処理
「ヒナー、起きろ。時間だ。」
「もうちょっと。」
「だめだ。おいてくぞ。」
「テナスの鬼畜ー。」
俺は鬼畜じゃないと言いつつ、無慈悲にもユキの隙間からヒナを引っ張り出す。
「ガマニ達は?」
「もう起きてる。」
テナスは随分と軽装だった。シャツにニッカポッカのようなズボンを履いており、昨日着ていた軽鎧は脱いでいた。軽鎧を着ているときは分からなかったが、改めて見るとテナスも引き締まった肉体をしている。上のシャツが薄手なせいで、余計に強調されている。
「今何時?」
あくびが止まらない。目にかかる前髪を払い、髪の毛を横に避ける。
「顔ぐらい洗ってこい。」
「んー。」
重い体をなんとか起こし、すぐ側の小川に顔を突っ込む。水の冷たさが顔に染み渡る。目周りのシバシバした感じがなくなる。勢いよく顔を上げ、髪についた水気を払う。びしょびしょになった髪をテナスからもらったタオルで拭き取る。
風魔法で乾かしながら、テントに戻る。
ガマニもテントから出てきており、テナス同様軽装だった。タンクトップに緑色のアーミーパンツ。重装甲をうえから着たら昨日の戦闘服になるのだろう。
「おはよう!」
「おはよー。」
「ヒナも朝飯食うだろ?」
ガマニはジャムとチーズをのせた保存用パンをかじっている。あまり美味しそうには見えない。
「うん。」
ガマニからもらったのは、ガマニが食べているパンとジャム、チーズにビーフジャーキー。
ガマニと同じようにパンにチーズとジャムをのせかじる。
意外と美味しい。パンはモサッとしているが、味がしっかりしており、何よりチーズとジャムの相性が良い。
ビーフジャーキーは硬かったが、塩味がよくきいており、普通に食べれた。
「ありがとな。」
「何が?」
ガマニが突然あらたまって感謝を述べた。
「昨日、ヒナが来てくれなかったら、正直なところ危なかった。本当に助かった。ありがとう。」
「いいっていいって。怪我させた後ろめたさもあったし。」
「はは。確かにボコボコにされてたな。先に手を出したのはこっちだしな。それでも、俺達は感謝している。また何かお礼させてくれ。」
「あと魔物の死体もな。一部片付けてくれたこと感謝する。」
テントから自分の分の朝食を持ってきたテナスも交じる。
「テナスまで、かしこまらないで。」
「はは。諦めて受け取ってくれ。」
「何か、こう、むず痒い。」
恥ずかしいのを誤魔化そうとビーフジャーキーをかじる。奥歯で無理やり噛み切り、口の中でふやかす。
やっぱり、少し塩辛いかも。
「そういえば、ユエは?」
ユエが既に起きていることは聞いたが、ヒナが起きてからまだ一度も見かけていない。
「ユエなら、あっちで売れそうな素材を探してる。」
「昨日の魔物の?」
「ああ。魔物の素材は貴重だからな。そこそこに高く売れるんだ。まあ、質によるけど…。」
ビスケットをかじり、水筒の水を貰う。
「そんなに貴重?」
「貴重だ。養殖もできないし、一般人じゃ狩ることもできない。猟師でも難しいからな。まともに魔物の素材を入手できるのは一部の冒険者とか、軍の対魔班ぐらいだ。」
テナスは残りのパンを口に放り込み、咀嚼する。
「へぇー。それなら冒険者儲かりそうなのに。」
「それがそうもいかないんだよ。素材1つ1つは高価でも、量をとれないから生活するには微妙に足りない。狩るのにも金がかかる。結局、冒険者ってのはそんな不安定な仕事さ。」
世の中世知辛いねー。高いものほど数は少ない。増えれば今度は価値が下がる。まあ、私が今考えても仕方のないことだ。
「私もちょっと魔物見てくる。」
どんな素材を集めてるのかが意外と興味ある。今まで食べる相手としか見てこなかったから、素材の価値ははっきり言って全くわからない。今のうちに少しでも知っておけたら、後々役に立つ。
「おう。気をつけてな。あと、何体かは腐ってるかもだから、臭いにも気をつけろよ。」
「はいはーい。」
羽をだし、昨日の場所まで一気に飛行する。
ユエはすぐに見つかった。デガニモナスの巨体をバラバラに解体していた。
血溜まりが生じ、魔物独特の血の臭いが漂う。四肢、胴、頭に分解され、デガニモナスは原型をほとんどとどめていない。
ユエの横に降り立ち、作業を覗き込む。結構綺麗に切り分けられていて、無駄がない。
「上手じゃん。」
「まあね。おじさんに叩き込まれたたから。」
「おじさん?」
「そう。私の育ての親のお兄さん。筋骨隆々の超マッチョ。」
切り取った角についた肉片を炙り、削り取る。水洗いをし、綺麗に拭き取る。真っ黒なデガニモナスの角があらわになる。反対の角も同じように炙る。
「ふーん。好きなんだ。」
ユエが勢いよく顔を上げた。ニヘラとした薄い笑みを浮かべている。
「残念だけど違うよー。大好きだし、尊敬はしてるけど、loveじゃないから。」
日は既に昇り始めているが、雲がかかるとまだまだ薄暗い。
頭の解体が終わるまではユエの作業を見守ることにした。
デガニモナスの解体が終わり、ユエの指示の下、周囲の魔物からもひとしきり素材を回収した。
「よし。終わり!あとは、埋められる分埋めようか。」
解体された魔物はある程度一箇所にまとめられ、悪臭を放っている。夏の暑さで一部は既に腐り始めている。焼却するのが理想だが、この数を燃やし切るのはヒナでも骨がおれる。
ヒナも協力し、どんどん死体を埋めていく。ユエの土魔法は繊麗されていた。おかげで随分あっさりと処理し切ることができた。




