教われ死にかけていたところをユーリンが助けたのが出会いだそうだ。


エスタルセスネイクは蛇にしては珍しく、子育てをする。


自分の家族だったものは殺されたらしく、親代わりにしばらくの間育ててやったのがユーリンなのだそうだ。


こうも暗い過去があると、迂闊なことも言えない。

ユーリンをちらりと見てみたが、同じなのか、表情が少し固い。

蛇の表情も暗いままだ。


「キュ、クー、キュ――!」


そういえば、ユキも両親もいないのだった。

ユキが何を言っているのかはわからないが、言いたいことはわかる気がした。

私は何も言えなかったが、ユーリンが豪快に笑いだした。


「ハハハ、はあー。そうね、その通りね。ユキの言う通りだよ。」


ユーリンの明るい声が響く。


「蛇!」

「な、何でございましょう。」

「あんたの名前は"リーベ"、リーベ・ユフ・ボルニシカ。今日からそう名乗りなさい。それに、あなたはもう私の家族よ。」


ユーリンが一気に告げる。

そこにユーリンの温かさも感じられた気がした。

蛇も随分戸惑っていた。


「え、えと、それはどういう意味で――。」

「聞こえなかったの?私たちとあなたは家族よ!か・ぞ・く!わかった?」


リーベはしばらく呆けていたが、その意味を理解した途端、震えだしてしまった。


「か、家族。私に家族。最高の、よロコ、喜びに、ございます。名前までいただき、本当にありがとうございます。」


"リーベ"

たしか、ドイツ語で()という、意味だった気がする。

偶然か、ユーリンの知識か、どちらであろうとも、リーベにとってはいい名だろう。


泣きじゃくっていたのか、仮面から、涙のようなものが溢れており、最後の方は嗚咽まで混じっていた。

よほど嬉しかったのだろう。


私は少し複雑な気もしたが、ユキが横で嬉しそうに鳴いているのを見たら、素直に喜ぶしかなかった。

まあ、新しい家族が増えてうれしいのは事実だし。


そうこうして、私たちユーリン一家には新しい家族、リーベ・ユフ・ボルニシカが加わった。








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