テナスとユキ
けたたましいサイレン音がテナスを襲った。
テナスは数秒もせぬ内に飛び起きた。眠気の残る頭を叩き起こし、状況を把握する。依然騒がしいサイレン音がテナスの耳を刺激する。
「ガマニ、ユエを叩き起こせ。」
同じく飛び起きたガマニにユエを起こさせる。非常時のサイレンが鳴り響こうとも我関せずに眠っているユエをガマニに任せ、片手剣のみを手にテントから這い出す。
警報の原因はすぐにわかった。ちょうど、テント付属感知装置の感知可能範囲限界、30メートル先に、魔物の大群が見える。
見える限りでは、雑魚が大半だ。やろうとテナス一人でも何とか切り盛りできる程度だ。しかし、魔物が種族関係なく固まって動くことはまずない。
あるとすれば、絶対的強者に張り付いて動いている、その可能性が最も高い。
その場合ならテナス一人で攻勢に出るのはリスクが高すぎる。ゆっくりと考えている余裕はない。まず、迫りくる魔物勢の進路を変える必要がある。
「わお。すごい数だね。」
眠気を感じさせないユエの後ろから、ガマニもテントから出てくる。
「どうする、テナス?」
ガマニも既に臨戦態勢に入っている。余計なことは言わず、作戦の概要を手短に伝える。
「まず、あいつらの進路を変える。ユエが、魔物郡進路前方に斜めに土壁を形成。でき次第、ガマニと逆側から魔物郡の後方へ回れ。おそらくそこにこの大群を引き連れる原因がいるはずだ。対処可能ならそのまま対処。無理なら、こちらに引き返してくれ。俺はここで雑魚を殲滅する。作戦は以上だ。なにか質問はあるか?」
普段はお調子者のユエも無言で頷く。ガマニに笛だけを手渡し、何かあれば吹くようと吹けばヒナが応援に来るとだけ伝えておく。
「よし。では、行動開始だ!」
一瞬で魔法の構築を終わらせたユエが莫大な魔素を大気中から引き抜き、地面を一気に隆起させる。
地面に触れたユエの手先から一直線に高さ3メートル程度の土壁が形成された。
ひとまずテントに直進されることはなくなった。
ユエが立て掛けていたボルトアクションライフルを背に背負い、先に駆け出したガマニを追いかける。
テナスは超音波発生装置の電源をオンにし、片手剣に加え、両手剣を片手に掴み土壁の端に向かう。つけておくだけで一部の魔物は近づきたがらない。
テナスが土壁の端についた頃には、先頭集団が土壁の中腹より先まで到達していた。片手剣を鞘ごと地面に突き刺し、両手剣を構える。
地面を踏み込み、勢いよく前に飛び出す。テナスの踏み込みに合わせて飛び出した四足獣を横一文字に叩き斬る。大剣の回転を活かし、大きく振りかぶる。
間近にいた数体の頭蓋骨が陥没する。すぐさま握りを変え振り上げる。後方に下がり魔物と距離を取る。
大剣を地面に突き刺し、片手剣に持ちかえる。再び魔物の群れに突っ込む。急所を的確に貫き、少しずつだが数を減らす。囲まれないよう周りから削っていく。
しかし、ジリ貧だ。テナスには範囲攻撃の手段がない。一体ずつ少しずつ減らすしか方法がない。しかし、削っていくにつれ、連携する魔物も出てきており対処も難しくなっている。
一度後方に下がり、大剣を抜く。前方の魔物を切り捨てる。
突如、テナスの視界に純白の巨体が猛スピードで接近するのが入った。
冗談ではない。テナスの心に多少ながら焦りが生じる。この状況下で新たな大型の魔物の対処は不可能だ。ガマニもまだ戻ってきていない。おそらく対処可能だと判断したのだ。これならヒナの笛を自分が持っていれば良かった。
しかし今更後悔しても遅い。リースだけを連れ、拠点を放棄することも視野に入れておく。
接近する白い巨体はテナスめがけ、一直線に向かってくる。テナスは更に後方へと飛び退き、土壁の奥へ回り込む。
テナスが土壁に隠れた直後、前方を猛烈な風を伴いながら白い巨体が駆け抜けた。大量の魔物が吹き飛ばされ空を舞う。巨体が通り抜けた足先から凍りつき、吹き飛ばされなかった魔物も氷の塊に成り果てている。
一瞬で半数近く魔物の数が減った。白い巨体がすぐに折り返し、再び魔物を吹き飛ばす。
テナスは吹き飛ばされぬよう土壁に隠れる。飛ばされてきた魔物を片手剣で叩き斬る。
白い巨体は大きく旋回し、テナスの方ヘ減速しながら駆け寄った。巨大な妖孤だった。尾が5本あり、体は3メートル近くある。テナスは片手剣を素早く構え少しずつ距離を取る。巨体による圧迫感と圧倒的強者の存在感がテナスを萎縮させる。
「ク―――!クゥー。クゥゥ…。」
片手剣を構え直すテナスに対し訴えかけるように白い獣が鳴く。鳴くのに合わせて獣の体が縮みだし、猫程度のサイズにまで小さくなった。
「キュー!」
圧倒的な存在感を誇っていた狐が今では可愛らしい小狐のように、片足をあげテナスにアピールする。
「ユキ…か?」
よく見るとヒナが連れていた狐の魔獣にそっくりだった。ヒナと一緒にいたときはずっと小狐サイズだったので巨体のときは全く気づけなかった。
しかし、よく見ると顔つきや耳の形、尾の数などユキと瓜二つだ。
「キュー!」
テナスの呼び声に合わせてユキが元気よく鳴く。テナスの足にすり寄ってくるユキがなんとも心強い。
しゃがみ込み、ユキに分かるように手振り身振りを交えながら戦い方を説明する。
「俺は右の人形7体をやる。ユキには左の異型8体を任せたい。頼んだぞ?」
「キュ!」
了承したとばかりに足をあげるユキを撫でる。
テナスは片手剣を構え、魔物目掛け疾走する。ふた回り程大きくなったユキがテナスを追い越し、異型に齧り付く。異型の腕が引き千切れ、どす黒い血が辺に飛び散る。
テナスは掴もうと伸びてきた手をすり抜け、内から肩を貫く。すぐに引き抜き、後ろにいた人形の喉を突き破る。首が千切れそうになりながら崩れ落ちる。
囲まれる前に後方に退き、ついでに肩を潰した人形の胸を刺し貫いた。
残り5体。大剣に持ち替え、かたまっている3体を横薙ぎにフルスイングする。重い衝撃とともに、手前にいた2体の胴体が切断され、残りの一体も右手に大きく吹き飛んだ。感触的に背骨は叩き折れた。死んではいないが動くこともない。
再び片手剣に持ち替え、および腰になっている2体の喉を素早く貫いた。
地面で呻いているのに止めをさし、息の根を完全に止める。7体全て息絶えたのを確認した。
いや、8体だな。ユキに吹き飛ばされた異型がテナスの構えた片手剣に深々と突き刺さった。
ぐったりと弛緩し死んでいるのが一目でわかる。
今吹き飛ばされたのが最後の一体らしく、ユキがテナスの元に駆けてきた。
「おつかれさん」
小狐サイズに戻ったユキを撫でる。器用なことにあれほど血肉を飛び散らさせていた割に、血の一適も付いていない。ユキの毛は先程のように純白のままだ。触り心地も申し分ない。
「キュー!」
元気よく鳴いたユキの一声がテナス達の勝利の合図だった。




