9年後の毎日
甲高い音と共に、金属の擦れあう音が響く。
上段から振り下ろされる剣を最小限の動きで回避し、横凪ぎで切りかかる。
峰の部分で防がれ、流される。
相手の横をすり抜け、背後から突きを繰り出す。それも、弾かれ、逆に蹴りをもろにくらう。
衝撃を殺し、受け身をとり再度剣を構える。
しかし、視界には影もなく、首筋に剣の冷たい感触が伝わる。
「はぁ。降参…降参。」
「ふふん。やっぱりまだまだだね。受け身をとってからの構えまでが遅い。」
「ユーリンが速すぎるだけ。」
「この程度なら、出来る人はいると思うよ。」
「いるだけなら、そもそも会うこともないし!」
「まあまあ、いざというときのために…ね。」
「はあ。もう一本!」
もう一度、ユーリンと剣を交える。
その後も何度かやったが、今日も結局一本も取れなかった。
私は、ヒナ。15歳。この世界に来てもう9年目だ。
神獣の森での生活にも完全に慣れた。9年だからね、9年。
私は9年間一回も、平野より外に出たことがない。
良く言うと、箱入り娘だ。悪くいえば引きこもり。
さっきは、ユーリンに剣の稽古をしてもらっていた。
剣術は得意ではないらしいが、十分強い。あの小さい体で、良くこうも剣を振れるものだ。
まあ、そういう私も人のことは言えない。
さっきも紹介したが、私は15歳だ。
思春期に入り、考えが複雑になり反抗期などが訪れるお年頃だ。
体の成長が進み、胸が膨らんだり、お尻のお肉がついたり。そんな年齢のはずだ。
日本にいたとしたら、さぞかしモテモテな青春ライフを送っていただろう。
神獣にモテモテなのだから間違いない。
しかし、そんな私にも悩みはある。
私の心は年齢があがるに連れてどんどん成長した。
乙女チックな考えもするようになり、自分について考えるようにもなった。
体についても成長に喜んだり胸を見て、ニマニマしたりする、はずだった。
そう、はずだった、なのだ。
おかしい、実におかしい。
自分の体を良く見てみる。
長い黒髪の中に、童顔で大分幼稚さが残る顔が見える。目は大きく、深紅の瞳だ。
胸は平らで背も低い。手も小さくふっくらしている。
はっきり言おう。私の見た目は幼女よりの少女だ。
せいぜい、10歳より少し上程度にしか見えない。10歳の見た目じゃ色気もなにもない。
小さい可愛さがあるだけだ。
つまり、私は俗にいう、"ロリ"だ。
最悪としかいえない。
全然嬉しくない!私はロリコンに好かれたいんじゃない!
まあでも、見た目が幼い理由は分かっている。
『ステータスチェック』
種族;妖人
名前;ヒナ
年齢;15歳
種族能力
『古代ラセラウス語』『魔素吸収』
固有能力
『瞬間記憶』『誘惑眼』『神能力解放』『変形作成』
加護
『神獣の加護』『妖精女王の加護』
理由は簡単。私、人間やめました!
いつの間にかやめていた。本当にいつなのかわからない。
いつなったのかはわからなかったが、原因はわかっている。
『妖精女王の加護』の存在だ。
どう見ても、ユーリンがつけたものだ。
これに気づいたときにユーリンを徹底的に絞って、この加護について聞き出した。
妖精女王の加護……妖精女王から与えられる加護。魔法への絶対的な優位性を与え、精霊神聖法の使用を許可する。対象の進化先に影響する。etc.
というようなことが書かれている。これの影響を大きく受けたのだろう。
妖精の正体は精霊の管理者。精霊の最終進化先らしい。らしいとしかいえない程に、妖精とはよくわからない生物だ。
実体は精霊が成長したもので、大きさは手のひら大のサイズだ。
人化もできる。なんて、便利な!
しかし、ユーリンを見ていたら分かるように、妖精が普通に人化した場合幼い見た目の者にしか人化できない。やろうと思えば大人の大きさでもいけるが、効率は悪いらしい。
つまり、妖精という種族は、幼女にしかそうそうなれないということだ!
魔法の優位性を得られるのはこの上なく嬉しいが、進化先には影響してほしくなかった。
大人から見た私は、大人ぶった子供にしか見えないだろう。
まあでも今は良い。いつかは立派な大人になるだろう!
試しにいろんなポージングをしてみたが、結局かわいらしくしか見えない。
日が南の空に昇り、昼を告げる鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「おーい。飯じゃぞ。」
昼御飯ができたようなので、ポージングは早々にやめ、取り敢えずご飯を済ますことにした。
魔法を構築し、海に向かって放つ。海面で爆発が起き、大量の水しぶきをあげるが、すぐに、もとの平穏な海面が現れる。
私は今魔法の練習をしている。
昼食後の腹一杯の状態でだ。剣術と違って、体を動かすわけではないが、やはり腹一杯の状態ではしんどい。
眠気に耐えながら、ひたすらに魔法を放つ。
魔法を構築しながら魔法についておさらいしておく。
魔法とは、魔素を媒介にして現世に干渉することである。
体内に存在する魔素を認識し、頭の中で作り出したい物をイメージする。そのイメージを基に魔素を集め、形にしていく。
それを、一気に放出すれば、魔法が放たれる。最も簡単な打ち方はこのやり方だ。
大気中に存在する魔素を媒体にして打つことも可能だ。
大抵は、大気中の魔素を媒体にする。
量もほぼ無尽蔵で、高位な魔法を打つには、大気中の魔素を媒体にするしかない。
魔法の放ちやすさの違いに合わせ、魔法の種類("階位")、魔素の密度によって威力が変化してくる。
魔法の種類は最低の第一階位から無限にあると言われている。
しかし、現存しているのは、最大が第50階位までだ。
第1~5階位が最低位魔法。第6~10階位が低位魔法。第11~20階位が中位魔法。第21~30階位が上位魔法。そして、第30階位以上が超位魔法だ。
私は第37階位までは安定して使用することが出来る。
階位が上がれば上がるほど、難易度に加え、必要な魔素量も増えるため打つのは困難になってくる。
まあ、私には余り関係のない話で、高位の魔法も結構連発して打てる。
そして、もう一つ。魔法に近いもので、精霊魔法と精霊神聖法がある。原理は魔法とほぼ同じだが、
魔素の代わりに大気中の精霊を媒体にして魔法を放つ。
精霊や妖精の加護を持っていないと、使用できないため、行使できるものは少ないそうだ。
精霊神聖法は精霊魔法に神聖気を上乗せして放つ魔法だ。神聖気がなければ打つことはできない。
そのため、神獣の森では結構うち放題だ。
魔法のおさらいはそんなものにして、実践に入る。海に向けて、ひたすらに魔法を打ち、時々ユーリンのアドバイスを受けたり、あたらしいものを教えてもらい、それを打つ。
初めてのものはまず打てない。何回も何回も繰り返し、イメージを正確にしないと全く違うものができてしまう。
オリジナルのものも作れるらしいが、私はしない。一度考えたことがあるが、既に存在しているものだったし、十分な数の魔法が既存しているし。
最近では魔法の訓練も結構作業みたいになっている。
しかし、打てば打つほど、上手く強くより早く打てるようになるため、やってて楽しいのも事実だ。
平野での実践は爆発などが起きて結構楽しいのだが、海に打つときは、少し虚しくなる。
日が傾きかけた頃に訓練は終了した。
これからの時間は、夕御飯の調達だ。狩りは結構しんどい。探しても見つからないことはあるし、逃げられもするし、同じのを狩り続けると、影響が出るし…。
めんどくさい。こういうとき人間様達の養殖という画期的な食料調達法には憧れる。
やろうと思ったが、無理だった。
ちっぽけな頭の私には無理なんですヨーダ。いずれ人の国にも行くからそのときまでの辛抱だし。
無事良い獲物を見つけられることを願い、狩りの準備をする。
ユキには森に生えている野草を取りにいってもらった。
嗅覚の発達しているユキのほうが
野草採取には向いている。
私は神獣と共に海で狩りをする。
海の魔物は総じて強い。そのため、狩りも対魔物戦の訓練みたいになっている。今の私には浅瀬の魔物が精一杯だ。沖に出ようものならば、化け物に喰い殺される未来しかない。
浅瀬周りを飛び回り、ちょうど良い獲物を探す。
水中を漂う魚影を見つけ、追跡する。水面付近まで来たときに、目視で魔物を観察する。
しばらく追い続け、やっと確認できる距離まで、移動してくれた。
"鑑定"
種族;エステロニク
種族能力
『絶対防御』『防御強化』『超速再生』
この魔物はよく知っている。
鯨のような見た目と大きさをしており、浅瀬周りでは、最強に等しい存在だ。
ダメだ。こいつではダメだ。狩りで狩るような相手ではない。己の全てを出して、挑むような相手である。
一度だけ、狩りで狩ろうとしたことがある。見た目は鯨のため、簡単に狩れるだろうと思っていた。
攻撃はほとんどしてこない。たまに魔法を放ってくるぐらいだ。
じゃあなぜ勝てないのかって?
理由は簡単。
固すぎる!
種族能力からわかるように、超防御特化だ。私の攻撃でも掠り傷しか与えられない。
しかも、その傷も一瞬で再生する。
魔法や剣、素手、色々試し、全てを出して攻撃したが、重症を与えることもできず、あげく逃げられた。
沖に出てもそうそうのことではやられないだろう。
じゃあなぜ浅瀬にいるのか。
あくまで私の予想だが、攻撃が弱いせいだ。それゆえに沖では餌が全く手に入らないのだろう。
浅瀬にいて困ることもなく、神獣にとっては助かっているらしいので、放置されている。
神獣いわく、『浅瀬の要塞』だそうだ。
エステロニクスは諦め、別の獲物を探す。
苦労せずにもう一匹、見つけることができた。
特徴的な背ビレを海面から突きだし、もうスピードで泳いでいる。
急いで追いかけ、狙いを絞る。
"鑑定"
種族;メシスシャーク
種族能力
『高速再生』『速度強化』
鮫がたの魔物で、動きが速い。
高速再生持ちで、生半可な攻撃ではすぐに再生される。
しかし、逆にそれだけの魔物なので対処の仕方は色々あり、狩りやすい魔物の一種だ。
高速で遊泳するメシスシャークを自分の最高速度で追跡する。
「第21階位 熱光線!」
海面から突き出た背ビレを貫き、部分的に炭化させる。
体勢を崩し、スピードの落ちたメシスシャークに銛を突き刺す。
すぐに背ビレが再生し、さらに速度が上がる。
銛の柄の部分にはロープがつけられているため、私から逃げることはできない。
後はほぼ作業だ。
獲物の体力が尽きるのをひたすら待ち、止めを刺す。それだけだ。
全力で逃げようとしているメシスシャークは哀れにも感じるが、私も逃がすつもりはない。
ロープを離さないよう力を込め、引っ張られるがままにする。
数十分後、メシスシャークの勢いが落ちてくる。
当初の勢いは既になくなっている。ロープを引っ張り力業でメシスシャークの動きを止め、空気中に引き出す。
空気中に出たことで更に暴れだすのをロープが切れないようにする。
口から放たれる魔法を避け、逃げられないよう、さらに3本銛を突き刺す。
銛の傷もすぐに再生されるが、銛が抜けることはないので気にしない。
ロープを体に固定し、魔法をぶちこむ。
「第17階位 斬撃!」
魔素の刃が獲物の体を両断する。
高速再生による再生が起きようとするが、再生には至らず、痙攣し絶命する。
体力のつきた状態では高速再生もまともに機能することはない。
それに致命傷なら再生も意味を為さない。
ロープにかかっていた力が一気に抜ける。落とさぬように巻き上げ、尻尾をつかむ。
頭の方は神獣に預けた。
海岸まで運び、解体を始める。
頭を落とし、三枚に卸し、内蔵を取り出し海に捨てる。
初めはグロすぎてなかなかできなかったが、最近ではもうなれてしまった。今ではヒナのの特技のひとつだ。
合計6枚できた切り身をユーリンからもらった魔法袋に入れる。
この魔法袋はすごい。小さい鞄程度のサイズなのに、メシスシャーク3匹分ぐらいの大きさが鞄の中に広がっている。試しに入れたから間違いない。
まるで四次元ポケットだ。
海岸に飛び散った血を綺麗に流し、森の家に帰る。
「ただいまー。」
「オー、おかえり。」
揚げ物をかじりながらユーリンが出迎えてくれる。
出迎えてもらえるのは非常に嬉しい。孤児院ではあり得なかったことだ。
部屋の奥を見ると想像通りの有り様が広がっていた。
漫画が至るところに散らばり、揚げ物のかすで床がテカっている。布団もぐちゃぐちゃになり、足の踏み場を探す方が大変だ。
床の散らかり用を踏まぬよう浮遊し、奥の台所に魔法袋を置く。
狩りに出掛ける前に、ユーリンには片付けを命じていた。
が、部屋の様子は狩りの前よりも明らかにひどくなっている。
「片付けといてって言ったじゃん。」
「いや~、ね。片付けたんだよ、一応。片付けてるうちにこうなったわけで…そう!これが片付いたの完成形なのだよ!」
「そんなわけないだろ!」
ベッドの上でブツブツと丸まっているユーリンに悪態をつき、手前のゴミ山を奥に避ける。
「はぁ…。後はやるから一旦出てけ!ユキもそろそろ帰ってくるし。」
「了解ノスケ~。」
ユーリンは片付けができない。
何回させても、綺麗にはならない。剣に魔法に勉強に色々優秀でも、生活力がない。そこだけが残念だ。
ユキもちょうど帰ってきた。
私も真剣に片付けを始める。
漫画を本棚に置き、布団をはたき、床をはく。結構狭い部屋なので、片付けは意外と楽だ。
そこから、夕飯の準備を始める。
メニューは超シンプル。
メシスシャークの塩焼き、ユセコウソのフライ、野草のサラダ、パンの実だ。
残念なことに誰も料理ができない。私も調理法なんてほとんど知らない。
焼く、煮る、揚げる!味付けは塩、香草のみ!
食事はとても物足りない。
マク○ナルドが懐かしい。
人間様達のご飯が美味しいことを願うしかない。
パンの実はこの森における唯一の菓子要素を持っている。
パンの実は名前の通り、木からパンができる。
食パン、アンパン、クロワッサン、チョコパン……等々。
ヒナたちのの食の救いだ。
個人的には、クロワッサンが一番好きだ。チョコパンなどは実りにくく、たまにしか食べられないため重宝してもいる。
今日のパンはクロワッサンだったので、ヒナの気分は良い。
質素だけど、美味しいご飯だった。
後片付けを済ませ、最近の趣味にはしる。
最近は漫画を書いている。
紙はユーリンが作ってくれるので、紙の量に合わせ、どんどん書いていく。
『瞬間記憶』と日々の努力のお陰で日本の漫画も大分正確にかけるようになった。
読んだことのあるものをどんどん書いていく。
進○の巨人とか、僕のヒー○ーアカデ○アとか、化○語、○魂、等々。
書きながら、当時の私結構グロいのも読んでるなと驚いた。
著作権?なにそれおいしいの?
この世界に著作権はない、きっとない。ないと信じている!
トランプや人形も作れるようになった。
オリジナルのものも書いたりした。
ユーリンもそこそこ楽しんでくれているし、失敗作ではないと思う。
2、3枚書いたところで眠気が襲ってきたので、ユキでモフモフしながら寝ることにした。